第87話 冒険者装備の完成


学び舎の最終日は 文字と言葉の授業で ポール先生から卒業を発表されたことで、皆からおめでとうの声と同じくらい驚きの声も上がった。


「まさか、ヴィオに先を越されるとは思わなかったな」


「俺だって、薬草採取に慣れてきたからな。来年冒険者登録したら 最速で銅ランクになってやる!」


「びお、もう、こなくなっちゃうの?」


ナチ君は多分来月には銅ランクになるらしく、トニー君はまだ登録できてないから非常に悔し気だ。

一緒の席に座っているハチ君は 私の袖を握ったまま、涙目で訴えてくる。

どうしよう、キューン ク~ンと甘えられているようにしか思えん。

そして、いつだってこういう時に 一番訴えてくるレン君は机に突っ伏している。


「ハチ君 学び舎は 銅ランクになったから卒業になっちゃうから授業には来ないけど、まだまだ勉強不足があるからね、ギルドには勉強しに来るよ。

ミミーさんの資料室で座学は続けるし、午後には訓練場で特訓もしに来るつもりなの。

だから、だからレン君、訓練場でも時々一緒に訓練しようね。聖の日の薬草採取だって 時々は参加するつもりだから、ね?」


右腕にきつく巻きついていたレン君の尻尾が スルリと緩んで ベシベシと私の太ももを叩く。

無言でここまで訴えてくるとか、ズルくないです?


「絶対だぞ? おれだって、冒険者に登録したら、最速で銅ランクになるし、そしたら 討伐だって一緒に行ってやるからな。ぜって~負けねえ!」


「ふふっ、レン君が銅ランクになる時には 私も銀ランクになってるだろうし、私だって直ぐに追いつかれないように頑張るんだからね」


2年も先にランク上げておいて 速攻で追いつかれるとかダサすぎるじゃないか。銀の白までは そこまで難しくないって言うし、せめてそこまでは達成しておきたいよね。


魔術の授業では 次回からお父さんが抜けることになるので、二人の先生とアリアナ先生の3人でカルタ作りの魔力調整を頑張るんだって。

私とお父さんで角材、研磨前までの素材準備を大量に作ったし、今後も その素材納品だけはする予定だから大丈夫なんだって。



◆◇◆◇◆◇



「さあ、出来上がった傑作を 着て 見せて頂戴!」


学び舎が終わった午後は、リリウムさんのお店に来ています。

冒険者装備が完成したというのは ルン君から教えてもらっていて、今日お店に来てほしいと言われたのだ。

お店にはミミーさんも居て、ブーツが入っているであろう袋を持って嬉しそうにしている。


「おや? ヴィオちゃん いらっしゃい。

早速来てくれたんだね。今回は二人の希望がたくさん詰まっているデザインを元に作ったよ。

動きを阻害せず、着やすくなるように調整したんだ。着心地とか正直に教えてもらえると嬉しいよ」


お洋服と靴のデザインに注文は一切していない。

サマニア村に来てから作ってもらっている服は 完全お任せだし、私はお洒落とかよく分からないしね。

鞭のベルトと 双剣を後ろで帯剣することだけ伝えているけど、冒険者装備という注文がお父さんから出ているので、ヒラヒラフリフリにはなっていないだろう。


「じゃあ、まずはこの服に着替えてもらうわ」


リリウムさんに連れられて試着室に入れば、お洋服を数枚渡される。え?まずは のわりに枚数多くない?

今日は 武術訓練じゃなかったので ワンピースとショート丈の靴下に、リボンがついたローファーのようなペタンコ靴だ。

リリウムさんのお手伝いで 一瞬でパンツ一枚になってしまったけど、女性同士だし恥ずかしくはない。そこに関する驚きは前回のお着替え祭りで体験済である。


「最初にこのタイツを履いて頂戴、魔虫の糸を使っているから早々破れることはないわ。

それから このショートパンツね、まだ上の下着は必要ないから このインナーを着てから、こっちのシャツを羽織るの。

これも防刃効果があるし、魔法陣の刺繍もしているから 温度調整もされているから多少の寒暖は耐えられるわ。上からこのベストを着れば完成よ♪」


次々に手渡されるお洋服だけど、その効果を聞いて驚く。

防具は不要だから普通のお洋服で冒険者に見える服を作ると思ってたのに、そんな色んな効果があるなんて、完全に防具じゃない?


深い緑色のタイツは柔らかくて、とても履き心地がいい。ちょっと大きいと思ったけど履いたら スっと足にフィットしてくれた。

インナーは黒いノースリーブのハイネックシャツで、短パンも同じ黒、いや濃い焦げ茶色なのかな?

上から羽織る用のシャツは 白いシャツ。袖がキュッと締まっていて、肩から袖までは少しふんわりとゆとりがある感じで可愛い。身体の部分は ピタリとしているので、着た後に身体を捻っても、前屈しても鬱陶しくない。

シャツをインした後に、鞭のベルトと剣帯を巻くように言われて 装着すれば、その上から紺色のベストを着せられる。

ベストには金色の糸で細かい刺繍が入っており、これがさっき言ってた魔法陣なのだと思う。


「うんうん、可愛いわ。このスタイルならこっちのブーツね」


着替えた私の周りをグルグルしながら確認したリリウムさんに ロングブーツを渡されたので 履いてみる。置いているだけなら 紐がかかったままでも長靴のようにスポンと履けそうな大きさだったのに、履いた途端 私の足に吸い付くようにフィットした。


「できたかしら? さあ、出てきて見せて頂戴!」


カーテンの向こうからミリーナさんの声が聞こえ、カーテンを開けてみんなの前に出る。どうですか?

