魔界研究所の人間姉妹〜人外科学者、どタイプを理由に双子を拾う~

あじゃぴー

双子、あるいはロジャーの娘

1 落ちてきた双子

 魔族であるはずの俺が人間の姉妹を拾ったのは、俺が日課の散歩をしていた時のことだった。


1「落ちてきた姉妹」


 朝はとても元気ではつらつとした時間だ。

 ラボでの生活は、何かと疲れることが多い。

 ルーチンワークが多いし、機械にトラブルがあったらどうしようと、夜も安心して眠れない。王都からもそこそこ離れているから、面白いところもない。

 その生活に耐えかねた俺は、気分転換として散歩を始めた。時間がないのでラボの周りしか歩けないが、それでも気分転換には十分だ。


(今日は時間があるし、もうちょっと遠くに行ってみるか)


 今日は特に予定も入ってないし、実験をするつもりもない。

 どうせならもうちょっと遠くに行ってみようかと、街から少し離れた道にやってきたときのことだった。


 二人の女の子が、道端に倒れていたのだ。


 一人は金髪に青いパーカー。もう一人は白い髪のロングヘアーで、オーバーオールを着ている。姉妹だろうが、どっちが年上かはわからない(多分双子だ)。

 どちらもうつぶせになって倒れており、足があり得ない方向に曲がっている。


「……ね、ねえ、大丈夫?」


 俺は白髪の方の肩をポンポンと叩いた。

 だが反応はない。おそらく気を失っている。

 俺はも金髪の肩の方もポンポンと叩いた。こっちは顔を上げ、俺の方を見た。

 だが俺の額から生えた角を見ると、すぐにおびえた表情になった。


「……お、お前……魔族なのか?」


 突拍子のない質問に、俺はあっけにとられた。

 ここ魔界には、人ならざる存在「魔族」しか住んでいない(もちろん俺も魔族だ)。魔族は人間との戦いに敗れ、地下深くの異空間「魔界」に封印されたからだ。

 ここが魔界で自分が魔族だということを知っていれば、まずそんな質問はしないだろうが……

 あっ……俺は理解した。


「……俺は魔族だけど……もしかして、君、人間?」


 俺は満面の笑みを作って、少女に言った。

 教科書で聞いた話だが、自殺願望のある人間がまれに魔界へとやってくることがあるらしい。

 人間界と魔界の間には結界があるが、それは入ったら出られない一方通行の結界だ。人間界から魔界に行くことはとても簡単である。

 この姉妹も、そうやって人間界からやってきたのだろう。何かしらの理由があって……


 少女はポカーンと困惑の表情を浮かべたが、すぐにまたおびえた表情に変わった。


「こ、殺さないでくれ……!」

 

 どうやら、人間界の学校ではまだ「魔族は狂暴で残忍な生き物で、人間を憎んでいる」とでも教えているらしい。

 魔族全員が狂暴だなんて、そんなことないのにな――俺はちょっと悲しくなったが、すぐにこの子たちをどうするか考えた。

 片方は気絶しており、もう片方は恐怖と「助けて!」の目をしている。

 この王国で人間を殺しても罪には問われないから見捨てたっていいのだが、こんな女の子を見捨てるのは良心の呵責がある……

 迷いながら双子のほうを見ると、俺は気づいた。


(この二人、どっちも俺の超タイプなんですけどーーっ!?)


