無能無双～出来損ないの人造人間《ホムンクルス》に転生した俺、努力しすぎて最強に至る～

第12話 夫婦

　クルトが大声で呼ぶと、ディアナが何事かといった様子で走ってきた。

「なんですか、騒々しい」

「とにかくこれを見てくれ。ネロ、さっきのやつ、できるか？」

「うん、できるよ」

　クルトに頼まれ、俺は先ほどと同じように火球と水球を目の前で出して見せた。

すると、

「あら……まあ……」

　ディアナは瞠目して立ち尽くしてしまった。

　驚きすぎて言葉も出ないようだ。

　大声を上げるクルトとは対照的。

　夫婦でも驚き方に大きな違いがあって面白い。

「なあ、とんでもないだろ？」

「ええ、本当に……」

　なんか俺……またやり過ぎてしまった？

「……いけないことだった？」

「ううん、全然悪くないのよ。むしろネロの才能に感動してしまったの」

「そうだぞ。普通、魔法っていうのは一人で一つの属性しか持てないものなんだ」

「え……」

「俺は火属性が得意なわけじゃなく、火属性しか使えないんだ。ディアナはさっきも言ったが水属性な。だから両方をやってのけたネロは誇っていんだぞ」

　どっちも捨てがたくて、なんとなく試してみただけなんだけど、そんなことになっていたとは……。

「それにもっと凄いのは相反する属性を持っていることだ。火と水は元々相性が悪い。それを内在できていること自体が規格外の才能なのだ。分かるか？」

「うん、分かる」

「おおーっ、やはりネロは頭が良いなー！」

　そう言ってクルトは俺の顔に頬を擦りつけてくる。

　だからまたそのジョリジョリやめてーっ！

　しかし、火と水が出せるようになったとはいえ、これだけでは何もできない。

　手の前で火球と水球が浮いているだけなのだから。

　このまま放り投げれば、それなりに攻撃魔法として使えるのかと思い手を振り回してみたが、まとわりついたままで離れようとはしない。

　これじゃ、松明の代わりや緊急時の飲み水くらいにしか使えないぞ。

　魔法で作った水を飲んで平気がどうかは分からんけど。

「これ、パパみたいにバーンって飛ばしてみたい」

　俺は手に作った火球を見せながら言った。

「はっはーっ、さすがにそいつはまだネロには早いかもしれないぞ」

「どうして？」

　クルトは微笑みを浮かべる。

「属性付与した魔力に、今度は〝状態変化〟を施さなければならないからだ」

「状態、……？」

「実際に魔力がどのような形となって効果を現すのかを指定してやることだ。これには知識や経験も必要だし結構複雑だからな。幼いお前にはまだ……」

「そうなんだ。じゃあ、それを教えて」

　クルトは面食らった顔をした。

「まったく……お前の勉強熱心さには脱帽するよ。でもな、現実に魔法を使うってことは一つ間違えば大事故に繋がる。経験が浅いうちに安易に試して怪我をしたっていう例も少なくないんだ」

「じゃあ……ダメなの？」

　ここまで来てお預けなんて悔しすぎる。

　早く強くなりたいのに。

　そんなふうに思っていると、クルトが溜息を吐いた。

「まあ……一番簡単なやつなら、そこまで危険はないかもしれないな……」

「やた！」

「但し！　パパ、ママの言うことをきちんと守ること。自分で判断して、教えたもの以外のことを勝手にやらないこと。約束できるか？」

「うん、約束する！」

「それじゃあ、ここからはディアナに交代だ」

「え……ママに？」

　なんで？　クルトが教えてくれるんじゃないのか？

　このままその流れで行くのかと思ってたので驚いた。

　まあ魔法が教われるなら、どっちでも歓迎だけど。

「俺の魔法は剣術ベースの魔法剣が主体だからな。体の小さいネロがやるには難しすぎるんだ。魔法の基本は属性付与された魔力そのものを放つこと。そこは〝水竜の魔女〟とも呼ばれたディアナに教わるのが一番いいだろう」

　水竜の魔女！？

　ディアナってそんな二つ名で呼ばれてるの？

　優しくて穏やかなイメージとは似ても似つかないんだが……。

　そういえばクルトも〝瞬撃のクルト〟って呼ばれてる話を前に聞いたし……。

　俺の両親って……。

「パパはね筋肉の声に耳を傾ける直感タイプの人間だから、構築系の魔法は苦手なのよ」

「む……そ、そんなことはないぞ！　俺はなんて言うか……そういうゴチャゴチャしたのが性に合わないだけだ……！」

　分かり易い反応だった。

　というか、この前の黒蟻との戦いで彼の凄さは目の当たりにしている。

　身体能力も剣裁きも尋常じゃなかった。

　それは素人の目からでも充分わかる。

　直感タイプはそれだけで才能だ。

　そしてディアナもそうは言うが、彼のことをきちんと尊敬している感じが、その表情から見て取れた。

　互いに敬い合い、仲良く暮らす。

　まさに挙案斉眉。

　俺も結婚したら、こういう夫婦でありたいな。

　相手いないけど。