異世界の魔王ディアブロ

プロローグ - 魔王の目覚め

夜の闇が静かに包み込むなか、鈍い衝撃が彼の体を襲った。

「…痛い…」

それが、彼が最後に感じた意識だった。サラリーマンとしての忙しい一日を終え、ただ帰宅して眠るだけのはずが、あの一瞬がすべてを変えた。走り去るトラック、吹き飛ばされる身体、薄れゆく意識――それが彼が覚えている最後の記憶だった。

だが、次に目を覚ました時、彼は見知らぬ世界に立っていた。

「ここは…どこだ？」

目の前に広がるのは見たこともない景色。青い空の下、荒涼とした大地が広がり、遠くに巨大な山々が連なっていた。空気は澄んでいるが、何か異様な気配を感じる。そして、自分の体に違和感が走る。自分の手を見下ろすと――そこには、彼の知るものとはまったく違う、巨大な黒い手があった。

「な、なんだこれ…俺の手か…？」

反射的に水たまりに映る自分の姿を見た。そこには、巨大で異形の姿をした魔王が立っていた。赤黒い肌に鋭い角、そして冷たい輝きを放つ瞳。これは夢なのか、それとも現実なのか、彼は自分の変貌を理解できないまま呆然と立ち尽くす。

「どうして俺が、こんな姿に…」

頭の中に浮かぶのはただ一つの疑問。しかし、答えが出る前に、遠くから騒がしい声が聞こえてきた。振り返ると、彼の方に向かって武装した集団が近づいてくる。剣と鎧に身を包んだ騎士たちだ。

「見つけたぞ！ あの魔王を倒せ！」

「なんだって…？魔王？」

騎士たちはすでに戦闘態勢に入り、容赦なくディアブロに向かって攻撃を仕掛けてきた。彼は咄嗟に身を守ろうと手を挙げた――その瞬間、彼の中から得体の知れない力が噴き出した。

「うおおおっ…！」

巨大な炎が彼の手から放たれ、騎士たちを飲み込む。圧倒的な魔力による攻撃だった。だが、それはディアブロ自身の意思ではなく、体が勝手に反応したかのようだった。

「これは…俺の力…？」

騎士たちが無力化された後、ディアブロは呆然と立ち尽くしていた。なぜ自分がこんな力を持っているのか、なぜ異世界で魔王として転生したのか、その理由は全くわからない。しかし、彼がこの世界において強大な存在であることは、もう否定しようがなかった。

「一体、何がどうなっているんだ…？」

彼が混乱している間に、背後から小さな足音が近づいてきた。振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。真っ白なローブを纏い、深い瞳でディアブロを見つめている。

「あなたが…目覚めたのですね、魔王ディアブロ。」

少女は静かに言った。その声には恐怖の色はなく、むしろ何かを期待しているようだった。