240913-カキのくち
私の事を一週間待ってくれていた愛しの存在が今、家にいる。
そう、とある日本酒の原酒だ。
先週伯母がくれたとっておきである。
私は月曜日からその日本酒に何を合わせるかを考えウッキウキだった。いつも灰色の通勤時間さえも景色が鮮やかに見える。
赤信号で停車し、ふと横をみれば某回転寿司店の旗が緩く風に吹かれているのが目に入る。
「期間限定!!広島産牡蠣にぎり」
旗には飾り気のない煽り文とともにぷりっぷりの牡蠣がシャリに鎮座する姿。
こ、れ、だ!!!
実際どんなマリアージュになるかは分からない。しかし、私はもうコレ以外の組み合わせを考えるとができなかった。じわりと噛み砕いた何ともいないあのやわい食感にどろりときつい日本酒を流し込む。そんな想像をこの一週間何度したことか。
昨日の夜、私は意気揚々と持ち帰りの予約サイトを開いた。期間限定コーナーに煌々と輝く……あの旗と変わらぬお姿の、牡蠣。
がしかし、カートに入れようとボタン探すが……ない。その代わりに添えられた一行。
「※持ち帰り不可」
う、
う、
う、
嘘だ!!!!!!!!
私の心にRN様が降臨する。
嘘だ!なんでだよ!
焦る気持ちと裏腹に冷静な私がいう。
牡蠣の寿司とか、リスク高いもん持ち帰りにできるわけないだろ。(※実際はぜんぜんそんな理由じゃないと思う)
そうか、そうなのか? いや、しかしもう口は牡蠣に染まっている。今から他を探す?そんな事考えられない。
そうだ!この寿司屋にはまだ、あいつがいる。
そう、カキフライつつみだ。
私は変わり種寿司だって問題なく愛せる女。
ほっと一息いて、期間限定のコーナーを少しばかりスクロールする。
ノリの上にシャリがぽつんと置かれ、さらにその上にサクサクの衣に包まれカキフライが堂々と乗っている。
こんな寿司、邪道だ!とお怒りの正統派お寿司を愛する会の方には許せないかも知れないが、私はもはや牡蠣を食べられればなんでもいい。
牡蠣を!!ポチらせて!!!
「※持ち帰り不可」
世界は無慈悲だ。
どうしようもなく理不尽だ。
いやいやいやいやいや、なぜだ?!!?!!!
牡蠣にぎりはなんとなくわかる、しかしカキフライなんてスーパーでお惣菜で普通に売っているじゃないか!!!
そう……スーパーで……スーパー……
スーパーで、カキフライ買うか。
スーパーという光明を見つけ出したことで私の中の荒れ狂っていた牡蠣竜神は一旦静かになった。
帰り道のスーパーに果たしてカキフライは置いてあるだろうか。置いてなかった時……私はいったいどうなってしまうのだろうか。
昼休み、私は震えるばかりだ。
これ、酒クズ日記でもよくね?と思ったが……ま、いっか。
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