本編
第一話 #とあるAランク探索者
「今からおよそ50年ほど前。
地球上に突如、塔が現れた。
塔はアメリカ、イギリス、ロシア、中国、エジプト、ブラジル、南極、そして日本に出現。
いずれも同時に出現した。
塔には入り口であろう扉があったのだが、その扉はいくら押しても引いてもびくともしなかった。
強行策に出た国が兵器を用いり、塔ごと破壊をしようとしたが、傷一つつけられなかった。
世界中は謎の塔が現れた! と一時期は話題に上がったのだが、どこの誰でもどうすることもできず。
塔も何か環境や人々に悪影響を与えている訳ではないので、次第に塔への興味は薄れていった。
塔が人々の日常の風景と化してからおよそ五年。
謎に包まれた塔がついに、とある15歳の少年によって明かされる時が来た。
その少年の名は————
「現Sランク探索者のアンタレスだろ」
「うわ、でた」
うわ、でた。ってなんだよ失礼だな。
この現環境探索者最強ランキング一位のアンタレスについての伝記を語るのは、一つ年上の探索者仲間の田中。
絶賛ダンジョンギルドのフードコートでご飯を食べていた俺の向かいに座ったと思えば、口を開けばいつもこれなのだ。
俺はこいつを、キノコヘヤーで魔法使いだからマジックキノコ、略してマジノコと呼んでいる。
田中は少し悲しそうな顔をして言う。
「失礼なのは一番言いたいところを言っちゃうからだぞ、クロ」
「うるせえ、いい加減聞き飽きたんだよその伝記。俺がアンタレス嫌いなの知ってるくせに。毎度毎度飯食ってると俺の前で語り始めやがって。あと俺のカツ丼を食べるな」
むしゃむしゃと食べるマジノコからカツ丼を奪い返す。
「ああっ、なんて殺生な!」
「うるせえ、食いたいなら買ってこいや!」
「ひぃん……」
そう言うと、しょぼくれたマジノコは出店の方へと消えていった。
まったく、これだから吟遊詩人気取りのマジノコは……。
そういえばなんでマジノコは俺の前でSランク探索者アンタレスの話をよくするのだろうか。
いつも嫌いだと言っているのに。
探索者アンタレス。
彼を嫌いなのは理由がある。
そのためにはまず、彼について語ろうか。
Sランク探索者アンタレス。
アメリカ生まれ日本育ちの純日本人。
本名アンタレス・エドガー・クラウディア・四宮
15歳にしてダンジョンの初入場者
初のSランク探索者。
そして何より、ダンジョンの祝福を受けし者。
大雑把なところだとこんなモノだな。
功績を語るとキリがないので割愛するが、これだけでも察しのいい人なら分かるだろう。
俺が嫌いな理由が。
そう、ダンジョンの祝福を受けているからだ。
ダンジョンの祝福。
アンタレスが、各国に出現した塔がまだダンジョンだと解明する前に、好奇心で塔に入った時の話。
友達と一緒に塔に行ったらなんか付与されたらしい。
で、その祝福ってのがチート性能してて。
ちょっとした先の未来、千里眼、生物の気の流れ、魔力などなど…。
色々なモノが視えるようになったらしい。
アンタレス曰く、この祝福はダンジョンに初入場した特典とのこと。
おかしいよなぁ!
普通に考えてずるいですよね。
彼以外に祝福者など誰もいないのに。
一緒にいた友人も祝福はされていないみたいだし、世界で祝福を受けた者は彼一人だけだろう、多分。
そんなチート努力じゃどうしようもならねえのにコイツときたら。
ただ単に運がよかっただけのくせに、なにーが俺はこの力でダンジョンを攻略する……だよ。
借り物の力でイキってるだけのくせに!
俺だって欲しかった!
そんな力あったらダンジョンで無双してみんなからチヤホヤされるんだ、いーな!
欲しいよ祝福!
くれよダンジョン!
俺もチートもらって無双とかしたいし!
