気づけば異世界にいた。

くまたに

第1話 気がつけば俺は異世界にいた。

 俺の名は、佐藤 幸大(さとう こうた)どこにでもいるような高校生だ。

 しかし、たった一つだけ他の人と違う事がある。それは、運が良すぎることだ。なんだなんだ『それだけ?』って思っただろ?それが本当に凄いんだ。俺は神社のおみくじで大吉以外を引いたことがない!それに、自販機でジュースを買おうとすると絶対にお釣りが取り忘れられている!どうだ!凄いだろ?って誰に言ってんだ俺。


 少し遠くからおじいさんの慌てたような声が聞こえた。

「ひったくりじゃ!!頼む誰かアイツを捕まえてくれんか?!」


 後ろから値段が高そうなバックを持った男性が走ってきた。


「巻き込まれたくないから少し離れるか」


「!?」


 俺は地面の溝に足を引っ掛けてしまいつまづいてしまった。


 その時、

「グッ、」

 突然横腹に衝撃が加わった。なんとひったくりをした男性が倒れた俺に引っ掛かってつまづいてしまったようだ。


 そのおかげでひったくりをした男性は見事周りにいた人たちに捕まえられた。

 俺は、値段が高そうなバックひったくられたおじいさんが「ありがとう」と俺の手をぶんぶん振って、お小遣いをくれた。

 やはり俺は運がいいんだ。いや、良すぎないか?おかしいだろ。


 *


「行ってきます」

 誰も居ない家に向かって挨拶をして家を出た。

 俺の両親は交通事故で死んでいる。俺はその日を境にいきなり運が凄く良くなった。理由は分からない。だから考えないことにしている。正直、運が凄くいい毎日はとても楽しい。それは嫌なことはほとんど無く、毎日いいことがあるからだ。


 そんな時、昨日のように少し遠くから慌てたような声が聞こえた。

「おい!そこの青年危ないぞ!」


 ん?危ない?

 嫌な予感がして後ろを見た。

 ナイフを持った男性が俺を目掛けて走ってきているではないか。

 さすがにやばい。俺は運がいいけれど今の状況は絶対に刺されてしまいそうだ。

 周りにいた人たちが刺されそうな高校生を見て騒いでいる。


 楽しい人生だった。俺は今までの日々を走馬灯のように思い出した。優しかった両親。運がよくいい事ばかりの毎日。

 そんな毎日も今日で終わりか。嫌だ嫌だ、怖いよ。

 俺は強く目をつぶった。


 周りの騒がしい声がだんだん聞こえなくなっていく。


 騒がしかった声が全く聞こえなくなった。そうか、俺はもう死んだのか。てことはここはあの世か?


「良かった。上手くいったようだな!」

 誰かの声が聞こえた気がした。

「これで国は救われる!」

 死んだはずなのに人の声が聞こえて慌てて目を見開いた。


 そこにはさっきまで見ていた景色と全く違う景色が広がっていた。


 辺り1面ロウソクが立ててある。謎の部屋。目の前にはさっきの声の主の青年が嬉しそうな顔で見下ろしている。

 俺は困惑しつつ聞いた。

「あ、あの〜。ここはどこですか?」

「ここは召喚の地『ベシュヴェーレン』だ!」

「『ベシュヴェーレン』??」

 青年は頷く。

「ここでは異世界からの召喚が行われるのだ!」

「魔王を倒す勇敢な勇者を召喚する儀式をしていたのだ!」

「魔王を倒す勇敢な勇者!?」

 どうやら俺は、まだ死んでいないらしい。けれど、俺は勇者として召喚されただと?俺は魔王を倒すために召喚されたのか?俺は運がいいこと以外は普通の高校生だ。そんな俺に魔王を倒せるとは思わない。どうしよう?

 そんなことを考えていたら男性が口を開いた。

「頼むこの世界を魔王から助けてくれ!」

 やはり想像通りだ。どうやって断ろうか。

「魔王を倒していただいたら俺にできることなら何でもお願いを聞く!だから頼む!」

「うっ、」

 俺は頼まれたら断れない体質だ。けれど魔王なんかに俺が勝てるはずがない。命が無駄だ。絶対断ろう。

「俺の両親は魔王に殺された。けれど俺には力も無ければ魔法も使えない。俺には魔王を倒す術がないんだ」

 ん?魔法?魔法って言ったか?少し気が揺らいだ。

「魔法ってなんだ?俺も使えないぞ?だから元の世界へ返してくれ」

「あなたは魔法を使えるよ?」

「え?」

 どういう事だ!?

「俺は魔法なんて使ったことがないぞ?」

「ただ使い方をしらないだけで、使い方が分かればあなたも魔法を使うことが出来るよ?」

 な、なんだと!?魔法、使ってみたい。使えたらモテそうだな。って何を考えてるんだ俺。魔法の使い方を知る=魔王と戦うようなもんじゃないかよ。無理無理!絶対無理だ!けれど、欲が勝ってしまう。

「俺ならどんな魔法が使えるんだ?」

「え?使い方が分かれば何でも使えるよ?」

「な、なるほど」

『何でも』だと!?も、もしかしたら夢の透明人間になる魔法だってあるのか?

「お、おい。透明人間になる魔法などあるのか?」

「ああ。もちろんあるぞ」

「よし。魔王を倒すのは俺に任せとけ」

 あ。つい魔王を倒す約束をしてしまった。

 けれど後悔はない。透明人間になって夢を叶えれれば俺の人生はどうだっていい。夢は何かって?女風呂に入ることだぁ!って誰に言ってんだ俺。とにかく俺は魔王を倒すためにこれから頑張るとしよう。

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