第十二話 #スカウトマンは突然に
大食い。
それはすなわち贅沢だ。
生きるために必要な栄養やエネルギーの量を、大幅に超えて余分に摂るこの行為は、それは贅沢と言っていいだろう。
全ての生き物に。全ての食材に。感謝を!
「く、くるしい……」
「…………」
とかマジ言ってる場合じゃねぇ。
◇◇◇
本日は土曜日。
毎週土日は休みにしている、俺とマジノコのパーティ。
特にすることもないので、フードコートにお姉さんに会いに来るついでにご飯を食べにきた。
本当は、ダンジョンに行かない代わりに雑談やゲーム配信でもしようと思っていた。
しかし、ダンジョン以外の配信は、最初はわたしとするの! と、わがままな姉にただをこねられたんだけどな。
愛莉姉今いくつだよ……。
フードコートにいるお姉さんにあって世間話をした後、お姉さんがとある新メニューの宣伝をした。
『今大食いフェアやってて、食べ切れたらお代が無料になるんだけど、やる?』
どうやら期間限定で大食いフェアをやっているらしい。
ダンジョンギルドのフードコートでは定期的の何かしらのフェアをする。
最近だと激辛フェアをしていたのが記憶に新しい。
あん時の激辛麻婆豆腐で腹壊したなあ……ちゃんと完食はしたけど。
まあそんな思い出があっても答えはもちろんやる、だろう。
即答だよな。
カレー、カツ丼、ロコモコ丼の三種類あったので、俺たちはもちろんカツ丼を選択した。
ロコモコ丼も普通に気になったが、やはりカツ丼の魅力には勝てやしねえぜ。
それで、一品二人までならいいらしいので、とりあえずカツ丼一つだけを頼んだ。
大食いだけど、まあ二人もいるしいけるだろ! とか軽い考えが間違いだった。
いつもと違い、席にてお待ちくださいと言われたから結構でかいのかなーとか、いつものカツ丼4人前くらいかなーとかマジノコと談笑していた。
違かった。
そんな想像とは比べものにならないくらいに大きなカツ丼がきた。
まず容器からバグってて、長芋すりおろすやつだった。
次点でおかしいのはカツ丼の量だ。
容器のそこからテッペンまで俺の膝下当たりまであった。
いや、まてよ。
ご飯はタワー形に尖った形に盛られていて、ご飯の側面にそってカツ丼が盛られていた。10枚。
いやいやいやと。本当に待ってくれと。
量多すぎて、店員二人が重そうに運んできたのが未だに忘れられない。
あんたらが運んできたもん飯やぞ?
テーブルに置いた時、テーブルからミシッて音が聞こえてきた時耳を疑った。
ふと、マジノコはこれ見てどう思っているか気になったので前を見てみる。
顔が、見えない。
ただでさえ顔小せえのに、カツ丼に隠れて見えなくなっていた。
辛うじて聞こえてきたマジノコの『ヒェッ……』という音声に全ての気持ちがのっていた。
すごく、情けなかった。
とは言っても、カツ丼が運ばれてきてしまった。
しかもこっちが頼んだものだし、食べなければならないだろう。
食い切れなかったら、4,500円のお支払いだ。
いやまあ問題はそこじゃなくて、ご飯を残すことにあるんだが。
意を決してカツに箸を伸ばし一口。
うん、美味い。
いつものカツ丼の味だ。
そのままペロリと一枚食べ切る。
あとどれくらいかな♩と思い、目の前の長芋容器に目を配る。
「…………(カツが一枚減っただけのさっきのカツ丼が鎮座してんじゃねえか!!!)」
軽く絶望していた。
しかも比率までバグっていて、カツ十枚じゃ足りないご飯の量していたのに、ご飯を一口も食わずカツを一枚減らしてしまった。
普通にやらかした。
「やっべ」
思わず漏れた一言にマジノコから苦情が入る。
「おいなにしやがったクロ」
「な、なにもしてないヨ」
「はぁ……何したかしらないけど、早く食べるよ!」
幸いなことに制限時間は二時間あるから、そこまでペースを上げる必要は無い!
だがモタモタしている暇もあるわけでは無い。
さあ食うぞマジノコ!!!!
それでそこから一時間後。
「く、くるしい」
「…………」
で、冒頭に戻るってワケ!
ちなみに完食はしてはいない。
二人であの量は、せいぜい半分くらいが限界だった。
ずっと同じ味で飽きてきたし、味変しても胃袋の方が限界を迎えた。
俺はもう何も食べれない。
お腹がいっぱいでとても苦しい。
マジノコはというと、テーブルに顔を突っ伏していた。
「マジノコ」
「…………」
「おーいマジノコー!」
「…………」
「お前の性癖スクール水着!!!」
「ころすぞ……」
返事の無いただのマジノコだと思っていたら、死ぬ寸前のセミみたいなころすぞが帰ってきた。
ウケる。
「もう食えないから他の人にこれあげていい?」
「…………(うなずき)」
「代金は俺が払うね」
「…………(うなずき)」
ちなみにこの大食いフェア。
制限時間が過ぎるか、残すか、三人以上が手をつけた場合は代金を支払うことになる。
しかし、俺はお金は払うにしてもご飯を残すことは流石にできないので、他の探索者に譲ることを考えた。
誰か知り合いの探索者いないかなー。
あれ、そういえば気づかなかったが、フードコートに誰もいないような……
あ、あれ、知らないハゲのおっさんがこっちに向かって歩いてきているような……ってあれお姉さんが言ってた俺のことをスカウトに来た人か!
なんかもうコイツに食わせればいっか!!!
「よお、狂犬のクロ。飯の最中に悪りいな。アメリカのAランク探索者、ヴァルグだ。おまえさんに用事が会ってきた。つってもあの嬢ちゃんから色々聞いてるとは思うが」
「こんにちは、ヴァルグさん。俺もちょうどあなたに頼みたいことがあって探してたんですよ」
「ほう、頼み事か。まあなんでも言ってみろよ」
そう言いながら、ニヤニヤしながら顎に手を当てる仕草をするヴァルグ。
なんかウザイが、まあいいさ。
お前も俺たちと同じ地獄を味わうがいい。
俺は残りのカツ丼に指を指して、ヴァルグに言う。
「これ全部食ってくんね?」
「は?」
予想外の頼み事に渾身のは? が出たヴァルグだった。
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