第10話 友情の始まり

 いつもと同じように木下と食堂でパンを齧っていた。


「リュウ、最近、放課後、美術室にいるよね?何してんの?」


 すっかり、リュウオウからリュウになっている。僕の名前にリュウの要素は全く無いし、王から犬になったみたいだ。犬は好きだから、嫌ではないけど。


「絵を描いてる」


「何の絵?というか、そんな絵を描くことに熱心だったっけ?神社のイベントが決まってから、何か変わったよね?・・・って、あ、もしかして!」


 木下の声が急に大きくなったのに、びっくりして、焦って止めた。白状した。


「ちょっ、ちょっと、やめろ、声が大きいよ」


 木下がニヤニヤしながら顔を近づけて来る。


「誰にも言うなよ」


「ラジャー!」


 敬礼をしながら言う木下はいまいち信用できないが、何故か話す気になった。


「想像してる通りだよ。絵を描く意味が初めて分かったんだ」


 木下は訝しげに僕の顔を見ているが、真面目に聞こうとする思いは伝わって来たから、僕は覚悟を決めて言葉を続けた。


「僕は自分を何とか肯定したくて・・・父を安心させたくて、何も得意な事が無い僕が、小学校の時に表彰された絵を思い出して、美術の学校に入れてもらったんだ」


「その学校がここか・・・」


「そう。でも、そこまで絵を描くことが好きだった訳じゃなかったんだ。でも・・・」


「でも?」


「好きになった・・・」


 思わず言葉に詰まった。目頭も熱くなった。一呼吸を置いて話しを続けた。


「絵も、彼女のことも・・・。彼女への想いが吐き出せなくて苦しくて、それを救ってくれたのが絵なんだ。絵を描くことで彼女への想いは増すばかりなんだけど、描く事で想いは絵の具の色に変わっていくんだ。絵を描く事の意味が分かった。そして、絵を描く事も好きになった。父さんと彼女のおかげで今、ここにいる自分をやっと肯定できそうなんだ。だから、最近、美術室にいるんだ」


 そう言って、木下の方を向くと、木下は何故か目に涙を溜めて真っ直ぐに僕を見ている。


「どうした?何で木下が泣きそうなんだ?」


「有難う。有難う。友達も親もいない。俺なんぞにそんな話しをしてくれて。リュウ、いや、リュウオウ殿は俺を信じてくれた。俺こそ、今自分が肯定された気持ちになったよ」


 そう言って、木下は僕の両肩を掴んで言った。思いの外、力が強い。


「俺たちは友達だ」


「もちろん。前から、そう思っていたよ」


「マジか?自分はそう思ってなかった」


「逆にショックだよ」


「ちょっとトイレでは鼻をかんで来る」


 そう言って、木下は食堂を足早に出て行った。食堂にもティッシュくらいあると思うけど、出て行きたい心情だったのだろう。しかし、気になる言葉があった。


「友達も親もいない・・・。友達はともかく、親はいるはずだけど、どういう事だろう?」

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