第11話 木下の勘違い
このところ、僕は放課後は一日も空けることなく美術室に来ている。絵を描くこともあるが、書かないこともある。ただ待っている。彼女がまた来ることを。
でも、よく考えたら、どんなに待っても彼女が来る保証なんて何一つも無い。そんなことを思っていたら、ふと思い付いた。
「あ、書き終わったら見せてよって言っていたような気がする。僕から呼びに行かないといけないってことか・・・」
それに気が付いて椅子から立とうとする瞬間、後ろのドアが開いた。もしかして、来た?という驚きと期待で振り返った。
「今日も絵を描いているのかね?リュウオウ殿」
木下が入って来た。すごく、すご〜く残念な気持ちだ。その気持ちが顔に出ていたのだろう。木下が僕の心情に気が付いて言った。
「何だよ。すご〜く残念そうな顔じゃないか」
その通りだ。
木下が、耳の近くまで来て、小声で言う。
「残念がるのは、まだ早い!其方の意中の人を連れて参ったぞ」
え、本当か?その言葉に驚きと期待で、木下の後ろを見た。
何と、木下の後ろには、着崩した制服に、頭の真ん中から左右に、緑と金の二色で分かれ、おさげの髪は青と赤というド派手な姿のハシモト・ハーレクインが立っていた。そして、その隣りには、意外な組み合わせで月代がいた。
「りゅうおう君、私に何か用だって?どうしたの?」
おいおいおいおいおい・・・・・。木下はとんでもない勘違いをしているが、何も用が無いと正直に言ったらぶっ飛ばされそうだ・・・。どうしよう・・・と、動揺していると、月代が助け舟を出してくれた。
「絵を見せたかったんだじゃないの?」
「私に・・・絵を?」
ハシモト・ハーレクインが訝しげに応える姿を見ながら、木下が満足気に頷いているが、コイツはとんでもない勘違い野郎である。
「あ、いや、これは・・・」
そう言う僕の後ろのキャンバスを、ハーレクインと月代が覗き込む。
ハーレクインは、ニヤリと笑った。月代の表情は分厚い眼鏡のせいで読めない。
「ふ〜ん、なるほどね。杉子か・・・」
その言葉に僕は観念して視線を落としたが、木下は全く意味が分かっていない様子で、その名を繰り返し口にした。
「すぎこ・・・?」
月代も同じように言った。
「杉子さん、杉子さんね・・・」
「りゅうおう君、私を呼んだ意味が分かったよ。あ、呼び難いから、これから、リュウって呼んでいいよね?」
「はい。好きに呼んで下さい」
「じゃあ、決まったね。今から、アタシらは、リュウを応援する会だよ」
「賛成!」
絶対によくわかってないと思うが、木下が賛成表明をした。
「賛成!」
月代も右手を小さく上げて賛成を表明した。分厚い眼鏡に真っ赤な夕陽を映しながら、白い歯を見せながら満面の笑みを浮かべる姿に少し怖さを覚えたが、応援してくれているのだろう。眼鏡のせいか、本当に感情が分かり難い。
「ところで、美術コースの背景の絵って何描くか決まったの?ダンスコースの方は世界観を合わせたいからイメージを待ってるって先生言ってたよ。美術コース遅れてんじゃないの?頼んだよ。進めば、ダンスと美術コースが会う機会は増えるんだからさ」
そう言って、ハーレクインは教室から出て行こうとしたが、振り返って言った。
「リュウ、ツッキー、君は?」
木下が驚いたように直立不動で答えた。
「キノピーです!」
「オッケー、じゃあ、私はハッシーって呼んでよね」
笑いながら、ハーレクイン改め、ハッシーは教室から出て行った。
美術室には・・・いつの間に月代がいなくなって、木下と僕の二人だった。
「キノピーなんて聞いたことないよ!」
「仕方ないじゃん。リュウッキーに対抗するには、音的にはキノッピーしか無いし、ハッシーだから、グッドチョイスだったじゃん」
「そうだね・・・。じゃあ、今から、キノッピーって呼ぶよ」
「ラジャー」
敬礼するその姿に笑いながら、疑問に思った。リュウッキーではなくて、リュウとツッキーって言っていたと思ったけど・・・。
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