第十一話 #幼馴染

 二回目の配信を終えた俺とマジノコは、転移遺跡から一階層に戻り、ダンジョンギルドに帰ってきた。


 先ほどのレッドドラゴンのドロップ品を受付で換金し、配信機材を自分のスペースに置いていく。

 そして、次に向かう先はもちろんフードコートだ。



「どうしたんだ、クロ。すごい上機嫌だね」

「そりゃそうだろ! だってお姉さんが俺の配信見ててくれたんだから」



 今回はダンジョンに出発する直前にフードコートに寄ったが、お姉さんはちゃんといた。

 見間違えないように1分は凝視して、本物だったことは確認済みだ。


 今から配信をする旨を伝えると、『クロちゃん今から配信するのね、じゃあTVで放映しなきゃ!』と言質を取った。

 つまり、お姉さんは俺の配信を見たと言うことである。


 今回の配信はアンタレスが出しゃばって俺の黒歴史を暴露して好感度が下がったと思うが、その後のレッドドラゴンとの戦いで打ち消したはずだ。

 いや、なんならカッコ良すぎて卒倒したに違いがねえ!


 へへへ、お姉さん褒めてくれるかな!

 今から楽しみだぜ!

 


「お姉さんー! って何だ?あの人だかり」

「んー……何だろうね、あれ」


 早速フードコートに入ると、なぞの人だかりができていた。

 喧騒が聞こえてくるに、誰かが言い争っているのか?

 それを取り囲んでみんなで見てる感じか。



「僕、先にカツ丼二つ頼んでくるね」

「おっけー」



 マジノコカツ丼を買いに居なくなって暇だし、面白そうだから見に行くか!



「失礼しますよ〜……ってあれ、コユキじゃん。何してんの? ってかこの人誰?」

「! クロ!」


 

 人をかき分けながら、何の騒ぎだと確認したら、騒ぎの中心が知り合いだった件について。

 どうやら、この黒髪ツインテールの俺の幼馴染と、筋肉質のつるハゲのおっさんが言い争っていたらしい。

 頭に毛は無いが、ヒゲの毛量がすごいな。

 無駄に厳つ。



「今日は狂犬に用があってきたんだがな……変なのに絡まれちまった。また明日来るよ」



 そう言い残すと、つるハゲのおっさんはフードコートから出ていってしまった。

 あんな人、ここの探索者にいたっけか?

 日本人ではなく外国人ぽい顔立ちだったし、海外の探索者とかか?

 やけに日本語がうまかったけど。

 誰やろあれ。

 ってか俺に用ってなんだろ。



「もう来なくていいし……」

「なあコユキ」

「な、なによ」

「さっきのおっさんと何してたの? なんか言い争いしてたっぽいけど」

「それは……」

「それはね、クロちゃん。さっきの人が君をスカウトに来て、それを知ったコユキちゃんが怒っちゃって。わざわざアメリカから日本に来たみたいなんだけどね」

「なるほど、そういうことか」

 


 コユキに問くと、言いにくそうな顔をしたが、即座にお姉さんがフォローに入った。

 お姉さんだ、ワーイヤッター。

  

 お姉さんの説明によると、さっきのおっさんは俺をスカウトしにアメリカから日本に来た。

 そこでダンジョンギルドに俺を探しに来た訳だが、コユキにそれが知られてブチギレられた訳か。


 あれ、それじゃあのおっさん悪くなくね?


 言い争いじゃなくて、一方的にコユキがおっさんにブチまけてただけってことか。


 でも、コイツ、俺がスカウトされて怒ったのはなぜだ……? 


 はっ、俺がアメリカに行けばもうお姉さんには会えなくなる。


 つまり、コイツは俺の恋を応援するためにおっさんにブチギレた訳か!!!

