提提無無
Nagi
第1話 嘘
「そういえば佐川さんって今おいくつなんですか?」
昼時。昼食を外に食べに行く派の人が出ていき社内も空いた頃、大和は隣のデスクの佐川に話しかける。それは大和がコンビニ袋をまさぐり、鮭おにぎり2つに菓子パン、惣菜パンを取り出す最中のことである。
大和は計4つの食料をデスクに横並べる。
しかし、このメニューに何もドキドキしなかった。だって知っているから。彼が朝、コンビニで買ったものだから。
大和は考えた。何か一つが急に違う味になっていたら、もっとサプライズ的な感じになるのだろうなと。こうしてデスクに広げるときにおや!?となるのだろうと。いや、贅沢は言わない。何か一つ、行方不明になればおやおやと俺は捜索を始めるのになと。そうすればなんか非日常感が味わえる。……無くなるのは悲しいかもしれない。それにお腹も空くし……。増えろ。そうだ、一つ増えろ。けれど増えたところでどこから湧いて出たのだと不安になるし得体がしれないからやっぱり減らすべきなのか……。
「48。」
佐川が答える。
「ん?何がですか?」
「勘弁してください……。その買ったもの机に全部出して静観する儀式たまにしてますけど、何なんですか?毎度怖いんですけど…。大和君なりのいただきますなんですか?」
「あ、いや、意味はないです。いただきます。」
「いただきます言うんだ……。」
佐川は大和の職場の先輩である。お互いに宅急便に関連した名前であったことから二人はどうしてか親近感が湧いている。そして、それを面白がって課長にデスクを隣にされた仲。
同時期、佐川と大和は昼食を持参する派であったことが判明した。それから、二人はは昼食時になると毎度何気ないことを話す。
「何の話だっけ…。そうだ歳だ。え、おいくつなんですか?」
「いや、だから、いや。いいや。31です。」
「…ん?じゃあなんでさっきサバ読んだんですか?しかも逆サバ。」
「うそ…。しっかり聞いてるじゃないですか…。」
大和は佐川の横顔を見た。特に特筆することもない日本の31歳サラリーマン顔である。強いて言うなら少しだけ幸が薄そうでタレ目。
佐川は弁当を頬張っている。
「あんまり嘘つかないほうがいいすよ。…あ、俺は27です。お互い奇数年ですね〜。」
「厄年みたいに言うな気色の悪い。」
まずおにぎり2つを平らげた大和はニヤリと笑う。大和は佐川のこれを気に入っている。キショいとか、キモいとか言わずに“気色の悪い”、“気持ちの悪い”と言うところを。
「嘘…で、思い出したんだけど、最近嘘つく漫画…、流行ってるよね。アニメとか…。」
咀嚼の傍ら、佐川が呟いた。
「なんすか、それ。」
「あの、あれよ…。可愛い子が、あの、なんか嘘つく。あの、YOASOBIとか…。」
「んー。あ………あ。推しの子?!先輩推しの子嘘みたいな認識してるじゃないですか。」
大和はシメで菓子パンにかぶりついた。
「そうそれ。知ってるんだ。」
「おもしろいですよ。先輩のは曲解が過ぎますけどね。」
もう食べるものが無くなった喪失感に大和は顔をしかめて天を仰いだ。LEDが目にまぶしく映る。
「先輩も年齢サバ読むのは愛が故なんですかね。」
「すごい急カーブで俺のもとに帰ってくるじゃん…。遠ざけたはずなのに。もう忘れて…。」
大和は手を合わせてごちそうさまでしたと呟いた。同じ頃合いで佐川も弁当を食べ終わっていたようで、時間差でごちそうさまが聞こえてくる。
「さて、午後も頑張りますか。」
佐川がそう言った。
「頑張りましょ。」
大和のこの返事で大概は会話を締める。
今日の午後がはじまる合図。
「………サバの逆って何なんですかね?鹿肉?」
「あーーー。」
それで終わらないことも、たまにある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます