明け星

小狸

短編

 *


 朝は、貴重な執筆時間である。


 起床時間は、朝の4時である。早すぎると思われるかもしれないが、何ということはない。夜8時9時に就寝しているのである。ショートスリーパーなどという今流行の寿命削りの言い訳ではない。


 起床してから仕事に行くまでの時間、食事や化粧、身支度や着替えの時間を除いて、私は小説を書いている。伊達に数十年小説を書いていない。それが一番集中できる方法だと、長年の研究の末に行き着いたのである。


 朝の方が、打鍵の速度が違う。私の脳みそはどうやら、昨日の鬱憤やら負の感情を、寝ている間に浄化する傾向にあるらしい。どういう仕組みで浄化しているのかは分からないけれど、まあすっきりしていることは確かなのだから、何も言うまい。


 学生時代、特に中学、高校の頃は、真逆であった。朝全く起きることができず、自分は夜型だと思っていた。

 

 それはひとえに、行きたくなかった、という理由が挙げられる。

 

 学校などという社会の仕組みが間違っていた、とは、敢えて言うまい。


 私は、学校に適合できなかった。


 皆で机を並べて、一緒に勉強を受けて、ついでに社会に出るための予行練習も兼ねる。


 一体学校のシステムのどのあたりが嫌だったのかは、今となっては分からないけれど、当時は毎日行きたくない、辛いという感情に支配されていた。


 通学は電車だったけれど、投身自殺も考えたことがあった。


 それくらい、学校が苦手だった。


 だからこそ、私にとって朝というものは、いつの間にかやってきて「しまう」もの、やってきて「ほしくない」ものになっていた。

 

 一日で一番、辛いという感情に支配されている時間である。


 しかし今は――そうではない。


 勿論、全てを振り返って、「あの時は辛かったけれど、今は幸せなのでなし崩し的に全てを受け止める」などということはできない。


 私の器は、そこまで大きくはない。


 ただ、それでも。


 朝の鳥の声だとか。


 家の周りの静謐な感じだとか。


 時を告げるように上ってくる朝日に。


 嫌悪感を抱かなくて済むようになったのは。


 何となく嬉しかった。




(「明け星」――了)

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明け星 小狸 @segen_gen

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