第十話 #レッドドラゴン

 視聴者の質問に答え、アンタレスに黒歴史を暴露された俺は、無事に七十階層に向かう階段へとたどり着いた。


 この階段を七十階層に着く。


 塔なんだから上に上がってくもんだと思ったが、そういうわけじゃないらしい。

 まあ俺にはよく分からん。

 

 

 階段を降りた先には魔法陣があり、それに触れるとボスのいる部屋へと転送される。



「来ましたね。こちらレッドドラゴンのいるボス部屋に続く魔法陣です」


 

【コメント】

・これがボス部屋に行く魔法陣か

・結構幻想的だね

・ってか本当に七十階層かそこ?

・まあまあ入ったら分かるだろ


 

 コメント欄を覗くと疑うコメントが多数あった。

 まあ来たことあるやつ、百人も居ないんだよね

 俺としてはもっと色んな探索者に来て欲しいところ。

 日本の探索者、アンタレスのワンマンだからなあ。

 アンタレスいなくなったら一気にレベル低くなるだろうちの国。



【コメント】

・結構疑っている人いるけど、クロ坊はかなり強いよ。レッドドラゴンだったら3分もあれば終わるでしょ<アンタレスchannel>


 

 おーおー、アンタレスさん視聴者の期待を煽ってくねえ。

 そんなわけない笑だの、いくらアンタレスさんが言ってもそれはないでしょ笑だの、コメントが来る。



「わあきゃあ言っても始まらんから早速行くぞ」


 

 俺はそうカメラにつぶやき、マジノコに合図を送る。

 さあ行くぜ、楽しい楽しいドラゴン退治だ。




◇◇◇




 転送されたそこは、さっきまでの様な洞窟ではなく、古びた城の様な場所だった。


 城は崖で囲われており、周りは雲で下が見えない。

 空を見上げると、月と星達が俺たちを見下ろしていた。


 それはまるで、これから始まる決戦を見守る様に。


 …………やべえ過去の俺に引っ張られて変なポエムみたいなの語っちまったよ。

 これも全部アンタレスのせいだ!!!




【コメント】

・なんだここ!!!

・ダンジョン内でこんな場所があるなんて初めて知った!

・いかにもボス戦って感じのところだな

・星綺麗〜!

・狂犬さんがんばれ〜


 

「ここ綺麗だよな! 俺も気に入ってるんだよね」




 俺とマジノコは今、ドラゴンを囲うように建てられた城にある、塔の上にいた。

 いきなりドラゴンの目の前に転送されるわけではなく、一旦ドラゴンが気づかない塔の上から始まるのだ。

 結構ありがたいシステムだよな。

 なんか人間に都合が良すぎる気もするがな。


 マジノコにカメラを下に向けさせる様に合図を送り、マイクに向かって喋る。



「あの下にいるすんげえでっけえ赤いドラゴンが今回の企画のモンスターのレッドドラゴン。ちなみにあれAランクモンスターな」


 

 現在、ドラゴンは尻尾と身体を丸めて寝ていた。

 することと言えば探索者と戦うぐらいだもんな。

 暇だし寝てんだろ。



「さんざん引っ張ってきたドラゴン戦ももうすぐ始まるぞ、お前ら! 楽しみにしてる人、疑ってる人、色んな人がこの配信を見ていると思う! だからこれだけは言わせて貰う!」


 

「瞬き厳禁な?」



 そうマジノコのカメラにカッコつけ、塔から飛び降りる。

 マジノコにはこのままここに居てもらい、上から全体を配信してもらうつもりだ。

 しっかり撮っておけよ。


 飛び降りるながら体制を整える。

 足よりも前に頭が出る様に、そして更に前に握った拳が来る様に!


 落下エネルギーを推進力にして、最大限までスピードを上げる。

 ぐーにした拳に力を籠める。

 

 バコオオオオオオオオオオオン!!!!!!


 そして、そのまま落下しながら呑気に寝ているドラゴンの頭に強烈なパンチを御見舞いする。

 今の攻撃でツノが一本折れた。

 

 パンチを食らったレッドドラゴンはようやく起きたが、自分に敵意を向けた相手が見当たらないのがイラついたのか、尻尾をブン回し暴れ始める。


 尻尾の攻撃を食らうと行けないので距離をとり、体制を整える。

 あれ、当たると痛えんだよ。


 自身を攻撃した敵意ある者をようやく見つけたのか、タメの体制にレッドドラゴンは入った。


 不味いな、あれは、



「咆哮入るぞ! 音量注意!!!」



 グオオオーーーーーーン!!!!!!!



