無能無双~出来損ないの人造人間《ホムンクルス》に転生した俺、努力しすぎて最強に至る~
藤谷ある
第1話 転生したら無だった
平凡な人生だった。
可もなく不可もなく、ただただ普通で退屈な人生。
勉強ができたわけでもなく、運動能力が高かったわけでもない。
だからといって何か別の才能があったわけでもない。
質の悪い工業部品のように雑に大量生産されたような存在。
それが俺だった。
無名の大学を出て、良く知らない企業に就職。
残業もりもりのブラック企業なのは最早当たり前で、何の為になっているのか実感が沸かない仕事を安い給料でひたすらにやらされる毎日。
まさに雑な部品(歯車)に課せられるに相応しい仕事だった。
休日の僅かな楽しみは、ネトフリやアマプラでひたすら映画やアニメを見るか、無料漫画を読み漁ること。
あとは夕食にスーパーの惣菜を普段より一品だけ増やして豪遊するくらい。
平日はくたびれて寝るだけなので何も無い。
そんなんだから、これまでに彼女ができたことはない。
いや、そんな生活をしていなくてもやはり彼女はできなかったと思う。
自信も無ければ気力も無い。
欲しいという気持ちがあるが、その前に立ち止まってしまうだけだろうから。
あー……何やってんだろうな……俺。
そんな俺は、ボロアパートの一室で独り項垂れていた。
今日は休日。
だが、暮らしはいつも通り。
目の前の座卓には、さっき食べ終えたばかりの惣菜の空き容器が置かれている。
部屋にある唯一の窓は黄昏色に染まっていて、今日という日に終わりが近付いていることを否が応でも知らせてきていた。
明日はもちろん仕事。
憂鬱だ。
行きたくねー……。
何の為に働いてるんだろうな……。
もちろん生活の為なのは分かっているが、こんなつまらない生活の為に働いていることが嫌になってくる。
「ふぅー……」
深い溜息を吐いて立ち上がる。
ちょっと散歩でもして気分転換するか……。
そう思い立ち、スマホ一つ持ってアパートを出た。
ビルの合間に差し込む夕焼けが眩しい。
こうやって陽を浴びていると、僅かだか気持ちが穏やかになってゆく気がする。
少しだけ気分が落ち着いたその時だった。
「きゃぁぁぁっ!」
近くで若い女の人の悲鳴が上がった。
なんだ? どうした?
声がした方向に振り向くと、高校生っぽい女の子が空を見上げ、驚愕の表情で固まっているのが見えた。
その表情から推察するに只事では無いのが分かる。
例えばUFOが現れたとか?
それとも隕石が降ってきた?
または某国のミサイル?
それぐらいの緊迫感が漂っている。
だから俺は、すぐさま彼女の視線の先に目を向けた。
すると、視界に入ってきたのは頭上から落下してくる一本の――鉄パイプ。
なんだ、鉄パイプか。
UFOや隕石、ミサイルから比べればなんてことはない。
なんてこと…………は?
「ふごはぁぁっ!?」
直後、俺の体を途轍もない衝撃が襲った。
例えるなら戦車の砲弾で胸を撃ち抜かれたような。
戦車に撃たれたことはもちろん無いので本当のことは分からないが、とにかくそれぐらい凄い衝撃だった。
嘘だろ……。
何が起こったかは理解できた。
近くでやっていたビルの解体工事。その足場が崩れ、降ってきた鉄パイプが俺の胸を貫いたのだ。
自分の身にまさかそんな災難が降りかかるなんて思ってもみなかった。
今も現実を現実と捉えたくない自分がいる。
「げほっ……ごほっ……」
だが、この痛みは本物だ。
肺の中が溢れ出た血液で満たされ、声を出すことは疎か呼吸もままならない。
俺……死ぬのか?
いや、死ぬだろうな……。
この状況で、とても助かるとは思えない。
もう駄目だとこの体が言っているのが分かる。
「誰か! 救急車っ!!」
既に視界は霞んでしまって見えないが、そんな叫び声だけが聞こえてくる。
見ず知らずの人が救助を呼んでくれているのだ。
ありがとう……。
こんな俺の為に……。
でも、もう無理だと思う……。
その気持ちだけ受け取っておくよ。
ズタズタに裂かれた体が悲鳴を上げている。
そろそろ旅立ちのお知らせかな。
ああ……こんな終わり方か……。
結局、俺の人生……〝何も無かった〟な……。
振り返るほどの過去も無い。
そう思った次の瞬間、まるでシャッターでも閉めるかのように――、
俺の意識は途絶えた。
* * *
コポコポという音で目が覚めた。
え?
まだ生きてる?
なんだこの音は……。
これは……そう、まるで水槽のポンプが水の中で泡を立てているみたいな……?
もしかして……酸素吸入器の音とか?
機械のそばで液体酸素がコポコポいってるのドラマとかで見たことがある。
てことは、ここは病院?
助かったってことでいいのか?
そうだとしたら、救急車を呼んでくれた見知らぬあの人のお陰だな。
でも、さっきから視界が真っ暗で何も見えない。
目を開けようとしても無理。
包帯が何かで覆われている状態なのか?
しかし、目の周りにそういった感覚は無い。
というか、瞼そのものの感覚が無い。
どういうことなんだ、これは……。
とにかく状況が知りたい。
目を開けるんだ、目を。
あれだけの事故だったんだ。
回復は相当な困難が待っているはず。
リハビリだってしなくちゃいけない。
せっかく助かった命なんだ。
ずっとベッドの上にいるだけなんて嫌だ。
俺の体はどうなってしまったのか?
それを早く知りたい。
だから目を開けるんだ。
強い意志を持って、置かれた状況を知ろうと望んだ。
すると、その意志の応えるように視界に光が差し始める。
お……見えた。
広がった光。
そして見えてくる周りの状況。
だが、そこにあったのは俺が想像していた場所とは全く違ったものだった。
俺の周囲で揺らいでいたのは水。
その中を気泡がコポコポと音を立て上ってゆく。
そう、俺は水の中にいた。
……は?
なんだここは!? どういう状況?
ってか、息は!?
慌てて呼吸の心配をするが、すぐに苦しくないことに気づく。
目を開けるまで平気だったのだから今更という感じだ。
周りを見渡すと、どうやら俺は筒状の水槽の中で浮いているらしいことが分かる。
なぜその状態で平気なのか原理は不明だが、今はとにかく体だ。
俺の体はどうなった?
緊張しながら恐る恐る自身の体に目を向ける。
すると――、
え……。
予想だにしなかった状態に呆然としてしまった。
そこには何も無かった。
四肢が欠損したとかそういうわけじゃない。
体そのものが無かった。
どこをどう見回しても手足どころか、胴も頭も無い。
じゃあ何があるのかと聞かれれば……、
水槽の中に意識だけが存在しているかのようだった。
訳が分からない。
幽霊とかそういったものとは違う気もする。
意識を外側から内側に向けると、確かにそこに存在している感覚はあるからだ。
ただこの感覚、非常に小さい。
敢えて例えるなら細胞のような小ささだと思う。
嫌な予感がした。
え……俺、細胞なの?
不安が募る中、突如目の前に人の顔が現れる。
おわっ!? だ、誰? びっくりした……。
小さい俺からしたら巨人並の大きさなので、そりゃビビる。
現れたのは若い女性だった。
二十代前半くらいだろうか? とても綺麗な人だった。
そんな彼女は俺が浮いている水槽に顔を近付け、不安と期待が入り交じった複雑な表情を浮かべる。
そして、こう呟いた。
「無事に産まれてきて……私の赤ちゃん」
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