両手を広げて ゆっくり全体が見えるように回転して見せる。


「動きにくいとかはないかな?」


デザイナーのランダさんが心配そうに聞いてくるので、その場で屈伸、ジャンプ、前屈と後屈、捻りなど色々な動きをして見せる。

これだけ激しく動いても、シャツが出てくることもなく、動きにくいという事がないのが凄い。


「全部の服が吸い付いているみたいで、洋服を着ている感じすらないです。靴もとっても軽いし、動きやすいです!」


正直な感想を述べれば、ランダさんもミリーナさんも嬉しそうに笑ってくれる。

だけど、これは1枚目のお着替えで、あと2着分のお着替えが待っていた。


2着目はスカートタイプの装備で『村娘、お父さんと初めての外出』と名付けられていた。

ちなみに1着目の短パンスタイルは『ドキドキ ワクワク はじめての冒険』という名がついていた。


スカートタイプの装備は カントリー調のふんわりした襟元の開いた小さな花柄刺繍が襟元に入ったシャツなので、インナーは外から見えないタンクトップ。

ベストのかわりに茶色いコルセットみたいなのをシャツの上から付けるんだけど、これは必要なのだろうか?

ご婦人方ならお胸を支える意味もあるだろうし、ちょっと「ワ~オ」ってなるかもだけど、5歳児の私はツルペタだから、腹巻に見えなくもない。

スカートはモスグリーンの膝丈で、タイツは白。確かにスタイルとしては この村でも足首までのロングスカートではあるけど、似たような服の奥様を見たことがある。

この国では一般的なスタイルなのだろう。

ただ、1着目と同じように様々な効果がついているけどね。

腹巻にしか見えないコルセットにも、ベストと同じように魔法陣が刺繍されているので付けない理由がない。


「これはショートブーツの方が可愛いわ」


「ロングでもまた違うけど、ああ、やっぱりショートブーツでタイツを見せるのが可愛いわね」


お着替えして見せたら、ブーツを履き替えて更に見せるという事が待っていました。

お父さんはどっちでも可愛いと言ってくれたけど、リリウムさんとミリーナさんの多数決で、スカートの時はショートブーツで決定したようです。

ちなみに〈村娘〉という設定があるからか、短剣は無しでベルトがわりの鞭だけを身に着けることになり、短剣は太ももに皮ベルトで留めるという、世界的有名な怪盗のカノジョでもある「あは~ん♡」なあの方になったような気がしてテンションが上がった。



そして最後の3着目は 『冒険者の娘 強くなる』という名がつけられていた。

3人のうち誰が名付けなのかを聞いてみたい。


これは前の2着と違い、完全隠密スタイルだった。

タイツは前のどちらでも良いと言われたんだけど、それもそのはず、3着目は黒い長ズボンだった。

全体的に透け感のあるピタッとしたハイネックシャツには銀糸で腹部全体に模様が入っているので、デコルテと腕だけが透けているように見える。

透けと言っても黒い生地だからそんなに気にならないけどね。

しかもその上から渡されたアウターは、これも黒に近い生地で ノースリーブベストではあるけど、少し丈が長く、お尻まで覆うくらいの物なので、実際に透け感のある生地が見えるのは腕だけだ。

ベストの上から剣帯と鞭のベルトを巻き付ければ、ロングブーツを履いて完成だ。


「あ~ん、キリリと格好良いスタイルでもヴィオちゃんの可愛さで相殺されるわ。

このスタイルの時は 高めのツインテールをしてもらいたいけど、ポニーテールでも可愛いわ」


色変えの魔道具を付けている関係で、ひとつ結びになるんだよね。

ちなみに町娘の時はハーフアップで、初めての冒険の時は 低めのひとつ結びで髪型も指定されている。(変えても怒られないとは思うけどね)


興奮気味のミリーナさんとリリウムさん、着用具合を確認して調整が必要かの質問をしてくるランダさん、お父さんはランダさんに装備の魔法陣に関しての質問をしていて、大人たちは大興奮です。

絶対に高額だと思うのに、今回もお支払いに関しては私の知らないところで行われていて、1着だけのつもりが3着も買ってもらうことになり、お父さんは勿論のこと、ランダさん、リリウムさん、ミリーナさんにも素敵な装備を作ってくれた感謝を伝えた。


これでいつでも冒険者デビューが出来るね!







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お読みくださりありがとうございます。

なんと、このお話で100話に到達いたしました!

ヴィオも銅ランク冒険者になり、武器と防具も出来上がりました。

ここから更に 冒険者としての活動を頑張っていきます。


面白かったと思っていただけましたら、☆タップしていただけると嬉しいです。

図々しくも、コンテストにも応募してみました。

今後もヴィオの成長をお楽しみくださいませ( *´艸`)

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