プルタブ
見鳥望/greed green
*
喉が渇いた。どうにも寝れない夏の暑苦しい夜。のそりと布団から抜け出し冷蔵庫を見る。飲み物は麦茶だけ。少し悩んで冷蔵庫を閉じた。甘いものが飲みたい。財布だけを持って部屋を出た。
虫の音が鳴り響く夜道を歩く。少し離れた街灯の下にある自販機に辿り着く。100円で買える自販機には見たことのないメーカーと商品名ばかり並んでいる。
硬貨を入れコーラを選ぶ。ガシャリと乱暴に缶が吐き出される。
取り出すと妙に生温い。最悪だ。うんざりした気分になる。そのまま横のごみ箱に投げ込みたくなるが、せっかくなのでプルタブを開く。
ぷしゅりとも言わない。活気ある炭酸なら鳴るはずの音すらない。これが100円クオリティかと諦めながら口に運び缶を煽る。
ーーん?
手に持った缶をまじまじと見つめる。
どういう事だ。何も流れてこない。まるで空き缶のような状態。だが不思議なことに重みはある。つまり中身は入っているはず。
プルタブの穴の中を真っすぐに見つめる。穴の先は漆黒でよく見えない。コーンスープ缶の中に余ったコーンを見つけるようにぐっと穴に顔を近づける。
その瞬間、穴の中から人間の人差し指がもぞりと這い出てきた。悲鳴も上げられず缶を地面に投げ捨てる。喉どころか全身がカラカラだったかもうどうでもよかったので家に勢いよく帰り布団にもぐり込んだ。
次の日。当然のように一睡も出来なかったが、朝になりさすがに少し落ち着いた。気になって俺はもう一度自販機へ向かった。
「あ」
地面にぺしゃんこになったコーラの缶が残っていた。潰れた拍子に漏れ出たであろう液体がアスファルトに染み込んでいた。
どんな液体でそうなったのかを考えたら気持ち悪くなって家に戻った。
あの自販機はいまだに残ってるが、それ以降一度も買っていない。
プルタブ 見鳥望/greed green @greedgreen
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます