誰に恋していたんだっけ。

大輪田ミナト

第1話 天才だった少年

「アンカーでの大逆転!天才ルーキー、ここでも魅せた!!明美ヶ原高校、全国高校駅伝初優勝!!!」


 少年が、天に人差し指を立てる。


「よっしゃあああ」


 白いゴールテープを切り、オレンジ色のウインドブレーカーに身を包んだチームメイト達が少年に駆け寄る。

 選手も監督も皆が一緒になって抱き合っている。やがて、監督の胴上げが始まった。

 競技場も未だ興奮冷めやらぬ様子で、皆が祝福の言葉を言っている。

 その場にいた誰もが、少年の未来を期待せずにはいられなかった――――


「放送席放送席、見事初優勝を飾られました、明美ヶ原高校のみなさんです」


 インタビューエリアに現れたのは、オレンジ色のウインドブレーカーに身を包んだ選手7人と、中年の監督。


「さて、まずは1区を区間6位の記録で走り抜けました、キャプテンの袴田選手。ご自身の走りを振り返って、どうでしょう」

「そうですね。できる限り先頭と離されないように、前が見える位置で繋げたらなと思ってたので、上手くいって良かったです」


 一番長身の少年が、ハキハキと頼もしく受け答えをする。


「キャプテンとして、最後の1年として、たくさんの想いがあったと思います。優勝という結果、どう感じてらっしゃいますか」

「そーですね、本当に頼れる後輩がたくさんいたので、キャプテンという立場ではありましたけど、僕はむしろ連れて行ってもらったって感じで。後輩たちに感謝しかないです」

「そうですか。大学でも競技を続けられるということで、応援しております。おめでとうございました」

「ありがとうございました!」


 明朗快活、そんな言葉が似合うキャプテンは笑顔で頭を下げた。


「さて、続きまして2区11位の成田選手……」


 そこからも各区間を走った選手のインタビューが続いていく。


「……ですね。もう後はアンカーに頼むしかない、そんな思い、でした」


 6区を走った少年も質問が終わり、インタビュアーに頭を下げた。


「さて、最終7区を走られました嶺脇選手。都大路、制しましたね」

「まぁ、そうだね」

「アンカーでの8人抜きという素晴らしい内容でしたが、これは想定していたのでしょうか?」

「そんなとこかな」

「1年生ながら従来の区間記録を26秒も縮める大記録樹立となりました、これについては」

「まぁ、狙ってたんで。来年は1区出たいかな」


 隣の少年たちも、監督たちも苦笑い。

 隣の子が「嘘つけ」と笑いながら言っている。


「来年にはU20の世界選手権も待っています。今後の抱負を聞かせてください」

「特にないかな。レースに出て、勝つだけ」

「……嶺脇節、今日もありがとうございます。本当に、おめでとうございました」

「ん」


 見るからに愛想は悪いのだが、悪意がないから余計にたちが悪い。それでも、何故か嫌いになれない。

天才と言われた嶺脇はそんなカリスマ性溢れるランナー


「さて最後に監督。まずは初優勝、おめでとうございます」

「ありがとうございますぅ」


 中年の男は、関西弁で話しだした。


「今回のレース、振り返ってどうでした」

「そーーうやなぁ、うちは後半にメンバーを集めてたんやけど、それが上手くはまったぁちゅう感じですかね」

「今回のメンバーは、ほとんどが来年も残ります。来年の目標は」

「そんなん優勝に決まっとるやろ。まだ8kmや10kmはキツいか思て1年生は後ろ回したけど、来年はきっちり戦わせよ思います」


 監督がアンカーの嶺脇、と呼ばれていた選手に目線を投げかける。


「峰輪選手をはじめとして、他にもたくさんの有望な選手が揃っています。監督も期待が膨らむのではないでしょうか」

「そうですねぇ。これからも精進していきますわ」


 監督にならって選手たちも頭を下げると、みなインタビューエリアから去っていった。


 日本陸上界のニューホープ、嶺脇悠。

 突如現れた、期待の新星。

 今高校陸上の世界に、彼の名前を知るものはいない。誰もがこれからも輝かしい未来を送るものだと思っていた。


 そう、この時までは――


「速報です。昨日の全国高校駅伝を制しました、明美ヶ原高校の嶺脇選手が……」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る