憂鬱はゴミ箱からやって来る。(誘惑だらけのニンフちゃん)

猫野 尻尾

第1話:ゴミ箱から出てきた女。

この物語の主役はもしかしたら地区の共同ゴミ箱かもしれません。


ある満月の夜、裏通りの地区の共同ゴミ箱から、ひとりの女の子がこの

人間界にやって来た。

そのゴミ箱は、どうやら異世界とつながってるらしい、いや誰かが意図的に

つなげたようだ。


なんでも数ヶ月前、ベンジャミンと名乗るサティロス「山羊」が異世界から、

誰かを追ってゴミ箱を異次元トンネルにして人間界へ来たらしい。

でも、ゴミ箱のトンネルの出口を中途半端に封印したもんだから、そこから

怪しいやつらがやってきて人間社会に溶け込んで密かに街を徘徊していた。


で、女の子も同じくベンジャミンが作ったその異次元トンネルを通って

人間界にやって来たってわけ。


その子の正体は精霊ニンフちゃん。

そして名前を「パン」って言う。


ニンフちゃんってのは伝承によるとギリシア神話などに登場する下級女神

「精霊」らしくて、山や川、森や谷に住み日々自然を守っている。

神のように完全な不老不死じゃないけど不老長寿なんだそう。


ニンフちゃんは性に特化した精霊で神や人間の男とセックスをして精力や

精液を体内に吸収して生きている。

だから男性とセックスしないと干からびて死んでしまうらしい。

根っからセックスに依存してるって言えるかもしれない。

ちなみに女性の異常な性欲亢進症・色情症のニンフォマニアってにはこの

ニンフちゃんからきている。


そしてニンフちゃんは基本的に裸・・・服を着るって概念も恥ずかしいって

概念も持ってない。

人間界でも服をきないからやっかい。

だから今、ゴミ箱から出てこようとしてるニンフちゃん、パンも当然すっぽんぽん

なわけで何も身にまとってない。


パンはゴミ箱の蓋を開けてはじめての人間界に出来ようとしていた。


その頃、曽我部 健斗そがべ けんとは友人に誘われて久々に居酒屋で酒を飲んで酔っ払って

陽気に歌なんか歌いながら自分のアパートに続く裏通りを千鳥足で帰っていた。


人がよくイケメンな健斗は大学では同級生の女子からも人気があったが

恋人はいなかった。

それと言うのも健斗は女性アレルギーと言う厄介なトラウマを抱えていた。


アレルギーとは言え女性との会話は普通にできるんだけど指一本でも触れると

たちまち身体中にジンマシンが出ると言う面倒くさい体質。

ハグなんかされた日には血圧上昇、動悸、息切れ、めまい、過呼吸の発作が

おきて下手するとアナフィラキシーショックで死んじゃうかもしれないのだ。


小学生の頃、近所に住んでいた根性の腐った年上の女に嫌がらせやいじめを

うけたことが原因で女性が苦手になったようだ。

男として女性が苦手って・・・明るいエロもない未来のない人生だよね。


酒に酔った健斗は鼻歌なんか歌いながら地区の共同のゴミ箱の横を歩いていた。


「完璧で〜嘘つきな〜ヒック・・・君は〜ゲブッ・・・う〜天才的な〜っと・・・」


そしたら共同ゴミ箱からゴトゴト音がしたので、ふと立ち止まった。


「ふん・・・こんな夜に・・・また野良猫が餌でもあさってるのか?」


そしたら、じわ〜っとゴミ箱の蓋を持ち上げて中から誰かが顔だけ出した。

夢でも幻でもなくましてや猫でもなく・・・それはまぎれもなく人の顔・・・。


「あ〜ん・・・なに?・・・人?・・・・うそ女?」

「ゴミ箱の中に女がいる?・・・あ〜はは、飲み過ぎたかな、俺」


ゴミ箱の蓋を開けて顔を出した人物が月明かりで少し薄明るく浮かび上がった。


「おう〜やっぱりおネエちゃんじゃん」

「いやいや訳ないよな・・・おネエちゃんがゴミ箱から出てくるはずないもん」

「・・・・・・・」

「ん〜でも、たしかに見えるよな・・・ぼわ〜って」


キミが悪いって言うより酒が入ってるもんだから気持ちが大きくなってる健斗。

好奇心のほうが勝っていた。

だから恐る恐る、その子に近ずいて声をかけてみた。


「あの・・・そこのおネエちゃん・・・だよね・・・ゴミ箱の中でなにしてん

の?こんな夜に・・・」


シラフなら、ゴミ箱の中の変な女に声なんかかけずにさっさとアパートに帰る

ところなんだけどね。


健斗はその人に顔を近ずけてよく確かめてみた。


「おお〜・・・すげえべっぴん、ってかどっちかって言うと可愛い系?」

「君、外人?」

「彼女のいない俺のために神様がゴミ箱に女の子を贈ってくれたのかな?」

「じゃ〜連れて帰っていいってことだよな?」


酔っ払ってるから好きなことを言っている。

だけど健斗は自分が女性アレルギーだってことをすっかり忘れていた。


健斗に図々しく品定めされた女の子がしゃべった。


「あの、外に出たいんですけど?出てもいいですか?」


「おう・・・一応日本語はしゃべれるんだ・・・」

「で?・・・出ていいかって?俺に聞いてる?」


「あなたと私以外、他に誰もいないみたいですけど・・・」

「それに、めっちゃお酒臭いです・・・あなた」


つづく。

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