 今更顔を見て気づいた。どちらも目が大きく、かわいい系の顔をしている。とにかく、刺さりすぎて貫通するかもしれないぐらい俺の性癖に刺さっていた。

 こんな俺のどタイプの子を見捨てるわけにはいかない! 俺はさわやかな笑顔と口調を作って言った。


「……殺したりなんかしないって! ――俺は魔族だけど、人間が好きだから」

「え……?」少女はまたポカーンの顔になった。

「君とその……妹? を助けたいんだ」

「……だましたりしないよな?」

「大丈夫だって」

「じゃあ、頼む」

「わかった! ――じゃあ、回復魔法が使える人呼んでくるね」


 そういうと俺はテレポートでラボへと戻った。


  ▽ ▼ ▽


 ラボの中では、鳥人族で助手のリーンがキーボードを叩いて、王国政府に申請するための予算案を作っていた。


「リーン! 大変だ!」


 俺は到着するなりリーンに言った。

 リーンは一瞬驚いた表情をしたが、そのあとすぐに怪訝な顔になった。


「……なにかあったんですか、博士?」

「散歩をしてたら、人が倒れてたんだ! かなりの重傷だから、君の回復魔法を使ってくれない?」

「……種族は何だったんですか?」

「わからない……だがおそらく、人間だ」

「人間の子供を助けたいんですか!? ――陛下になんて言われるかわかりませんよ」

「……生きた人間なんて、とっても興味深いじゃないか……それに、俺も人間と家族になりたんだ……かつての陛下みたいにね」

「わかりましたよ……で、その人間ってのはどこにいるんです?」

「町のはずれさ……テレポートで連れてくよ」


 俺はリーンと手をつなぐと、さっき姉妹がいたところにテレポートした。


  ▽ ▼ ▽


 不在中に連れ去られていたらどうしようと思っていたが、姉妹はまだそこにいた。


「この子たちがさっきの……」

「ああ、そうだ。おそらく足の骨が折れてる。直せるか?」

「それぐらい直せますよ」


 リーンは二人のそばまで行くと、少女の方の足に手をかざして回復魔法を使う。

 緑の光が足を包み、あっという間に足はまっすぐ元通りになった(妹の方も同じように直した)。


「痛みが……なくなった。これが回復魔法か?」少女は足をパタパタ動かした。

「うん……あっ、まだ無理には動かさないで――完全には治ってないから」リーンが制止した。

「あ、ありがとう……」少女は目に涙を浮かべた。

「……さて、骨折も治ったことだし、ちょっとラボで話を聞かせてくれ」

「ら、ラボ……?」少女はまたぽかんの顔をした。

「俺たちは王立研究所ロイヤル・ラボラトリーの研究員なんだ」

「そうか……実験体にされたり、とかはないか?」

「もちろん。人間界に帰りたいのなら話を聞くだけにするし、ラボに住みたいのなら部屋だって作るさ」

「ええ……う、うう……」

 

 そのまま少女は泣き出してしまった。

 

「そんな……何もできなくて……すまない……」

「いいって、思う存分泣いちゃって」


 リーンがポケットティッシュを取り出して、少女に渡した。

 少女はあふれ出る涙を抑えてから、白髪の少女の方を見て叫んだ。


「フィリア! ……お前たちがやったのか?」少女は怒りの目でこっちを見た。

「いやまさか! ――気絶しているだけだよ」

「……本当だ、温かい」少女はフィリアと呼ばれた白髪の少女の体を触って言った。

「死体に回復魔法は使えないからんね」

「回復魔法……?」

「そう。リーンの場合、骨折ぐらいのけがならすぐに直せるんだ……さすがに致命傷とかは直せないがね」

「そうか……すごいな」

「ま、まあね」リーンの顔が赤くなった。

「さて、ケガも治ったことだし、ラボに行こう」俺は話を切り上げて言った。

「立てる?」


 俺は少女に手を差し伸べた。少女はその手を取り、立ち上がった。

 そしてフィリアの方を見て言った。


「フィリアはどうするんだ? ……おんぶしていくのはきついと思うが」

「テレポートで何とかするよ……俺の腕を触ってて。そうじゃないと置いてかれちゃうからさ」


 少女は俺の腕をつかんだ。

 それからもう片方の手で気絶中のフィリアの腕に触れた。


「さあ、いくぞ……手は絶対に放すなよ」


 俺はそういうと、テレポートでラボへと向かった。

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