第22話 頭が……。
「閉じ込められているって、どういうことだ?」
ユーリが問いかけると、ガレスは詳しく状況を説明し出した。
「お前たちと同じように、我々もここで拠点を構えた後、一つ前の遠征隊……第六遠征隊との合流を図った。だがその道中で不思議なことが起きたんだ」
そう言ってガレスは立ち上がる。
ガレスは小屋の出入り口である扉の前に立った。
「この扉を越えたら、小屋の外に出る。そうだな?」
「……ああ」
何を当たり前のことを言っているのだろうか。
ガレスは扉を開き、外に出た。
そしてすぐ小屋の中に戻ってくる。
「だが、我々は扉を越えても、再び小屋の中に戻ってしまう」
どういう意味だろうか……?
扉を越えても中に帰ってくる?
この男は一体何を言っているんだ?
「ガレス、お前、頭が…………っ」
「私は正気だ」
これまでの戦いで何らかの後遺症を抱えてしまったのかと思ったが、そうではないらしい。憮然とした表情でガレスは説明を続ける。
「この拠点を中心に、一定以上の距離を進もうとすると何故か元いた地点に戻ってくるのだ。まるで道に迷って同じ場所を何度も通ってしまうかのように。……閉じ込められているというよりは、遭難と言った方がいいのかもしれん。とにかく、我々はこの拠点周辺から離れられんのだ。だから海岸まで迎えに行くこともできなかった」
説明だけではどうにも理解し難いが、どうやらガレスたち第七遠征隊の隊員たちは、この拠点付近から離れられないらしい。だから海岸まで戻ることも、第六遠征隊の拠点まで向かうこともできず、この場に留まるしかなかったようだ。
「……そういえば、ガレスと合流する直前に変な感じがしたな」
ガレスがソルジャー・スケルトンと呼んでいたあの骨の魔獣と遭遇する直前だ。
あの違和感が関係しているのだろうか?
「変な感じとはどういう意味だね? 失礼だが、あまり根拠のない推測を述べられると私のような学者は混乱してしまう」
ハガットは責めるような目でユーリを見た。
しかし床に座り直したガレスが、ハガットを宥める。
「ハガット殿、ユーリの勘は信じて構いません。この男の特技のようなものです」
ユーリは無言で首肯した。勘は勘なので、自信を持って正しいと述べることはできないが、他の人と比べると当たっている確率は高いという自負はあった。
隣を見れば、マオがぶんぶんと首を縦に振っていた。
この女もユーリの特技は知っている。
「第七遠征隊の状況は分かった。……だから食糧に困ってるのか?」
「そうだ。動物は勿論、魔獣もこちらから探しに行くことはできず、偶々この拠点付近に入ってきたものを狩るしかない。これでは食糧の確保が難しい」
どうやら第七遠征隊もやむを得ない理由で魔獣を食べているようだった。
二年間そうして暮しているなら、魔獣の肉は食用にしても問題ないのだろう。
「ユーリ、到着してすぐで悪いが、調査を頼まれてくれないか?」
「いいぜ。その閉じ込められる現象が、何を対象にしているのか知りたいんだろ?」
すぐに要点を理解するユーリに、ガレスは微笑んだ。
話が早くて助かる――案にそう告げるガレスだが、その一方で今のやり取りを理解していないレイドが首を傾げる。
「おい野蛮人、どういう意味だ?」
「閉じ込められる現象っていうのが、何を対象にしているのか調べるんだ。……想像する限り二通りの答えがある。一つは、第七遠征隊の隊員を対象としたもの。もう一つは、この拠点そのものを対象にしたもの」
「要するに、その現象が人に依存しておるのか、場所に依存しておるのかを調べるというわけじゃ。前者の場合、妾たちなら海岸まで帰れるはずじゃのう」
マオの補足は正しい。閉じ込められる現象というのが人に依存している場合、その正体は集団催眠とか幻覚とかがありそうだ。そこまで問題を限定できれば、あとは原因の分析も早く済む。たとえば幻覚の原因で一番ありそうなのは、そういう作用の食べ物を口にしたなどだ。魔獣の肉は食用に適していると思ったが、そうではない可能性もある。
しかし、後者……つまり閉じ込められる現象が、この拠点を囲うように発生している場合。
その場合は、既にユーリたちもこの拠点周辺から出られない状況に陥っている。
この答えを確かめるには、ユーリたちが外に出て調査するしかない。ガレスたちでは調べられないことだ。
「ガレスと合流した地点で試すのが一番分かりやすいだろうな。……マオ、一緒に来てくれるか? まだ体力に余裕あるだろ?」
「うむ、元気いっぱいじゃ」
ミルエとレイドは道中で既に満身創痍に近かった。二人は休ませることにする。
しかし本来なら、魔獣が蔓延る森を突き進んで来た以上、ユーリとマオも心身の休息に時間をあてるべきである。ガレスはそんな二人を気遣ってか、小屋から出ようとするユーリの背中に声をかけた。
「ちなみに、例の塔は我々の合流地点から真北に向かったところにある」
「へ~~~~。そうか、なるほど、へ~~~~~~~」
「……我々は既に二年もその塔を調査している。何も残ってはいないはずだ。一番奥に、資格がないと言われて開かない扉があるが、そのくらいだぞ」
「ふ~~~~~ん」
ユーリは適当に返事をした。
だがその目はギラギラと輝いていた。
(絶対行こう)
(絶対行くって顔してるのじゃ……)
マオの白々しそうな顔に気づかず、ユーリは小屋を出た。
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