 なんていいやつなんだ、さすが俺の幼馴染だぜ。



「コユキ……俺の為を思ってあのおっさんにブチギレた訳か、ありなとな」

「は!?!? 何言ってんの???? 違いますけど!?!? 誰がアンタの為に知らないハゲに怒らないといけないわけ!?」

「はあー? なんだよ、なんでありがとうって伝えただけでそんなこと言われないといけねえんだよ」



 すこし、感謝の気持ちを伝えると、コユキは顔を真っ赤にさせてもの凄い早口で捲し立ててきたから少し言い返してやった。


 コイツ口すんげえ悪いし、俺のことそんなに好きじゃなかったんだわ。

 少しでも感謝を伝えると顔真っ赤にさせてブチギレるんだよな。



「まあまあ、二人とも落ち着いて。コユキちゃんだってクロちゃんがアメリカに行っちゃったら寂しいから怒ったんだよ。ね? コユキちゃん」

「なっ!」


 

 宥めるように俺に説明をするお姉さんだが、どうにも俺には信じられない。

 俺が居なくなって寂しいだって? 逆だろ、むしろコユキは俺が居なくなって清正するだろが。

 さっきの俺への気遣いって方がまだ説得力があるぜ。


 じゃあなんで怒ったんだ? とは思うが、コユキは俺を避けるようになった頃から、理解できない態度を取り続けている。

 多分それだと思う。

 本当に理解ができねえけど。



「別に寂しくありませんけど〜!!!!」


 

 コユキは顔色がさっきよりも梅干しみたいに赤くなった後に、捨て台詞を吐いてフードコートから出ていってしまった。


 ほら、やっぱり違えじゃん。



「はあ……素直になれば誤解はすぐに解けるのに。なんで逃げちゃうかなぁ……コユキちゃんは」

「なんか言いました?」

「いや、何もいってないよ!」



 考えことしていて何言ってるか聞き取れなかったが、何も言っていないなら聞き返す必要もねえな。



「クロちゃん、もっとコユキちゃんとは仲良くしてあげてね」


 

 お姉さんだけでなく、周りの探索者野次馬たちもその言葉に賛同する様にうんうんと、頷いていた。

 おいこの場の全員の総意かよ。

 

 なんで自分のこと避けてる人と仲良くしなきゃならんのだ、とは思わなくも無いが、そんなの俺が一番思ってる。

 別に俺は嫌いじゃないし、もっと仲良くしたいよ。

 なんで、コユキは俺のことを避けるんだろ。


 コユキに何かした思い出マジでないんだけどなあ。

 昔はよく一緒に遊んだりしたのに。

 俺はまた、あの頃みたいな関係になりたいとは思ってるんだがな。

 コミュニケーション取ろうとしても向こうは避けるし。

 中々上手くいかねえってのに。

 

 今日久しぶりにコユキと会えて嬉しかったのにな。

 あって何か話すといつもこうだ。

 


 あーあ、お姉さんに褒めて貰いたかったがもうなんかいいや。

 また後日聞こ。



「なんか俺のせいでお騒がせしてすみませんでした。今日はもう帰りますね、さよなら!」

「バイバイ〜!」



 この雰囲気で飯食うの気まずいし家帰ろ。




◇◇◇




「バイバイ〜!」


 

 クロちゃんを見送った私は、早速周りの探索者と極秘の会議を始めた。

 この会議は絶対にクロちゃんには聞かれちゃいけないから、毎回クロちゃんの居ない時を狙って行われるのだ。



「みなさん、いつもの会議です。何かありますか?」

「狂犬から歩み寄っても、ツンデレ娘がその分距離を取るからなぁ。どうするよ?」

「本当素直じゃねえよな、あのコユキって娘は」

「あれではいつまで経っても想いが伝わないですよね」

「周りにはクロに対する好き好きがモロバレなのに、なんであの狂犬はそれが伝わらないかねえ」

「あいつ戦闘はできてもそれ以外がポンコツだから仕方ないですね」

「やっぱり二人を〇〇しなきゃ出られない部屋に閉じ込めるべきだろ!」

「お前毎回それだな! つかあの問題児二人は誰も抑えられないだろが!」

「このままじゃ埒が開きませんね、どうしましょうか」


 

 あの素直になれないツンデレなコユキちゃんと、恋愛に関してあまりにな初心うぶなクロちゃんをどうにかしてくっつけようとする、厄介なカプ厨達よるこの会議が。


 さあ、どうやってあの二人の距離を縮めようか。











 


◇◇◇



「………………」


 僕は今、フードコートのいつもの二人席に座り、一人の相棒を待っていた。



「クロどこに行ったの〜???」


 

 冷え切ったカツ丼を二人前携えて。

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