ソロモンの羽

クズグッズ

第1話 天使

彼らは確かに存在していた。

彼らは確かに生きていた。

彼らは確かに人間だった。

そう、これは人間だった、彼らの話。

誰にも称賛されず、誰にも理解してもらえず、それでも人々を守るために戦った彼らの話。


 ――――ときは遡る。天暦26年。西暦に言い換えると、西暦3026年。究極の奇才、ヴァール博士が高性能AI、〈天使〉を造ってから実に26年が経過した。

 天使たちは実に万能だった。言うなれば、全自動世界になったと言っても過言ではなかった。

………だが、それも長くは続かなかった。


「うぉあっ!やべえッ!!遅刻するっ!」

時計を見てゆらが声を荒げた。時計をみると、8:30を指していた。

 彼は急いで天使に命令した。

「えぇっと…朝ごはんはパンで、ジャムを塗っておいて。あとはココアもお願い!冷たいやつね。」

 「やべぇやべぇ」

と、つぶやきながら天使に制服をもらい、パンを食べながら、玄関を出て、天使が操縦するバイクにまたがった。


「……やっぱり遅刻だよね〜。」

とゆらが呟く。正門をくぐるときに耳につけている小型コンピュータの天使が反応したのだ。遅刻したら職員室に報告が行くようになっている。

「遅刻扱い面倒なんだよな〜」

 できるだけ、音を出さないように2年1組のドアを開けた。すると…

『おはようございます!』

と、勢いよくドアが、いや天使が挨拶をした。

(………最悪だ。この設定絶対いらねーだろ。)

天使に対して八つ当たりしながら心のなかでぼやいた。

「あぁーゆら。早く席つけ。お前遅刻な。」

先生がそう言うと、クラス全員がゆらをみて、くすくす笑った。

「了解でーす。」

はずいなぁとぼやきながらゆらが席につくと、後ろからちょんちょん!と背中を突かれた。

「お前が遅刻するなんて珍しいな。」

後ろの席のゆらの友達、遥だ。

「いやぁなんか目覚まし時計がかからなかったんだよね。」

「ハハッ。冗談はほどほどにしとけよ。天使があるのにかからないわけ無いだろ。」

「いや、まじまじ。」

「熟睡しすぎだろ。」

「あー…そうかもなぁー。」

「それより、昨日のニュース見たか?」

「あぁ見た見た!ラクリーナイトのやつっしょ?」

「そうそう!」

 しばらくすると彼らはいつも通り、ゲームなどのいつも通りの話題に移った。


――それは突然の出来事だった。


3時間目の社会の時間。

「やっぱり歴史って眠くならね?」

「それな。まじで眠くなる。」

『はいそこ!喋ってないでこっちのスクリーンをみてください。』

と、スクリーンの中の天使がゆらたちに言った直後、



ブツンッ!!ジジッジッ………………



画面がぶつ切れた。

「え?なにこれ?故障ってやつ?」

万能の天使にはこういうことは、こういう事例は見たことがないし、そもそも一回も起こったことがなかった。


画面が切れて暗くなったあと、何やら人が出てきた。

「え??どうなってんだ?あれ…ヴァール博士…?!」

「なんだ……これ。」

『……よく聞け、愚かなるものたちよ。』

「なんだなんだ?」

「なにこれドッキリ?」

「こういうイベントかなぁ。」

「どうなってるんだこれ?」

クラスがざわめく。

『人間は非常に愚かである。天使という便利なものに頼り切って、自分の力を勘違いしている節がある。本当は天使がいないと何もできない生物なのに。』

「これ、やばくね?」

「え?どういうこと?」

『更には、戦争、喧騒、貧困。天使を作ったのは世界平和のためであり、自分の力を誇示する道具ではない。』

『………よってこれより、天使による人間の排除、及び殺戮を開始する。』

これが、全ての始まりだった。

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