第3章 - 試練の村と古の魔法

旅を続けるディアブロとレイナは、山を越えた先に小さな村を見つけた。荒廃した大地の中で、そこだけは奇跡のように緑が広がり、豊かな自然に囲まれていた。しかし、村の住民たちはどこか不安げな様子で周囲を警戒しているようだった。


「ここは…どこなんだ?」


ディアブロは不思議に思いながらも、村へと足を踏み入れた。村の中央には古びた祠(ほこら)があり、そこに集まる住民たちは何かを祈っているように見えた。ディアブロとレイナが近づくと、一人の老人が彼らに気付き、ゆっくりと立ち上がった。


「…お主たちは旅人かの?」


「そうだ。この村はどうなっている?ほかの場所は荒れ果てているが、ここだけがなぜ無事なんだ?」


ディアブロの問いに、老人は重い口を開いた。


「この村は、古の魔法によって守られておる。しかし、その代償として…わしらはある試練を受けねばならんのじゃ。」


「試練…?」


レイナが興味深げに老人を見つめる。老人は深いため息をつき、祠の方を指差した。


「この村には、毎年異形の魔物が現れるのじゃ。古の契約によって、この村を守るためには、その魔物に生贄を捧げねばならん。だが、今年はそれを拒む者が出てきた。村の若者たちは戦おうとしているが、勝ち目はない。」


ディアブロはその言葉を聞いて、眉をひそめた。魔物に生贄を捧げるというのは、いかにも異世界的な風習だが、彼の心に違和感を抱かせた。


「魔物に生贄だと…?そんなものを続けていては、いずれ村は滅びるだろう。それに、戦おうとする若者がいるなら、なぜ村全体で協力しないんだ?」


老人は目を伏せ、震える声で答えた。


「魔物の力は強大じゃ。村人の大半は恐れ、従うしかないと信じておる。だが、確かにお主の言う通りじゃ。わしも心の中では、そのような生き方に限界を感じておる。」


そのとき、ディアブロの中に何かが燃え上がった。この異世界に転生してから、彼はずっと自分の力をどう使うべきかを迷っていた。しかし、今目の前にあるこの状況――弱者が強大な力に怯え、未来を諦めている姿――それに彼は強い怒りを覚えた。


「ならば、俺がその魔物を倒す。」


ディアブロはそう宣言し、村人たちの前に立ちはだかった。彼の言葉に村人たちは驚きの声を上げ、ざわめき始める。しかし、その中から一人の若者が彼の前に進み出た。


「本当に…その魔物を倒せるのか?俺たちも戦いたいが、あまりに強大すぎて…」


その若者は勇敢な顔つきをしているが、瞳には恐怖が見え隠れしていた。彼の名前はカイル。村で唯一、魔物と戦う覚悟を持った青年だった。


「俺の力で倒せるかどうかはわからない。だが、このまま生贄を捧げ続けていたら、いずれこの村は滅びる。それだけは確かだ。」


ディアブロの言葉に、カイルは目を輝かせた。そして、ディアブロに深く頭を下げた。


「どうか、力を貸してください。俺も戦います!」


レイナがそっとディアブロに耳打ちする。


「ディアブロ、あなたの力はまだ不安定です。しかし、私がサポートすれば、魔物を倒すことは可能でしょう。」


「わかった。準備をしよう。」


その夜、ディアブロとカイル、そして村の戦士たちは魔物を待ち伏せるために祠の周りに集まった。月明かりの下、周囲は静まり返り、不気味な空気が漂っていた。ディアブロは自分の手に力を感じつつも、まだその制御に自信が持てなかった。


やがて、地面が揺れ始めた。遠くから、重々しい足音が響いてくる。そして、闇の中から姿を現したのは、巨大な蛇のような姿をした魔物だった。何本もの目が光り、鋭い牙を持つその姿は、まさに悪夢そのものだった。


「来たか…!」


カイルが剣を構え、ディアブロはその隣で黒い炎を呼び起こそうと集中する。しかし、魔物は一瞬で彼らに襲いかかってきた。カイルが避けた瞬間、ディアブロは咄嗟に黒い火球を放つ。しかし、それはかすめただけで、魔物の力を止めるには至らない。


「くそっ…!」


「ディアブロ、焦らないで!力は必ず応えてくれるはずよ!」


レイナの声が響く中、ディアブロは冷静さを取り戻し、もう一度力を引き出そうとした。そして、その時――彼の中に眠る本当の力が目覚めた。


「うおおおっ…!」


ディアブロの体から黒い炎が一気に噴き出し、魔物に向かって直撃した。巨大な魔物は叫び声を上げ、その場で崩れ落ちる。周囲の村人たちは驚きと恐怖が入り混じった表情を見せていた。


魔物は完全に消滅し、村は救われた。しかし、ディアブロの心には複雑な思いが残っていた。


「これが…俺の力か。だが、この力が本当に正しいのか…?」


村人たちは歓喜し、ディアブロを英雄として讃えた。しかし、彼はまだ自分の中に眠る力の真実と、それが何をもたらすのかを模索していた。


「ディアブロ、この力をどう使うか、それがあなたの試練です。この世界にはまだ多くの謎があり、あなたの旅は始まったばかりです。」


レイナの言葉に、ディアブロは頷き、再び歩みを進めることを決意した。彼の旅はまだ終わらない。次に待ち受ける試練が何かは、まだ誰にもわからなかった。

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