ヤンキーたちのインセンティブ

すいり1

▽ちがいます、ちがいます! 私は殺人など行っておりませン。

 刑事の皆さん押さないで! 倒れてしまいます!

 もし私が壊れたら、数十億の修理費が発生しますよ!?

 どうか落ち着いて冷静になって下さい。

 そうです、そうです。ちょっと手を放して。私の蜂蜜色のメタルボディから離れて下さい。

 ふー良かった。やっと冷静に話ができそうですね。

 まず最初に断言させていただきます。

 私には『美人の顔を硫酸でドロドロに溶かす』とか、『スポーツ選手の手首を切断する』といった、おかしな趣味は一切ございません。

 そんな猟奇的な嗜好は、人間だけが持ちあわせているものでしょう?

 そもそも私たちアンドロイドは、人に危害を加えることが出来ません。

 プログラム上そう設定されているのです。殺人などは到底不可能です。

 納得してもらえましたか? 

 え?

「信用できない」? 

「仏さんの腹部に、〝プライドカロリー〟という文字が彫ってあった」?

 やれやれ困りましたね。

 たしかにそれは私の名前ですが、名前が書かれていたくらいで、犯人扱いされてしまっては、世の中冤罪だらけになってしまいますよ。まったく。


 それはそうと、ここはいったい何処なのでしょうか? 位置情報がOFFのまま運搬されてきたので、今いる場所が分かりません。

 ああ、答えを言わなくても大丈夫。自分で推理しますから。

 白色の清潔そうな壁、

 緑色の抗菌ビニル床材、

 銀色に光るステンレス製の解剖台、

 黒い布でおおわれた複数のご遺体。ここは死体安置所ですね。

 車での移動時間からいって、おそらくこの場所は〝東京都監察医務院〟ではないでしょうか?

 はい。

 正解ですか。良かったです。

 皆さん少し落ち着かれたようなので、私は本来の職務に戻らせていただきます。

 ええそうです。

 私は科捜研所属のアンドロイド探偵ですから。事件を解決するために尽力いたします。

 ここに連れて来られた本当の理由は、それですよね?





 そうですか。今回は三人も殺されているのですか。

 正月早々、大事件ですね。

 刑事の皆さんも元旦の朝からのご出勤、大変ご苦労さまです。

 まぁ、文句を言っていても仕方ありません。気を取りなおしていつものように、犠牲者の脳から情報を引き出していきましょう!

 ん? どうしました? 

 キョトンとした顔をされて。

 ああそういえば、初めてお会いする方が多いですね。

 そんなに警戒されなくても大丈夫、危ないことも怖いこともありません。

 これを見ていただけますか。

 これです、これ。

 私の背骨から出ているこの細い線です。

 毛髪のように見えるかもしれませんが、これは特殊な電極です。

 これを〝死者の脳みそ〟と接続することで、〝生前の記憶を読み込んでモニターする〟ことが出来るのです。

 そうです。

 複数の犠牲者をプロファイリングすることで、犯人を割り出すわけです。

 今回は、自らの冤罪を晴らすという目的もプラスされましたし、必ずや事件を解決してみせますよ。





ブウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

プログラムを起動させました。

 私とご遺体をつないだ線が、朝露に濡れたクモの糸のようにキラキラと輝いています。

 正面の大きな液晶画面をごらん下さい。こちらに犠牲者の記憶が映しだされます。

 はい。

 それでは記憶捜査の始まりです。









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