グレート・ゲーム - 祖国統一への道

user109331

第一話 始まり

 今日も退屈な一日が始まる。


 鞄から大学の予定表を取り出す。


今日は一限目が尊厳の講義か、だるいな。


 私は、尊厳の講義が嫌いというより、どちらかといえば

この教科の教授が嫌いなのだ。


 あいつは声がボソボソの癖に黒板に字を書かず、それでいて授業内容から大量にテストを出題するという始末だ。

 

 これは人間の在るべき姿を深めるというよりも、耳を育て深めるという事がメインの授業ではないか。

 

 ぶつぶつと講義の文句をこぼしながら歩いていると、友人のカールが全力でこっちに走ってきた。


 「ルドルフ!大変だ!自由主義者のハルケンファウゼン教授がヘーゼマン大学から追放されるらしいぞ!」


 頭に衝撃が走る。

 ハルケンファウゼンはハイゼニア連邦の自由主義者の中でも、特に強い権威を持っていて、青年自由同盟の首班でもあり、国民議会の議員もしている。

 そんな大者があの名門ヘーゼマン大学の教授を辞めさせられるなんて、自由主義者達が黙っていないだろう。


 しかし、我々には教授が辞めされられた理由が分かっていた。

 自由主義者がこの国の上層にとってどのくらい危険視されているかをだ。

 

自由主義者が危険視される始めたのは7年前の9月に起こった革命が原因だ。


自由主義者や労働者、学生による大規模暴動である9月革命では


首都のエッセンブルクの白日旗広場を、「ハイゼニア連邦の統一」と、「労働者の権利拡大」 を求める暴徒が占拠。

 

また、国会議事堂前では暴徒化した暴動参加者が軍と衝突し、合わせておよそ600名の死者を出す大惨事となった。

 

 政府は暴動を軍と警察によって鎮圧し、事態を鎮静化させた。


 しかし、さらなる暴動の発生を恐れた政府は、仕方無く、


「国民議会の設置」 「最低賃金の引き上げ」 「14歳以下の国民の雇用禁止」 「12時間以上の操業の禁止」


などの大幅な権利の拡大や労働への規制拡大を認めざるを得なくなった。

 しかし、暴動防止鎮圧法を制定し、暴動に繋がりかねない集会を制限するなどの弾圧強化なども徹底された。


 9月革命はまさに革命と言う名前がピッタリの、我が国の大変革の切っ掛けとなった出来事だ。


 教授はこの9月革命に関与していた疑いがある。

ヘーゼマン大学から追放されたのは、自由主義運動を押さえ付けたいからだろう。


 それに、国民に対する権威も大きな、名門大学であるヘーゼマン大学の教授だとしたら尚更政府としては厄介だ。


 もはや尊厳の講義など耳に入らず、とにかく今この国で起こっている変革で心が落ち着かなかった。


だが、私は変革この変革をすべて快く思っているわけではなかった。


 ある国の例があるからだ。


 隣国であるハイゼーヌ共和国は自由主義革命によって王制が打倒され成立した共和制国家だ。


 強国の一つであるが、革命期の混乱による工業化の遅れなどのしわ寄せがいまだに続いている。

 

 だが、分裂国家の集合体であるハイゼニア連邦は、そのハイゼーヌ共和国よりもさらに工業化、さらには産業発展が遅れている。なぜなら、ハイゼーヌ共和国は統一国家のため、分裂国家であるハイゼニア連邦よりも圧倒的に経済力が強いからだ。

そのうえ、軍事力も圧倒的にハイゼーヌ共和国の方が上である。

 

 分裂国家なせいでめちゃくちゃに面倒な上に(特に経済面)、革命まで起きたら、もちろん我々はこの世界から淘汰されてしまうだろう。

 そんなことは許せない。

愛する祖国がそんな目に遭うのは認めない。

 

 ならば、自由主義よりも先に、この国を統一することが優先だろう。(このような過激な思想が許されるのも自由主義のおかげという面も在るわけだが)

 

とにかく私はこの手で祖国を統一したい。

 

 そして私の胸に深く刻まれた祖国への愛情は、私を鉄と血の道へと導いて行く事になる。

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