#02:カワイイと罪悪感、のちに単元のテスト(が、あるらしい。)
教室の窓から7月の灼熱の日差しが容赦なく差し込んでくる。
黒板には複雑な二次関数のグラフが描かれている。
私、椎名椎菜、16歳。高校生にして、夢の国の従業員。
ま、簡単に言えばテーマパークのバイト。日々、夢の製造ラインで奮闘中。
黒板を見つめながら、頭の中で計算を進める。ちらりと周りを見回すと、みんな真剣そのもの。はぁ~、この暑さの中で数学かよ。
「えー、それでは」
数学の藤沢先生の声に、思わず背筋が伸びる。
「来週の金曜日に、今回の単元の確認テストを行います」
教室がざわめく。
みんな、時期的に予想はしてたはずなのに。 まあ、この単元、評判通り難しいからね。
私も内心「えっ、もう?」って感じ。正直、心の準備ができてないよ。
んっ! ちょっと待って! 今の私、矛盾してない!?
予想してたはずなのに、心の準備ができてないって。
まるで、
そっか、知ってることと、準備することって別物なんだな。 頭では分かってても、心が追いついてないってわけか。 まあ、テストも人生も、そんなもんかもね。
そこそこの成績は維持してるけど、バイトとの両立を考えると、ちょっと頭が痛い。
特に週末はフルでバイトだからな。1000円で夢を売る仕事って、原価いくらなんだろ。
今度は自分の数学の点数を上げる夢でも作らなきゃ。
チャイムが鳴り、休み時間。
すぐに私の席の周りに友達が集まってくる。クラスメイトの美咲と、クラスメイトで部活がおなじバスケ部の里奈。そう、私もバスケ部なんだ。でも、週末はフルでバイトだから、ほとんど顔を出せてない。里奈はいつも「椎菜、今日は来れる?」って誘ってくれる。ありがたいけど、たまに罪悪感も感じちゃうんだよね。
みんな顔を寄せ合って、さっきのテストの話で盛り上がっている。やることリストが頭の中でぐるぐる回る。テスト勉強、バイト、部活...どれも大事だけど、時間が足りない。
「ねえねえ、椎菜。放課後、みんなで勉強会しない?」
声をかけてきたのは美咲。
やや栗色がかった髪の毛が、天然パーマ気味にくるくると揺れている。
本人は気にしてるみたいだけど、正直かわいいと思う。
特に笑うと目尻が下がって、八重歯がちらっと見える。それがまた愛らしくて。でも、言ったら絶対照れくさそうに否定するんだろうな。そんなところも可愛いけど。
「ごめん、バイトがあるから…」
「えーっと、椎菜のバイトってさ、なんだっけ?」
隣の席の健太が少し気恥ずかしそうに口を挟む。
私たちの話に興味があるのか、里奈に興味があるのか…私はその答えを知っている。
健太の里奈への視線は、まるで観覧車から夜景を見るみたいに輝いてる。ちょっと意地悪な気分になって、「1000円で夢を作る仕事だよ」って答えてみる。
健太は首をかしげる。ゴメン。ちょっと意地悪しすぎたかな。
美咲と里奈は私のバイト内容を知ってるから、ニヤニヤしてる。
「ごめんごめん、テーマパークでバイトしてるの」って説明を加える。
「あー、そうなんだ!」
健太が驚いたように言う。
「へー、すごくない?じゃあさ、数学の満点の夢とか作れんの?」
健太が目を輝かせて聞いてくる。里奈の方をちらちら見ながら。
「作れるけど、それは高くつくよ」って返す。冗談のつもりだけど、実際そんな気もする。
それに続いて、健太が「そっか〜。俺の財布じゃ無理だな」って、がっかりした顔をする。
「満点の夢よりも、合格ラインの夢なら手頃かもね」って付け加える。
里奈がと冗談を重ねる。
「じゃあ、バスケの試合で勝つ夢は?椎菜、全然来れないけど、それでも欲しいでしょ?」
「おいおい、それ言っちゃダメだろ〜」
健太が慌てて制すけど、みんなで笑い合う。
ちょっと胸が痛むけど、こうやって冗談を言い合えるのって、実は嬉しいんだ。触れてもらえない、腫物を触られるようにされたら悲しいから。
チャイムが鳴って、次の授業。
放課後、数学の教科書を開きながらバス停に向かう。
バスに乗り込みながら、今日一日を振り返る。友達との会話。教室の空気感、友達の笑顔。こういう何気ない日常が、実は一番の宝物かもしれない。数学のテストはやや厄介ではあるが…
窓の外を流れる風景を眺めながら、考える。「私の未来は、どんな形をしているんだろう。バイトと部活と勉強、全部やりたいけど、そんな夢、高くつきすぎかな」
「よーし」
小さく呟いて、気合を入れ直す。今日も1000円で誰かの夢を作る。それって、案外悪くない仕事かもしれない。原価問題は置いておく。
そんなことを考えながら、今日もテーマパークへ向かう。いざ、夢の国へ。
明日は週末。バイトフルシフトだけど、たまには練習にも顔を出せたらいいな。
ちょっと忙しいけど、充実した毎日。これって夢?それとも現実?まあ、どっちでもいいか。今を精一杯生きるだけだよね。
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