1巻

プロローグ

やっぱり言おうか。俺・吉野陽介よしのようすけはいつものようにトイレットペーパー爆弾ただのトイレットペーパーを親友の浅川智也あさかわともやと投げ合いながら、考えた。

そして、手を止めると大きく息を吸った。

「もう、楽器なんてやめてやる!!」

時間を無駄にするかのように俺はクラスの連中に向かってバカみたいに叫んだ。

俺の声が教室中に響き渡って、みんながやばいって顔をしてたけど、それでも構わない。

心の中のモヤモヤをぶちまけて、スッキリしたかったんだ。

「・・・お前、マジで言ってる?」

智也も、なんかビビってる。

ずっと、音楽をやっていた。いや、最初は楽しいって思ってた。でも、あのクソメガネ指揮者とか、上手くなりたいって焦りに押し潰されそうだった。楽器を持つたびに、なんか苦しくて、だんだんと楽器が嫌いになっていった。だから、やめる。それで終わりだ。そんな決意を、言葉にしてしまった。俺は片付けもせずに自分の席に座った。

友達も俺が辞めるって聞いて、何か言おうとしてるけど、もう聞こえない。楽器なんかやっても、いいことなんてないんだから。そう思いながら机に突っ伏して待ってると、教室のドアが開く音がした。その瞬間、緊張が走った。誰か入ってくる。

 ーこの空気をぶち壊すヤツが・・・。

転校生だった。

そいつは、女の先生と一緒に入ってきた。

「みなさん、静かに!」

先生がそう言うと、みんなが黙った。

中村美月なかむらみつき・・・です。よろしくお願いします。」

中村美月って名前らしい。ふわふわしたボブヘアの女子だ。

どこかおどおどした感じで、ほんの少しだが、音楽が好きそうな雰囲気も漂わせてた。

俺は興味を持ったけど、正直、今はそんなことに構ってられない。どうでもいい。と思ったけど、なんだかその子に目が離せない自分がいた。


それでも、その日は何も起こらなかった。

美月が俺のことなんか気にせず、クラスメートとちょっと緊張した顔で会話している姿を見て、どこかイライラした。俺の中の「やめる」宣言は、彼女には全然響いてないのか? それとも、やっぱり俺が何かを変えなきゃいけないのか?でも、変わるって、一体どうすればいいんだ?

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