第一話 旅行

 装軌車が道路を走っている。

 

 季節が冬に近づき、霜が降りた、荒れた大地を横目に、ただひたすら街道を道なりに装軌車は進んでいく。


 「寒くなってきたね。」

 「そうだね。もうすぐ雪が降るのかな。」

 「おなかが空いてきたな、今何時だろう。」

 「レン、今何時?」

 「今8時だよ」

 「レン、僕おなか空いちゃった。朝ごはんにしない?」

 「賛成!」

 

 装軌車を路肩に止めて、二人はそこから降りた。

 「ここで火をおこそう、野営だ。」

 

マッチを擦り、薪を霜の降りた原っぱに置く。

 「なかなか火がつかないな」


 「薪が湿ってるんだね」

 「野営は諦めて、暖を取れるところを探そう」

 「そのほうがいいね」


 二人は再び装軌車に乗り込み、また道路を走りはじめる。

 「どうしようか・・・」


 「暖を取れるところって言っても、近くに空き家もないし」


 「あっ!いいのみっけ!」

 「いいのって、どこ?」

 「あの廃飛行機だよ!」

 レンは近くの飛行機を指差しながら、目を輝かせて言った。レンは飛行機が大好きなのだ。

 

「あの飛行機に何かあるかも!行ってみようよ!」

 「はいはい、レンって飛行機が本当に大好きだね」


 二人は飛行機がはっきりみえるところまできた。

 飛行機は驚くほどに状態が良く、まだ塗装が残っていた。

 部品は少し錆びているが、整備すればまだ動くだろう。

 

 反対側に回ると、貨物室がのドアが開いていて、中には発電機が置いてあった。

 

 「ユータ、この発電機動くかな?」

 「軽油発電機だって、僕たち軽油なら少し持ってるね」

 「動かしてみようよ」

 「やってみよう」

 発電機の燃料タンクを開けてみると、まだ燃料が半分近く残っていた。

 「燃料たくさん残ってるね」

 「これならすぐに動かせるかも」

 レバーを運転のところに合わせて、始動スイッチを押し、始動グリップを引いた。

 そして、発電機はおおきな音をたてて動き出した。

 「やった!動いた!」

 「レンは持て余していた電気ストーブを繋いだ。」

 「やっと電気ストーブが使えるね」

 「僕たち椅子がわりにしたり机がわりにしたりして使ってたけど、やっと本来の役割で使ってあげられるね」

 「きっとこの電気ストーブも喜んでるね」

 「嬉しそうにう゛ーんって言ってるし。」

 

 貨物室にはまだまだ宝があった。

 「うぉっカセットコンロだ!」

 「ガスもたくさんあるね!」  

 「ガスの使用期限が2年後の8月だ!この飛行機が捨てらたのは最近なのかな?」

 「ありがたくいただこう」

 「そうしよう」

 さらに貨物室内を漁っていると、たくさんの缶詰があった。

 「みんな消費期限が3120年だ。」

 「商品の仕入れでもしてたのかな?」

 「あと2年はもつね」

  「でもこの飛行機はなんで捨てられたんだろう」

 「不思議だね」

 「缶詰もいただいていこう。」

 「そうしよう」


二人は水筒と水で乾杯して、温めた缶詰のレーションを口に運んだ。


 「温かいごはんなんていつぶりだろう。」

 「最後にいつたべたかなんてわかんないや。」

 

 「発電機とガスコンロだけもらって、あとは置いていこう。」

 「置き手紙していこうよ」

 「いいね、そうしよう。」

 

 二[見知らぬ人へ、おかげさまで温かい食事を取れたし、暖を取る事もできました。ほんとうにありがとうございました。]

 

 置き手紙を書いて、二人は飛行機から去った。

 そして二人はまた道路を進みはじめた。

 

 「あたたまったね」

 「飛行機を見つけてくれてありがとうレン、おかげで久しぶりに温かいごはんにありつけたよ。」

 「日がでてきたね」

 「うん、ちょっと暖かくなってきたね。」

 「なんか眠くなってきたね。」

 「そうだね」

 「お昼寝しちゃおっか?」

 「そうしよう」

 

 そして、夕方になった。


 「むにゃむにゃ、もう食べられないよ~」

 「レン、起きて!もう夕方だよ!」 

 「うにゃ?」

 「レンって幼女みたいだね」

 「にゃにお~!13歳のつよつよ少年兵やぞ!」

 「やっぱり幼女みたい」

 「ところで、幼女云々はどうでもいいんだけどさ、あっちの方に明かりが見えない?」

 「レン、急にシャッキリしたね、どうしたの?」

 

 たしかに夕焼けの反対側に、確かに光が見えた。

 あれは明らかに人の営みが作る光だ。

 道を澄ますと、歌い声や笑い声も聞こえる。


 「キャラバンでもきてるのかな?」

 「あっちに言ってみない?」

 「そうしよう!久しぶりに人に会えるね!」

 「ユータ、僕が人じゃないと言うわけ?」

 「そうじゃないよ~」


 「はあ、幸せだね」

 「うん、幸せだね」


 「こんな生活も悪くはないよね」

 「むしろ楽しいよね」


 「昔の人たちはさ、便利で幸せな生活をしてたって聞いたけど、どうだったのかな?」

 「わかんないや、僕たちはいつも生きるので精一杯だし、考えたこともなかったね。」

 

 「僕は今の暮らし以上の幸せはないと思うな。」

 「僕も。」


 二人を載せた装軌車は光を目指して進んでいく。

 どんな人たちに出会えるのか、二人は楽しみにしながら進んでいくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

つぐないの終末記 user109331 @109331

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画