冒険者なんだからドタキャンやめてよお!

ちびまるフォイ

信念なき冒険者たちの腐敗

「さあ行こう! あの森にいるゴブリンを倒すんだ!」


「ああ」


「あ、あれ? なんかテンション低くない……?」


「それよりさぁ」


すると仲間のひとりは何やら分厚い本を取り出した。


「実は俺、冒険者やりつつ本も書いてるんだよね。

 "How to 冒険者 -どうやって僕は年商1兆の冒険者になったか-"」


「今このタイミングで?」


「冒険者に行き詰まっているひとや、

 成長に限界を感じたひと、

 老若男女みんなにおすすめできる本だから」


「え、買えと? これからギルドの依頼をしにいくこのタイミングで?」


「あ、いいんだ。別に君が必要でなければ。

 でももし周りの人にそんなひとがいたら、ぜひ勧めてよ」


「宣伝じゃねぇか!!」


「あ、それと俺このあと別のギルドに合流するから。じゃ」


「え! あちょっと!」


ギルドで集めたパーティがひとり減ってしまった。


「ひとり減りはしたけど……。

 難しい依頼じゃないから、この人数でもできるよね」


「つかさぁ」


「今度はなに?」


「実はあたし、新しいアパレルブランド立ち上げたの」


「え?」


「冒険者のためのアパレル『Adventure』

 今なら同じギルドから紹介したひとにだけ

 先行オープン記念でお店や服を買えちゃうのよ」


「いやあんたも宣伝じゃねぇか!」


「あじゃああたしも次のギルドあるから」


「ちょっとまって! 依頼はまだ始まってもいないじゃないか!」


そうしてまたひとりが欠けた。

残されたのは自分ともう一人だけ。


「……あんたも、なにか宣伝する気じゃないだろうな」


「宣伝なんかしないよ」


「ああ、よかった。こころざしの低い冒険者ばかりでうんざりしてたんだ」


「ただ、俺は知人の紹介でパーティをやっていて

 ギルドの社長さんとかも来るからぜひこない?」


「怪しいパーティの宣伝じゃねぇか!!」


「っといけない。パーティの支度が! それじゃ!」


結局残されたのは自分ひとりだけだった。


「やるしかないのか……」


もともと4人でこなす予定の依頼をたった1人で。

ゴブリンにボロボロにされながらギルドへ完了報告を行った。


「お、お疲れ様でした……。なんでそんなボロボロなんです?」


「聞くも涙、語るも涙の事情があるんです」


「たかだかゴブリン討伐でしょう?

 ドラマなんて生まれっこない気がしますが」


「ちがうんです。途中で冒険者どもがドタキャンしたんですよ!」


「はあ、そうですか」


「……あれ? 思っていたリアクションと違う……。

 もっとこう、親身になって"信じられない!許せません!"とか

 言ってくれるものかと思ってました」


「まあ別に今に始まったことじゃないですし」


「へ? いやダメでしょう!

 あんな素行不良な冒険者に依頼受けさせたら、

 いつまでたっても完了しませんよ!?」


「まあギルドとしては、依頼時にお金いただきますし。

 仮に失敗したとしても前金は回収できるから問題ないんですよ」


「それじゃ依頼したひとはどうなるんです!?