ともかく、俺は偶然とてつもない力を手に入れて、英雄気取りのヤローが許せないんだ。
気に入らないともいうがね。
はあ、俺にもそういう力、
「欲しいなぁ……」
「どしたん、ため息なんか吐いて。話聞こか? つっても大体何考えてるか予想つくけど」
机に突っ伏してため息を吐いていたら、カツ丼のお盆を持ったマジノコが丁度席に座って俺に話しかけてきた。
「おれ、しゅくふく、されたい」
「まあまあ、アレは彼だけの特権みたいなところもあるからね……それに苦労もしてるみたいだよ? クロ」
カツ丼の備え付けのスープをズズズと啜りながらマジノコは語る。
「あれだろ、アンタレス殺したら祝福が殺した人に移るって噂流れてるんだろ」
「そうそう、それで襲撃者が定期的に来るみたい。全員返り討ちにしてるらしいけどね」
だろうな。
伊達にも探索者最強じゃねえしな。
ネームドモンスター、唯一の個体にして現実に出てきたら国が壊滅するモンスターを一人で片付けるような人間なのだから。
いや人間じゃねえなありゃバケモンだわ。
「そういえば彼、ダンジョン配信なんて始めたらしいよ」
「ダンジョン配信? なんだそれ」
「ダンジョンで攻略するところをライブ配信するんだって」
「はぁー? そんなこと普通するか? だって一般人からしらダンジョンはいつ死ぬか分からないくらいに危険なんだぞ? それをそんな悠長に……いや、祝福があるから慢心してんのか! クソが、調子に乗りやがって!」
まーた調子にのってわけわかんねえこと始めやがって。
アイツの配信は、どうせ色んな人がみるだろうし、最強! かっこいい! 抱いてー! などのコメントが押し寄せるんだろう。
ああ、憎たらしい!
こうしちゃいられねえ、飯も食ったしダンジョンいかなきゃ!
アンタレスのヤローを超えるにはまだまだ力不足だからな!
俺もいつかは最強の称号を手にして、みんなからチヤホヤされるんだ!
「ご馳走様! ダンジョン行ってくるわ。じゃあなマジノコ!」
「いってらっしゃーい」
さあ行くぜ、ダンジョンが俺を呼んでいる!
◇◆◇
「クロは相変わらずだねえ……」
ひどく興奮した状態で、ドタドタと足を鳴らして食器を返却棚へ片しにいくクロを眺めて、僕は呟く。
「まあ気持ちもわからなくもないけど……」
みんな努力して強くなっているなか、チートを持っている人が最強なんて言われていたら、そりゃなんで? って疑問に思うのは間違ってないと感じるけどね。
本当に強いから仕方ないけど。
「チート野郎を超えて最強になるのが夢だっけか……」
世界で一番標高高い山は? と聞かれたらみんなはエベレストと即答できるだろう。
じゃあ二番目に高い山は? 知らない。
そう答える人が殆どだと思う。
人々は一番に目が行きがちだ。
だって頂点以外に興味を示す人などいないのだから。
誰も世界で二番目に高い山を答えられないように。
探索者でも同じこと。
世界で一番強い探索者は誰? と聞かれたらそう、アンタレス。即答だ。
じゃあ二番目は? 当然答えられる人はぼぼ居ない。
でも僕には、探索者として働いている人なら誰もが知っている。
「クロ」
探索者にはランク制度がある。
EからAの順にランクが上がっていく。
世間的にはCランクに行けば立派なプロの探索者。
Bに行けばエリートを名乗っていいだろう。
そして、それらを超えた先にいるのがAランク。
上位0.01パーセントに位置するAランクは、Bとの実力は雲泥の差だ。
人間の限界を超えて、人間を辞めた者だけが辿り着けるランク。
それがAランク。
その上澄みの中でも最上位に位置するのが、さっきまで最強の愚痴を垂らしていたクロなのだ。
最年少Aランク到達にして、パーティを組むのが義務化されているのダンジョン攻略に、唯一特例でソロでの探索を許された孤高のアホ。
「肩書きだけで言ったらクロも大概なんだよなあ」
結構すごいことしてんのに有名にならないのはなんでだろ……。
いや探索者の中で名は広まってるか、主に悪い方向に。
最強さんに喧嘩なんかふっかければ、そりゃあ周りからの視線が痛いよねって。
うん。
いやまあ本人は頑張ってるみたいだし、応援はしてあげよう。
僕にとってはクロが英雄だしね。
「おばちゃんご馳走様ー! ダンジョン行ってくるわ!」
「気をつけて行って来るんだよ!」
僕はそんなことを考えながら、食堂のおばあちゃんにニッコニコでお礼をしてダンジョンに向かう、最強超えを夢見る友人を見守るのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
こちら過去作のダン信王という作品のリメイクです。
少しでも面白い、続きが気になる、と思ったら
下の方にある★を押して頂けると、とっても嬉しいです!
感想も待ってます!
本作をどうぞよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます