転生天才テイマーですが、和平都市を作って伝説になりました。
紫陽_凛
第一章 ローレンの町
第一節 旅の終わりは旅の始まり
第1話 王命、ヒルダに下る。
時はラーグナー歴を数えて二三九年。
長きに渡る戦いの末に疲弊した魔王軍・人類軍の双方の合意により和平が成される。
和平の立役者となった勇者一行四名は、人類軍を率いた大将・ラグナ大国の国王を
「勇者クレイ。そなたには伯爵位を授ける。領地は追って
「僧侶リーグル。そなたには
「魔術師ジャスミン。そちには魔術学院教諭の職を与えよう」
「そしてテイマー、ヒルダ――」
ヒルダはゴクリとつばを飲み込んだ。勇者一行の中でいっとう年若い彼女は、期待と希望に満ち満ちた目を国王に向ける。
「そちには王命を以て命ずる。ローレン城塞の周辺に『交易都市ローレン』を築くよう」
「えっ」
王命。絶対君主の下す、拒否することのできない絶対命令。最上位の命令。それがヒルダに下ったのだ。
「えっ?」
そして「ローレン城塞」という言葉。百年前に魔王軍と人類軍が血みどろの戦いを繰り広げたその場所が、「ローレン城塞」とその周辺だったことくらいはヒルダにも分かっている。そんな血にまみれた土地の上に交易都市を築けと?
「えっえっ?」
「恐れながら、王様」
魔術師ジャスミンが口を開いた。
「ヒルダは若輩にて、王様のご期待には応えられぬと存じますが」
「しかしながら、我が国の魔術師よ」
王はジャスミンの忠言に答えた。
「あの場所は北部リンドと、この南部ヴルムとの交易の要。ここ百年、我々は北部と南部に分かたれた生活を強いられてきた。その分断された国を繋ぐのが、この新生ローレンの地というわけだ」
「ですが、恐れながら。それをたった十二才のヒルダに課すのは酷では」
ジャスミンは丁重に頭を下げる。しかし国王は首を縦には振らない。
「我が国のテイマーならできると思ったまでのこと。私は人を見誤ることはない。これまでも、これからも」
国王は今度はヒルダに目を向けた。
「魔族との和平の象徴として、土地を耕し、家を建て、ローレンの地に交易の
異論しかないが? とヒルダは思った。
そもそもテイマーというのは、魔物や異種族を
それが、町作り、町おこし、いや、更地に都市を作れというのだから、ヒルダには不満しかない。適材適所とはいえないではないか。無理難題、通り越して不可能だ。
「じゃ、じゃあ」
幼いヒルダが口を挟むと、王の冷たい、温度のない瞳がこちらをじろりと
「そのローレンの土地に、王命で商人たちや住民を集めるのが宜しいのではないでしょうか……!?」
至極まっとうな意見のように思われた。
「私のちからは主に魔物に通用するものでございますし、人を集めたり、建物を建てたり、その……町おこしと言いますか、町作りのようなことは、私には重過ぎます……!」
至極、至極まっとうな主張のように思われた。
しかしそれを国王ははねのけた。
「民には『居住の自由』がある。国王たる私は、それを侵すことはできない。民に約束された自由の一つである」
私の主張は聞き入れられないのにかーッ!
「異論あるか」
叫びたい気持ちだったが、代わりに喉から出てきたのは「異論、ありましぇん」という力ない声。
謁見はそれで打ち切られた。王が去って、謁見の間を出たヒルダは頭をぐしゃぐしゃとかきむしった。
「むぎゃあああああ!」
私には自由がないというのか。いつもいつもいつもいつもいつも貧乏くじばっかり引かされて毎度毎度こんな目に遭う。私が一体何をしたって言うんだ。
勇者クレイは「ドンマイ」と言いながら酒場へ消え、僧侶リーグルは「王都見物いってこよっと」とか白々しいことをつぶやいて姿をくらました。残されたのはうなだれるヒルダと魔術師ジャスミンだけだ。
「ジャスミンはいいよね、魔術学校の先生だなんて。……ずっと先生になりたいって言ってたもんね」
「……私は貴方が心配だわ」
ジャスミンだけだ、そんなことを言ってくれるのは。ヒルダはジャスミンの広げた腕にすがりついて額をこすりつけた。
「王命って何……?」
「協力できることは協力するわ、ヒルダ。魔術学校には長い夏休みと冬休みがあるそうだから……」
そういえば、ジャスミンにも仕事があるのだった。ヒルダは惜しく思いながら、あたたかな腕の中から顔を出した。
「私にできるのかな……なんでよりによってテイマーに、町おこしなんかさせるのかな?」
というか、なんで私がそんな任務に就かされるのだろう? ヒルダは混乱しながらも、あの仏頂面の王様に腹を立てている自分に気づいていた。
理不尽だと感じているのだ。
「王様にもお考えがあるのよ。……たぶん、だけど」
ジャスミンの慰めは慰めにならなかった。ヒルダは唇をとがらせた。
意味が分からない。
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