6.テンポラリーパスワード

 ===== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 夏目房之助・・・有限会社市場リサーチの会社の実質経営者だった。名義代表者は、妻の夏目優香。

 笠置・・・夏目リサーチ社員。元学者。元経営者。

 高山・・・夏目リサーチ社員。元木工職人。

 榊・・・夏目リサーチ社員。元レストランのシェフ。元自衛隊員。

 久保田管理官・・・警視庁管理官。テロ組織対策室をサポートしている。


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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==



 ※夏目リサーチは、阿倍野元総理が現役時代に設立された会社で、警視庁テロ対策室準備室が出来る前に出来た。スーパーや百貨店の市場調査会社が、「隠密に」テロ組織を調査するのに適していると、副総監が判断し、公安のアシストとしてスタートした。

 夏目リサーチは、民間の市場調査を行うのと併行して、危機的状況を調査する、国家唯一の調査機関である。

 ※このエピソードは、「EITOエンジェルズ総子の憂鬱(仮)61」と連動しています。


 午後10時。浅草、浅草寺裏手のビル。夏目リサーチ社分室。

 笠置以下、古参のグループが作業に入った。

 作業。それは何か、マッチングシステムによる、『面割り』だ。

 表向きの市場調査は、『通行人調査』だ。カウンターをカチカチ。あれである。

 このとき、隠しカメラで通行人を撮影している。

 遠隔操作の為、カチカチのバイト君には分からない。


 本社からの「連絡指示書」を読んだ笠置が高山達に渡しながら言った。

「ふうん。EITO大阪支部もてんやわんやだったみたいだね。チーフの総子ちゃんが、散布寸前の新種の ビールスに冒され、宮田先生加計先生のお陰で一命を取り留めた。やはり、ビールスと枠朕はセットで体内の免疫機能を奪っていく『毒』だったんだ。だから、推進派は『枠朕接種』に積極的だったんだ。また、OBQ検査で儲けて、今度は更に治療薬で儲けようとしていた。」

「マッチポンプって奴ですね。」と、榊が言った。

「で、同時期に起った『歯科クリニック皆殺し』事件。火事はカモフラージュですね。それと、逃走路確保か。やるなあ、大阪府警も。地道な捜査でクリニックの歯科衛生士が録音していたデータを入手か。身の危険を感じたんだな。ああ、ブースが複数あるから、『隠し録り』も『隠し撮り』も出来たんだ。」と、榊が言うと、「音声は、特徴ないとなあ。比較対象データがないと比較出来ないなあ。」と高山は言った。

 マシン群では、既に笠置がテンポラリーパスワードでダウンロードデータのマッチング作業が進んでいる。

 写真データはメールで造受信出来るが、映像データや音声データは、この分室に送られるのではなく、警視庁のシステムにテンポラリーパスワードでログインすることになっている。テンポラリーパスワードとは、一時的なパスワードのことで、アプリ等のインストール時に、正式なパスワードが決まるまで使用する一時パスワードと同じ仕組みである。

 夏目リサーチは、警視庁の下請けをしているが、秘密の『民間組織』である。

「録音データは、科捜研と日本音声データ研究所に送られたらしい。まあ、性別・年齢・訛りくらいは分析出来てもなあ。」

 笠置は、音声データを再生してみた。

《だからさあ、代替地を見付けてあるって言ってるだろう?ここで商売しなくてもいいじゃないか。あんまり、愚図ると、『力尽く』で譲って貰うよ。》

「反社だろうけれど、反社の構成員の声、全部集められる訳ないし。システムが『横顔』でもマッチング出来るなら、答が出るだろうが。お名前カードは無理だな。あ、この点滅は?」

 システムからのアラームランプが点いたので、笠置はモニター操作をした。

「ヒット率、60%か。微妙だなあ。夏目さんは、正面でない場合は、『骨格再生システム』を通してからにしてくれ、って言ってたからそうしたけど。」

「正面写真でなくても大丈夫ですよ。警察のデータが複数の向きで撮影されていて、助かりましたね、前科者データから検出出来たから、拾いもんですよ。」高山が言っている側で、笠置は警視庁のホットラインで電話をした。

 幸い、久保田管理官だった。

「名前は剣持(けんもつ)正。戸部一族組ですね。」「了解した。ソタイに出張らせよう。ご苦労様。今夜は何の肉かな?」

 料理中の榊が笠置の方を向いて、叫んだ。

「桜紅葉です。馬と鹿。歯科クリニックの事件にかけて・・・でもないか。バカウマは保障します。」

「聞いただけで、お腹いっぱいだよ。じゃ。」冗談を言って、久保田管理官は電話を切った。

 桜肉と紅葉肉のハンバーガーは、部屋一杯に香ばしい匂いを放っていた。

「やっぱり、那珂国企業が侵攻した、『乗っ取り』だな。台詞から推測すると、院長が固定客無くなるから、拒否したんだろう。」早速、笠置はハンバーガー食らいついた。

「バカウマ!!」

 高齢者3人の男達の摂取カロリーは高い。

 今夜も始まったばかりだ。

 ―完―

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