第88話 はじめての外出(村の外)


「お父さん おはよう!」


「ふっ おはよう、ヴィオ。まずは朝食にしようか」


昨日はワクワクしすぎて眠れないと思ったけど、お着替え&お披露目は精神的に疲労が溜まっていたようで、風呂上りに気が付いたら寝ていました。

お陰でお目覚めバッチリです!

クリーンをして、お父さんが卵を焼いたりしている間に、お皿と 飲み物を準備する。


「お父さん、今日は初めての冒険?それとも冒険者の娘が良いかな?」


「そうじゃな、初めての冒険がええんじゃないか? 実際初めての森じゃしな」


分かった!と言って箪笥のあるお部屋に駆け込み、昨日受け取った冒険者装備に着替える。

はじめての冒険は 短パンスタイルの洋服セットだ。

別に他の組み合わせで着ても問題はないらしいんだけど、折角プロが選んでくれたコーディネートだからね、ちゃんと守って着用しますよ。


タイツを履いて、ハイネックインナーを着て、白シャツ、短パンを履いたら 鞭ベルトを付ける。短剣は出かける時まで着けない。椅子に座れないからね。

あ!こういう事も考えて インベントリみたいな魔法を考えたいな。

ドゥーア先生に相談してからになるかな?


ベストも出かける時に着ればいいだろう。

ブーツに履き替えてリビングに戻れば、丁度お父さんがお皿に卵たちをモリっと乗せ終わったところだったみたい。


「うんうん、よう似合っとる」


昨日も沢山褒めてくれたんだけど、リリウムさんたちの興奮の方が凄かったからね。改めて褒められると嬉しいけど照れる。

そう、今日は初めての討伐依頼を受けに行くのだ。


今月末に銅ランクになると思ってたんだけど、4週間目で達成しちゃったからね。

だけど、武器も、防具も完成したし、学び舎も卒業したから行ってみるか?って言ってくれたんだよね。

勿論即答で行くって答えても仕方なくない?


勿論 魔獣とはいえ 生き物を殺すことになるんだから、舐めてはいない。

ウキワクしているのは自覚しているけど、森では気を付ける。

お母さんとの旅も、町だけではなく移動は森の中を通ることも多かった。

あの時は薬草採取の為にそうしていると思っていたけれど、今考えると 街道を避けていたんだと思う。

大きな街の記憶はないし、サマニア村と同じ規模の村だったんだと思う。


それにギルマスたちには言ってなかったけど、多分お母さんは薬草の販売を冒険者ギルドではなく 薬局とかの小さなお店でしていたと思う。

だって、冒険者ギルドは どこの地域の冒険者が訪れても困らないように、似たような外観と内装になっていると言われたんだもの。

勿論村や街の規模によって建物の大小はあるらしいけど、外観のほか、中の受付、待合スペース、地下に訓練場と救護室や会議室(教室)、2階に資料室と、大会議室、3階以上にギルマスの部屋というのは共通らしい。


となれば、私はこの村に来るまで 一度も冒険者ギルドに足を踏み入れたことはない。

考えてみれば 母のギルドタグはマジックバッグに入っていたし、パーティー名も削られていた。

ギルドで売買をするときはギルドカードを使うし、タグは銀ランクを証明するために首から下げる必要がある。

それをしていなかったという事は、母は冒険者としての証明をしないように行動していたのだろう。

あの宝箱を開けることが出来れば 母のことが分かるのかもしれないけど、仕方がないよね。

なので私は自分の力で 母と同じ銀の上級まではランクアップしたい。

ダンジョンを巡りたいというのは勿論目標のひとつだけど、死んでいるかもしれない父についても調べたいとは思っている。

生きているなら文句のひとつも言ってやりたいしね。


今日からは、銅ランク冒険者として、冒険者らしい活動が始まるのだ。

朝食を終えれば 気合を入れ直し、お父さんに少々笑われながらも ストレッチをしっかりする。

今日はマジックバッグを持っていく。

これはリリウムさんに調整してもらって、紐を付け直してもらって、リュックスタイルになるようにしてもらった。

肩掛けだとどうしても走るのにも、短剣を抜くにも邪魔になるからね。

白だった鞄はそのままでは目立つからと、染色もしてもらい、焦げ茶色のリュックになった。

ベストを着て、剣帯を腰につけ、リュックを背負えば完璧だ。


「お父さん、どう?」


「ん?おお、冒険者らしく見えるぞ。ヴィオ 格好良いな」


もう!お父さんってば褒め方を知ってるよね?

格好良いと言われて飛び跳ねて喜んでいる私を見て 目尻を下げているお父さんに気付くことはなく、いつもの学び舎に行くより早く家を出る。


依頼を受けるにはギルドで受付をするんだけど、今日の私は常設討伐依頼である ホーンラビットを討伐するのが目的だから、ギルドに寄らずに外に出る。

なので、ギルドのある西門ではなく、家から近い東門から外に出る。


「おや? アルクさんお出かけですか? おお、ヴィオちゃん 勇ましい格好だね、もしかして森かい?」


門番のおじさんが声をかけてくれる。

子供薬草採収では、子供たちに危険がないように 村の大人たちも 時間があれば監視役で参加してくれている。

なので、年齢が近い子供がいない大人たちとも顔見知りになった。この門番のおじさんとも 採集の時に仲良くなった一人だ。


「うん、ホーンラビットを狩りに行くの!」


「そうか、気を付けて行っておいで」


手を振り合って門を出る。私がサマニア村に流れ着いたのは 春の2か月目、地球でいう5月の初めだ。

あれから丸々三か月が経ち、こうして力をつけて村の外に出ることが出来るようになった。

私を捨てたあの糞禿領主は嫌いだし、母さんの形見であるネックレスを奪った娘は腹立たしいままだけど、あいつらのお陰で お父さんと出会えた事だけは感謝している。

そしてあの国で私の能力を知られることが無くて、本当に良かったと思っている。



村の門を越えれば 広い畑が拡がっていた。

大人たちが畑仕事をしているのも見えるけど、これは凄いね。


村の中にも畑は点在していたし、小さな森もあったけど、こんなにも広い畑があるとは思ってなかった。

そして遠くには 険しい山が連なっていて、この村が辺境だという事を改めて実感した。


「お父さん、あのお山が国境? あの上にドラゴンがいるの?」


「ああ、あの山の向こうは皇国で、この山のずっと東側がメネクセス王国、川のずっと西側は共和国じゃ。

ちなみにこの山の上はドラゴンの巣はない……はずじゃ。

ドラゴンがおるんは メネクセス王国と皇国の国境にもなる山じゃから、まあこっちにずれてきてなかったらと言えるかもしれんな」


ああ、山は繋がっているから 繁殖で増えてたら お引越ししてる子ドラが居てもおかしくないよね?

まあ急に人里に下りてくるなんてことはないらしいから、無理な国境山越えをしない限り会わないらしいけどね。



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