ニートな俺を甘やかす天使様がやってきた

オリウス

第1話

 俺、倉井くらい新人にいとは引きこもりのニートである。

 高校を途中で中退し、家に閉じこもって早一年。毎日昼間で寝てはゲームをするだけの怠惰な生活を送っていた。

 そもそも俺がどうして引きこもるようになったのかというと、いじめだった。

 見た目が太っているので、馬鹿にされ、正義感を振りかざしたらいじめられた。それで心が折れて、この世に希望を見出せなくなって、引きこもるようになった。

 本当にみじめな人生を送っていると思う。

 親は海外赴任で家に年に一回家に帰ってくるかどうか。親の仕送りで俺は怠惰な生活を送っている。


 目が覚めたら時刻は十二時を少し回ったところだった。

 なにやらインターフォンが鳴っている。この家には俺しかいないのに、いったい誰が訪ねてきたのだろうか。NHKの集金か? そう思って重たい体を起こす。俺の体は不摂生が祟り、以前よりさらに太っていた。今更ダイエットなんてする気にもならない。

 俺は財布を手に取り、玄関のドアを開いた。


「こんにちは。倉井新人さんですか」


 眩いばかりの美少女が立っていた。金髪が靡き、吸い込まれそうな瞳は見る者を魅了する。おっぱいもでかい。こんな美人がいったい俺に何の用だ。俺は疑問に感じ、怪訝な表情を浮かべる。


「私、義春よしはる様に雇われました、月城つきしろ陽菜ひなです。今日からこの家で新人さんと一緒に暮らすことになっています」


 一緒に暮らす? わけがわからない。親父が雇ったというのはわかるが、こんな美人と二人きりで暮らす? 

 俺は混乱し、言葉が出てこない。その隙に月城さんは家の中へ侵入してくる。


「お邪魔しますね」

「あ、ちょっと」


 俺は長年の弊害で人と上手く話せない。というかこんな美人、なんて話したらいいのかわからない。

 月城さんは家の中に上がると、荷物を置き、ぐっと伸びをする。


「今日から一緒に暮らしますし、新人くんと呼んでもいいですか」

「あ、はい」

「じゃあ新人くん、今日からいっぱい甘えていいですよ」


 両手を開いて俺の方を見る月城さん。俺はどきりとして、思わず目を逸らした。


「俺にニートをやめさせようってんだろ。そうはいかない。俺は家を出るつもりはない」

「何言ってるんですか。好きにすればいいと思いますよ。私は新人くんを甘やかしにきただけですから」


 真顔でそう言ってのける月城さんに、俺はきょとんとした表情を返す。


「本気で言ってます?」

「はい、本気です」


 そんな夢みたいなことがあるのだろうか。こんな美人に(顔めっちゃタイプ)に面倒を見てもらえる理想のシチュエーションが実現していいのだろうか。


「新人くん、ごはんは食べましたか?」

「いや、まだですけど」

「だったら私が今から作ってあげます」


 そう言うと、月城さんは台所に向かう。冷蔵庫を開けると、「卵しかありませんね」と呟く。そして卵を取り出すと、レトルトの白米を取り出す。それをレンジで温めると、フライパンに移した。


「簡単に焼き飯でも作りましょうか」


 そう言うと手際よく、あっという間に焼き飯を作ってしまう。


「どうぞ」


 皿に盛りつけた焼き飯を俺の前に置いてくる。

 俺はスプーンでごはんを掬うと口へ運んだ。


「美味い」

「良かったです」


 机に頬杖を付き、微笑んでくる月城さん。月城さんは俺が焼き飯を頬張るのを幸せそうな笑みで見つめてくる。なんだかむず痒いが、悪くない。久しぶりにこんな温かいご飯を食べた。誰かの手が加わっているというだけで、心が温まっていくのを感じる。


「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」


 月城さんが皿を運び、すぐさま洗い物に取り掛かる。本当にすべてやってくれるのだろうか。このまま任せても本当にいいのだろうか。俺の心の葛藤を見透かしたように、月城さんが言う。


「心配いらないよ。私は義春さんに雇われているんだから。新人くんはいつも通りしていて」


 俺は言われた通り部屋に戻る。突然やってきた月城さんはまるで天使だった。俺を甘やかす為に来たって言ってたけど、どこまで甘えていいのだろうか。まだ距離感を掴みかねている俺だが、あんな美人と一緒に一つ屋根の下で暮らせると思うと胸の高鳴りが抑えられなかった。


「新人くん、入ってもいい?」

「あ、はい」


 ノックをして、月城さんが部屋に入ってくる。


「散らかってるね」

「ごめんなさい」

「いいのよ。掃除も任せて。綺麗にしてあげる」

 

 そう言うと、部屋の片づけに取り掛かる。俺はそれを呆然と眺めているだけ。本当に何もしない。物を片付ける際に、いるものかいらないものかを聞かれるだけ。瞬く間に部屋は片付いていく。


「これは……」


 そんな時、月城さんがいつもおかずに使っているエロ漫画を見つけてしまう。俺は咄嗟にフリーズするが、月城さんは微笑むと、その本を大事そうに片付けてくれる。


「男の子だもんね」


 そう言って瞬く間に部屋を片付けていく。あっという間に綺麗になった部屋で、俺は月城さんを見つめる。


「本当に甘えてもいいんですか」

「いくらでもどうぞ。私はその為にいるんだから」


 その優しい微笑みに胸が高鳴るのだった。

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