溺愛彼氏と私のとかされそうなくらい甘い日常

つづり

第1話 彼は私が好きすぎて

「いつまで写真を見てるんですか」


 私は寝る時間になってベットに入ってるのにも関わらず、カメラを一向に離さない彼を、呆れ半分で見つめていた。

 彼は趣味が写真撮影で、アマチュアではあるのだが、撮影技術がとにかく評判だった。映える写真作りが上手すぎて、撮影モデルにしてくれとDMが収まらないらしい。


「いつまでも見ちゃうよ、君が写ってるんだから」


 くすくすと笑いながら彼は微笑む。

撮影してくれと言うDMが殺到する彼が今夢中なのは、信じられないが私らしい。


 今日も公園で撮影してくれて、彼はその写真を何度も味わうように眺めていた。


 ああも何度も見られると恥ずかしくなる……私は彼の中では最上級らしいが、私自身は特にそう思うところがなく、毎度褒められる度に戸惑ってしまう。


 今だって彼女として隣にいるが、本当にいていいものか……と思うくらいだ。しかしその揺らぐ気持ちは悟られたくないから、私はベッドに潜り込んだ。

 掛布をかぶる。そして呆れた口調で。


「私はもう寝ますよ、永人(ながと)さん」


 愛されるのはとても嬉しい。

こんなに素敵な人と思うと頭がおかしくなってしまいそうだ。人気のある人だから、気が引けることも多い。堂々と出来ない自分が、私はこの世で一番嫌いかもしれないなと思ったその時。


 重みを感じた。

のしかかってきたような感覚。


「な、永人さん……?」


 私はのしかかってきた彼を見る。

彼は私を優しく、それこそまるで極上の被写体を見つけたかのような蕩けた瞳で見ていた。

 彼は私の耳たぶに触れるか触れないかの位置で囁いた。


「また、暗いこと考えてたでしょ」


 一体どこで、そんな素振りを見せてないはずなのに気がついたんだろう。私は動揺して、思わず上擦った声がもれた。


「どうしてそれを……」


「君のことはいつだって見てるからね……心の些細な動きにだって気づくよ」


 その声の調子は柔らかく、ふわりと私の心を掴む。

同時に私の体を見えない紐で縛り付けているように感じてしまった。彼に囚われている……。


「君のその顔は、誰にも見せたくないな」


 彼は私の髪を梳き、ゆっくり撫でた。


「あまりに綺麗だから、カメラにも残したくない」


 首筋に彼は顔を埋める。


「僕だけしか見れないと思うと、本当にたまらないよ」


 彼の唇が首筋をなぞる。

その独特な感覚に背筋が伸びて、私は息を飲んだ。

 彼は楽しそうに呟いた。


「ほんと君って可愛い」


 細く目を開けた、視界の端に月が見えた。

月には薄く雲がかかっており、やがて雲に飲み込まれていくのが容易に想像できた。


 世界は夜から更に深い闇へ。

月の光すら届かなくても、彼は愛を紡ぐだろう。


 この話はなんでもない私たちの日常だ。

そう、私が彼の溺愛に侵されていく物語だ。

その幸せに怯える私もいるけれど……。


 私も彼といたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

溺愛彼氏と私のとかされそうなくらい甘い日常 つづり @hujiiroame

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