 レッドドラゴンが叫ぶ。

 その影響か、周囲の地形が少し揺れている。

 アイツマジうるせえんだよな。

 視聴者達大丈夫か?

 今ので耳やった人いそうだな。

 俺も少しビリビリするし。


 それでも、こいつを倒す分には大した支障ではない。


 それじゃあ討伐といこうか。

 3分以内に討伐できるだの、アンタレスがプレッシャー与えてきたしな。

 まあ問題はない。


 一度目の咆哮をしたあとしばらく動き回ったあとに、コイツはまたタメの動作に入る。

 そのタメはファイアーブレスに繋がる。

 つまり炎を口から発射してくるのだ。


 レッドドラゴンの攻略方法は、邪魔な尻尾を切り落とし、次点で両足、両翼、そんで動けなくなったところで顎下からアッパーするように剣を脳天まで突き刺すと勝てる。

 だからまあ切断できる武器は必須だ。


 だが、今の俺は武器など持っていない。

 もちろん防具もなく、パーカーとジャージを身につけている。

 

 武器も防具もない俺がレッドドラゴンを倒す攻略法は一つ。


 次のブレス攻撃で、口に侵入し、体内から攻撃するのだ。

 これが一番タイムが早かったやり方なんだよね。

 他にもあるけど。


 牽制に転がっていた城の壁の破片をブン投げる。

 見事着弾したレッドドラゴンはブチギレたのか、こっちに向かって突進してくる。


 素早く壁キックをしてレッドドラゴンを飛び越え避ける。


 バコオオオオオオオオオン!!!!!!


 レッドドラゴンは俺に突進したつまりだったが、着弾寸前で避けたので、俺の背後にあった城の壁に思い切り頭を凄い音を立ててぶつけた。


 レッドドラゴンはキレ症だから、イラつくとすぐさま大技を決めようとしてくる。


「やーい、やーい」


 だからここで追撃する様に、身体にビシッビシッと石ころ当ててると……



 グオオオーーーーーン!!!!!



 ほら、キレた。

 

 そんで持ってレッドドラゴンはタメに動作に入った。

 よし、次の攻撃はブレスのはずだ。

 ブレスを吐く時に口を開けなければ行けないが、開けた瞬間は炎はまだ完成していない!

 だからここで、口がタイミングよく空くその時に、入って、ファイアーブレスが完成する前に上顎にアッパーを決めれば俺の勝ちだ。


 レッドドラゴンが口を開ける。


 今だ!


 開けた口の中に、スルリと素早く侵入する。

 中は凄く生暖かい。 

 表面にはヨダレがついていて本当に汚い。 

 ちくしょう、上もパーカーじゃなくてジャージで来るべきだったな。


 そんなことを考えていると喉あたりにある管のような器官に炎が作り出される。

 これが最大限まで溜まるとブレスが発射される仕組みだ。


 これが発射される前に。



「おうらぁ!!!!」

 

 上顎にアッパーを思い切り打ち込む。

 すると、上顎に俺の拳サイズの凹みができ、しばらく揺れたかと思えば、じわじわと視界が晴れてきた。


 レッドドラゴンが消滅し、中からでてきたのはドロップアイテムの魔石と俺。

 側からみればグロ動画だろう。



「ふう、まあこんな感じだな! もう倒したから降りてきてくれよ!」


 

 塔の上にいる視聴者に聞こえる様に叫ぶ。


 飛び降りてきたマジノコが俺に言う。



「やっぱり戦い方おかしいよ、クロ」

「しょうがないだろ、師匠に防具の使用は禁止されてんだから」

「武器は禁止されてないんなら使いなよ……」



思わずそう漏らすマジノコを無視し、視聴者に向かって話す。



「皆さん、ただいまレッドドラゴンの討伐が終わりました。時間は……2分ちょいだな。3分きったぜアンタレス」



 アンタレスが3分で倒せるだの余計なことを言ったが、時間内に倒せてよかったわ。

 まあ、自己ベストは1分を切っているが今回は配信しながらだし多少は緊張をしていたがなんとかなったからよかった。


 さあ、やることもやったし締めようか。

 


「それでは、Aランク探索者ランキング1位、狂犬のクロが配信をお送りしました! 是非ともチャンネル登録してね!!!」


 

 視聴者に爆弾を残してな。

 

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