第1章 - 出会いと予言

「あなたは…?」


ディアブロの問いに、少女は静かに微笑んだ。彼女の瞳はまるで全てを見通しているかのように深く、どこか神秘的だった。白いローブが風に揺れ、まるで異世界の一部そのもののような印象を与える。


「私はレイナ。この世界の未来を見守る者です。」


「未来を見守る…?それにしても、どうして俺を魔王なんて呼ぶんだ?俺はただの人間だったはずだ。」


ディアブロは困惑しながら自分の姿を再び確認する。鋭い角、黒い肌、そして強大な魔力を宿した自分の体。それはもう、かつての自分とはかけ離れた存在だった。


レイナは一歩前に出て、彼を見つめた。


「ディアブロ様、あなたはこの世界にとって特別な存在です。この世界には、太古から伝わる予言がありました。『混沌の時代、異界より魔王が現れ、世界を導く』と。そして、あなたこそがその魔王なのです。」


「予言の魔王だって…?俺が世界を導くっていうのか?」


ディアブロは苦笑いを浮かべながらも、信じられない気持ちでレイナを見返した。彼はただの普通のサラリーマンだったはずだ。日々の仕事に追われ、誰かを導くどころか自分の生活すらうまくコントロールできていなかった。しかし、この少女は真剣な表情で、ディアブロに向かってそう告げる。


「はい。あなたの力は、この世界を救うために必要なものです。しかし、その力が善か悪かを決めるのはあなた自身です。力を持つ者が何を選ぶか、それがこの世界の未来を左右するのです。」


「俺が選ぶ…?俺にはそんな大それた役割なんて…」


そう言いかけたディアブロだったが、ふと自分の手を見つめた。先ほどの騎士たちを一瞬で消し去った力。それが自分の内に宿っているという現実は否応なく受け入れざるを得ない。彼は力を持ってしまった。だが、それをどう使うかはまだ決まっていない。


「…俺は、ただ平穏に生きたかっただけなんだがな。」


ディアブロは深く息を吐き出し、少しの間黙り込んだ。レイナは彼の横にそっと立ち、静かに言葉を継いだ。


「あなたが望むなら、この世界で生きるための道を一緒に見つけましょう。私にはあなたの未来が見えます。善の道も、悪の道も、全てあなたの選択にかかっています。どうか、この世界を見てください。そして、あなた自身の力で、答えを見つけてください。」


ディアブロは少女の言葉に耳を傾けながら、異世界に生まれ変わった自分の存在に向き合い始めた。彼が何を選ぶにせよ、この世界ではもはや普通の生活には戻れないことを、彼は少しずつ理解し始めていた。


「わかった、レイナ。俺はこの世界で何をするべきか、自分で確かめる。だが、俺のことを魔王なんて呼ぶのはやめてくれ。ただのディアブロでいい。」


「ディアブロ様…いえ、ディアブロ。その決意が大切です。では、まずはあなたがこの世界を知るために、私と共に旅をしましょう。この世界には、多くの謎と試練が待っています。」


ディアブロは頷き、目の前に広がる未知の世界へと歩みを進めた。彼がこの世界でどんな道を選ぶのか――その答えは、まだ誰にもわからない。

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