 いつまでも依頼が終わらないじゃないですか!」


「ギルドの依頼なんて8割がギルドの自作依頼です。

 別に完了しなくっても困らないんですよ」


「悪しき経済循環!!」


「まあそれにドタキャンされても、

 ひとりで達成してくる冒険者もいるわけですし」


「う……うーーん……」


「腑に落ちませんか?」


「世界の深淵に落ちた気はします」


「まあそういうことなんで。

 あなたが理想の冒険者像にそぐわない人がいても

 ギルドとしては大事なカモ……お客様なんですよ」


「そうですか……」


その日は宿に返って自問自答を繰り返した。


「俺も副業はじめるべきなのかなぁ……」


冒険者のドタキャンが当たり前になっている今、

昔にくらべて依頼達成率やその速度はがくんと落ちた。


なにせ急にひとりでダンジョンに挑まされるからだ。


冒険者で生計を立てている以上、

冒険に成功しないということはイコール食いぶちに困る。


副業でも初めて冒険者で失敗したときでも、

明日の生活には困らない状況にすべきなのかもしれない。

だが……。


「俺にできる副業なんてあるのか……?」


本も書けない。

昔書いた日記が怪文書すぎて有害図書になったくらいだ。


ファッションセンスもない。

デートの日に甲冑来て逃げられた記憶もある。


人脈もない。

よく冒険に行ってないときはつまらないと言われる。


自分にはマルチな才能なんてなかった。


「ち、ちくしょう、結局冒険者しかないじゃないか!!」


自分にできるせいぜいが前線で剣を振るうしか無い。


もうだったらドタキャンされても一人で攻略できるくらい

屈強かつ狐狼の冒険者としてやっていくしかない。


自分の不器用さに絶望したその日から、

冒険者いっぽんでやっていき続けた。


すると、ある変化がうまれた。



「あの、冒険者の〇〇さんですよね!?」



「え? あ、そうだけど……どこかで会った?」


「めっそうもない! 私が一方的に知ってるだけです!」


「なんで?」


「実は、どんなに仲間に裏切られても

 たったひとりで諦めずにダンジョンへ向かうその姿。

 そこに冒険者としての誇りを感じて冒険者になったんです!!」


「え、ええ!?」


嬉しいやら恥ずかしいやら。

顔が赤くなったので慌てて甲冑の面をさげた。


「で、でも。どこで俺のことを知ったの?

 会ったこともないってことは、冒険もしたことないよね?」


「ギルドレコーダーの映像ですよ」


「なにそれ」


「冒険者に取り付ける記録媒体です。

 ギルドでドタキャンが相次いだので

 ブラックリストの冒険者を特定するため録画はじめたんです」


「知らなかった……」


「で。私は見たんです。

 どんなにドタキャンされてもめげずに挑むあなたの姿を……!」


本当はドタキャンされたところで、

どうせ最初から自分ひとりで挑むつもりだったから

別に気にしていなかっただけだった。


でもなんか自分を神格化してくれているので黙っておこうと思った。


「どうか弟子にしてください!

 あなたようなストイックな冒険者に私もなりたい!!」


「こっちとしても、仲間が増えるのは心強いよ。

 いつドタキャンするかわからない人よりもね」


こうして信頼できる旅の仲間が増えていった。


最初はドタキャン犯人探しのためのレコーダーだったが、

映像がギルドで垂れ流し続けられているために

自分が配信者のごとく顔が売れてしまった。


いつしかギルドには本当に冒険者を志す仲間が集まった。


「〇〇さん! 冒険にいきましょう!」

「あそこの森のゴブリンを倒しましょう!」

「ぜひ自分を仲間にしてください!!」


「ああ……これこそ俺の望んでいた冒険者ギルドだ!」


嬉しさにさめざめと涙を流す。

そこにギルドカウンターの人がやってきた。


「あなたの噂、他のギルドにも広まっていて話題ですよ」


「偶然の産物なんですけどね」


「それで、仲間も集まったことでガチ依頼があるんです」


「本当に困ってる人の依頼ですね……」


「はい。南の洞窟に凶悪な魔物がいるんです。

 魔法や武器まで扱ううえ、言葉も話す。強敵です行ってくれますか?」


「もちろん。だって冒険者ですから」


「「 うぉーー! 」」


ファンもとい仲間たちが雄叫びをあげた。

こんなに頼りになるパーティがあるだろうか。

やっぱり自分の選んだ道は間違っていなかった。


「ここが南の洞窟か……」


信頼できる仲間たちを連れ、くだんのダンジョンへとやってきた。

そこには強い魔力がよどんで空気が悪かった。


「いったいどんな凶悪な魔物がいるんだ……!」


ごくり。

生唾を飲み込んだときだた。


洞窟の暗がりからズルズルと何かがやってきた。


それはもともとは人間であったのだろう。

今やもう聞き取れないほどの人語を話しながら、

かつて覚えていた魔法や剣を振りかざしながら魔物が迫ってきた。



「ホン、カッテェェッェーーー!!!!」



何もかもを失い人間を捨てたかつての冒険者は

変わり果てた姿で襲いかかるのだった。

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