コミュ障の俺に罰ゲームで告白してきた美少女が、付き合ってからどんどん重くなっていく

破滅

第1話

 俺の名前は沼田 烏。休み時間は自分の席でラノベを読んで時間を潰しているようなぼっちの高校二年生だ。


 別に俺は、一人でいるのが好きだからぼっちというわけではない。


 普通にクラスメートとお喋りしたいし、休み時間に寝たふりをせずラノベを読んでいるのも「何読んでるの? それ俺も知ってる!」的な感じで誰か話しかけてきて欲しいみたいな下心があったりするからだ。ラノベが好きってのは間違いないけど。


 でも、自分から誰かに話しかけに行くようなモチベーションが湧かない。


 まず話しかけに行く大義名分というか用事みたいなものがないし、それなしに話に混ざりに行けるような勇気もない。


 ラノベだと、俺みたいに消極的な奴に態々構ってくれる優しいギャルのヒロインが定番になりつつあるけど、そこまでの高望みはしてない。

 普通に男子に話しかけてきて欲しい。いきなり女子に話しかけてこられても上手く返答できずに、家で無限反省会編に突入することになりそうだし。


「はぁ」


 ギャルが「同情で、付き合おうなんて言ったりしないよ」って涙を浮かべるシーンに気まずくなった俺は、一旦ラノベから目を離し教室の中心で騒いでいる陽キャグループを眺めた。


 クラスで一番可愛い女の子と、クラスで一番格好良い男子が中心になってる男3、女3の6人グループ。

 今は、教室の中心でトランプを出して何かしらのゲームをしている。


 何をやってるんだろう?


「必殺、スぺ3返し!」

「うわ、私のジョーカーが」

「そして8切りからの、3枚出せるから……上がり!」

「うわっ、そんな……!」

「うちが上がったことで、霧乃は都落ち。ビリ決定ぇぇい!」


 大富豪か。楽しそうだな。


 背の小さい女子がひゃっほう! と小躍りして喜び、一位から一気に転落してしまった桐生 霧乃さんは頭を抱えて悔しがっていた。


「はーい、霧乃の負けだね」

「じゃ、罰ゲーム!」

「「罰ゲーム!」」


 教室内の全員に聞こえるほど大きな声で、陽キャたちが言う。

 クラスで一番可愛い桐生霧乃がどんな罰ゲームを受けるのか、教室に居る人たちも軽く注目していた。


「罰ゲームは、霧乃がこのクラスで一番付き合いたいって思う男子に今すぐ告白!」


「ちょ、ちょっと、何その罰ゲーム!」


 桐生霧乃さんにスぺ3返しで引導を渡した伊達 一夏が罰ゲームを宣言する。

 その内容に、教室が少し騒めいた。


「だって霧乃、彼氏できたことないじゃん。こーんなに可愛いのに。このクラスの男子で、霧乃の告白を断る人なんていないと思うし、好きな人がいないなんてこともないでしょ?」


「た、確かに、霧乃がどんな男を好きになるのかは気になるな!」


 ひょうきんなチャラ男、安村 泰が上ずった声で言った。


「…………」


 クラスで一番格好いい男子の藤崎 徹は、頬を紅潮させて視線を泳がせている。どこか緊張しているようにも見えた。いつもはこういった悪ノリみたいな罰ゲーム、仲裁に入って止めるイメージがあったけど……。


「まあ、別に霧乃が付き合いたい男子を選べば良いだけだからね」


 ギャルっぽい見た目の南 日和は少し不安そうな顔でチラリと、角刈りの運動部の男子に目を向けながらそう言った。


「ふっ、いい機会なんじゃないか?」


 角刈りのスポーツ男子である西郷 恒盛はチラリと藤崎くんに目を向けながらそう言った。


 なるほど、そう言うことか。桐生さんと藤崎くんは実は両想いで、じれったい二人の関係を後押しするための罰ゲームってことか。


 青春だなぁ。

 西郷くんは腕を組んで頷き、ギャラリーの女子はキャーキャー騒ぐ人と意中の男子に告白されないか不安そうな人が半々。


 男子は何故か大半が、自分が選ばれるかもしれないと言わんばかりの緊張した面持ちをしていた。


 いや、どう考えても、告白されるのは藤崎くんだろ。流れ的に。


「ほらほら、霧乃。勇気出しなよ!」


 パンパンと背中を叩く背の小さい伊達さんに、桐生さんはゾワリとするような冷たい視線を向けた。


 クラスの大半はそれに気付かない。


「あっ、ごめ……」


 伊達さんが発した小さな謝罪の声は、喧騒にかき消される。


 うわっ、桐生さんこういうノリ嫌いなタイプなんだ。やらかしてんじゃん。どうすんだろ。桐生さん怒っちゃうのかな? 怖いな。


 陽キャグループが仲違いするとクラスの雰囲気までギスギスし始める気がするから正直仲良くしてほしい。なんか、良い感じに丸く収めて欲しい。


 いつも、こういう時に丸く収めている藤崎くんはソワソワしていて桐生さんの不機嫌に気付いていない様子だった。


 俺はそっと陽キャグループから視線を反らし、ラノベの続きを読むのに集中し始めた。


 休み時間はあと3分。早く終われ。今日だけは少し早めに先生来い。そして、席に座れの一言でこの険悪な空気をなかったことにしてくれ。


 ラノベの内容が頭に入ってこないので目を瞑り、我関せずを貫いていると、トンッと俺の机に何かを置かれる物音がした。


 目を開くと、長い黒髪に切れ長の鋭い目、可愛いよりは綺麗に全振りしている感じのすらっとした背の高い美人が座っている俺を見下ろしていた。


 桐生さん。……なんで俺のところに来てるんですかね?


「沼田くん、であってるかしら?」


「は、はい」


 目を反らしながら、返答する。反らした先で、藤崎たちのグループと目が合った。


 罰ゲームを言い出した背の低い女子は青い顔をしている。藤崎くんは不安そうな顔をしている。西郷くんと南さんは凄く気まずそうで、安村くんは泣きそうな顔をしていた。


 冷や汗が流れ、鼓動が早まる。


 この心臓のドキドキは期待よりも、恐怖の方が大きい。


「このクラスの男子の誰かと付き合わないといけないなら、沼田くん。貴方が一番マシだわ。付き合ってくれるかしら?」


 嫌です。ごめんなさい。許してください。なんて、言える雰囲気ではなかった。


 なんでだよ。桐生さんと藤崎くん、両想いじゃないのかよ。両想いじゃないのにあんな罰ゲーム言い出したの? 伊達さんは。


 俺は恐る恐る、桐生さんを見上げる。


「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」


 そう、答えるしかなかった。


 陰キャの俺が分不相応に桐生さんをフって、恥を掻かせるわけにもいかないし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る