コンクールに向けて

第6話 合唱コンクールのピアノ伴奏

5時間目は音楽で、11月に行われる合唱コンクールで誰がピアノ伴奏のオーディションにでるかと、指揮者を決めるという内容だ。ここで選ばれたものは、オーディションにでることになる。

「ピアノ伴奏をする人の候補は、吉野くん、桜葉さん、中村さんです!」

担任の陽香先生がそう言ったとき、話をちゃんと聞いてなかった俺は、驚いて立ち上がった。

「なんか俺、候補に入ってんだけど!?」

そう言った瞬間、視線が一気に俺に注目した。

黒板に、俺と桜葉の名前が書かれている。そういえば桜葉、ピアノ上手いんだっけ。

「あの・・・、吉野くん。話聞いてなかったの?」

「はい、ぜんっぜん聞いてませんでしたぁ!」

俺はそう言って座った。あー、びっくりした。

なんで俺はこんなにも気にされるのか。

何故俺はこんなにも気にされなきゃいけないのか!

というか、やめる宣言は先生に聞こえてなかったの⁉︎

「吉野くん、次はちゃんと話聞いてね?」

「はーい」

小声で応えた。

「やりたくないんだけどな・・・」

「はい、余った時間では合唱練習をしましょう!」

歌うのは定番の合唱曲。

俺は前に配られた楽譜を見た。

カラオケに行くと何故か毎回100点をとる俺だが、今回は歌いたくない。

・・・歌い、たくないのだが。俺のクラスは合唱のとき声が小さい。俺や智也、そして桜葉が歌ってなきゃ、全員歌ってないのとほぼ一緒だ。そのくらい、みんな歌ってないんだ。

仕方ない、今回は口パクにして桜葉と智也に任せるか。でも智也は指揮者だから、多分歌うのは桜葉と俺。中村が歌えるかは正直言ってまだ知らない。

俺たちは音楽室の後ろのステージに並んだ。

 先生がピアノで伴奏を始めた。

——って、全然歌ってないし!

あんにゃろー、あいつらも歌ってない!

俺は不安になって、周りをキョロキョロ見回した。

ウソだろ⁉︎みんな口パクかよ!こんなんじゃ合唱コンクールで優勝できないぞ!

くそー。こうなったら歌うしか!

そう思って歌っていたのは、俺だけだった。

そう、俺だけ。好きで歌いたいという気持ちが全くない俺だけ。ソプラノパート、アルトパート、男声パートの3つに分かれているが、歌っているのはアルトパートの俺だけだった。これで前みたいに歌詞間違えたら大変なことに!

ソプラノパートの桜葉が、俺のことをチラチラ見ているのがわかった。

「ヨーちゃん・・・」

桜葉が俺のあだ名を言ったのが聞こえた。多分、あいつは緊張している。今は、やめる宣言したにも関わらず歌わないといけない状況なのだ。

 そのとき。桜葉と同じソプラノパートの中村の声が聞こえた。

あ!歌ってる!桜葉も歌い出した。でもまだ、男声パートの声が聞こえない!

おい、指揮者智也!歌え!一応男声パートだろう!

俺は前の方で指揮をする智也を見つめた。

 智也が歌ったのは、その数秒後だった。

みんな歌い始めた。だから俺は、口パクで歌うことにした。


合唱が終わった。

「吉野くん、すごい歌ってたね」

先生が言うと、俺はみんなに向かって言った。

「と言うか、お前らちゃんと歌え!簡単に言うと、クリアボイス!!」

「クリアボイスって・・・。だからなんで毎回英語なのw」

智也が苦笑いしている。

「でもヨーちゃん、よく歌ったね。あんなにやめるって言ってたのに」

桜葉が言った。

「それは、・・・そう、だけど。」

そこから長い長い沈黙が始まった。

嫌いだ。 楽器なんて嫌いだ。歌うのも嫌いだ。

でも、歌わなきゃダメだったんだ。

なんで俺はこんなに気にされなきゃいけないの。気にしなくていいから。

「ヨーちゃん、このまま合唱コンクールやめちゃう?」

智也が言った。

「やめるんならやめる。それで終わり。」

「でも・・・」

クラスの女子がつぶやいた。

「歌わないんだろ?」

「歌う!歌うから」

また、その女子が言った。

「じゃあ、歌うで決定だな」

智也が言った。

それでも教室はシーンとしたまま。そのまま、ただただ時間が過ぎていった。



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