ダイテンシ対談
蝶々屋
第1話 大天使
あのー……
すいませーん……
お休みのところ大変恐縮なのですが……
ちょっと起きて下さいませんかー……
あっ、お目覚めになりましたか。
いやー良かった良かった、長かった。これでようやくお話ができますよ。
まったく貴方様ったらずーっとお目覚めにならないんですから。なんとセシウム換算にして3日も寝てたんですよ? わかります? 秒数に直して259200秒の3日ですよ?
あまりに起きないものだから私、もしかしてこの方ご永眠なさってるのかしらって思っちゃったんですから。
あはは。ごめんなさい私ったら焦りすぎて変なこと口走っちゃって。
ご永眠中なのは本当のことでしたね。
はい。死んでますよ貴方。
おや信じられないといったご様子。
では特別に、私が一肌脱ぐとしましょう。
ばばーん
そう、こちら私自慢の翼です。
大きいでしょう、白くて美しいでしょう。
大天使である私が他人様のために背中を曝け出すなんて滅多にないことですよ。どうぞ遠慮なく五体投地して拝んで下さいませ。
あ、別に拝んだりしない? 納得できたからもう見せなくていい? そうですか。
で、えーっと、はい。では今の状況に関して説明を続けさせて頂きますね。
誠に残念ながら、貴方様は現世で若くして悲運の死を迎えました。
しかし、それまでの善行と余った寿命を考慮した結果、貴方様を異世界に転生させることが天界で議決されたんです!
……うん、議決されたんですよ。議決された。されたところまでは良かったんです。
でも……その、なんと言いますか、ヒューマンエラー、いやエンジェルエラーと言いますか、ほんのちょっとした手違いと言いますか、不幸な事故と言いますか……
はい。わかりました。さっさと言います。
死後の霊魂の取り扱いに必要になる書物って、2種類あるんですよ。
片方が「死の書」、もう片方が「転生の書」っていう、まあ貴方の世界で言うところの転居届みたいなものなんですけど。
で、「死の書」って霊魂を死後の世界に転居させるとき書くものなので、「転生の書」を書くときには要らないんですよね。
……なんですけどぉ、私ちょっと間違えちゃって、両方書いちゃって、特に確認せずに両方とも提出しちゃってぇ……
えっと……その結果貴方様の処遇がどうなったかと言いますとですね?
ここは、異世界です。
そして、その死後の世界です。
……はい。
貴方様は、異世界の死後の世界で暮らすことになっちゃいましたー、異世界転生ならぬ異世界転死っつってね、へへへ……
なにも殴ることないじゃないですか!
うるさいですねぇ! 大天使だからって仕事できるわけじゃないんですよ! 私働き始めたの先週なんですから!
大天使とかヴァルキリーなんてもんは家柄なんですよ家柄! 天界はバリバリ貴族社会なんですよーだバーーーーカ!!
……すぃません……ごめんなしゃい……
全面的に私が悪かったです……だからもうほっぺたを平手で全力フルスイングはやめてくだしゃい……
え、えっと……とりあえず、書物の修正手続きが終わるまで、しばらくの間はこの世界で過ごして頂くことになります……
当面の生活、いえ死活はこちらで補償しますし、今後の処遇も貴方様の意思をできる限り尊重いたしますのでぇ……
そ、それでは別の者に案内役を頼んでいますので、私はこの辺で失礼をば……
家に絆創膏あったっけな……
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