住宅街

ごま油を引いたフライパン

住宅街

 朝、住宅街にぼんやりと響くチャイムの音。

 ここから百メートル先にある高校の校舎から聞こえたそれが八時三十分の訪れを告げる今日は月曜日である。朝の通勤ラッシュも落ち着き、日を浴びながら散歩をする人や、洗濯物を干す人が目立ち始める和やかな朝に、ひとつの音が加わった。

 遠くからゆっくりと近づいてきたその音は、日本の住宅街ならではの細い道を走る一般車を蹴散らしながら、和やかな朝の終わりを住民たちに告げていく。

 高音でありながらも重さを持ったけたたましい音。サイレンである。

 その音の主は、黒いセダンタイプの覆面パトカーだ。住宅街を安全に走ることを忘れ、時速六十キロ程で狭い道路を縫っていくセダンは、住宅街の中ほど、赤い屋根の住宅の前で急ブレーキを踏んだ。それと同時に、音階を下げ始めたサイレンが鳴り止む。

 近隣の住民が各々の位置からセダンを見守るなか、助手席のドアが最初に開く。スーツの上からスポーツメーカーのウィンドブレーカーを羽織った若い男が降りてきた。腕に巻いている赤い腕章に刺繍された文字から、彼が機動捜査隊、通称機捜隊の刑事であることが窺える。

 運転席からも機捜隊の刑事が降りてくる中、一目散に赤い屋根の住宅へと走り出した若い刑事の前には、彼のへそほどの高さはあるであろう門が立ちはだかる。彼は、門の上に手をかけ、足に力を込めた。次の瞬間、余裕の顔でそれを飛び越え、さっさと玄関ドアの横に寄りかかる。いつの間にかその手には拳銃が握られていた。

「裏回れ裏!」

 運転席から出てきた女刑事が若い刑事に向かって叫びながら同じく門を飛び越えた。

 刑事というのは想像以上に運動神経が必要なのかもしれない。

 無言で頷いた若い刑事は、体をよじってこの家の勝手口へと走っていく。

 遠くから、応援要請を受けたパトカーのサイレンが重なって聞こえてくる。

 住宅街は、まだしばらく騒がしいままだろう。

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住宅街 ごま油を引いたフライパン @gomaabura_pan

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