第51話

しばらくして飛鳥が目を覚ますと、辺りは薄暗く蝋燭の火が灯るのみ。


『僕は寝ていたのか?』


そう思い目を凝らしてみると、そこは見たことのない部屋のようだ。


「こ、ここはどこだ?」


何となく口にすると、突然に声をかけられた。


「あぁ、目を覚ましたかね」


下卑た笑顔を向ける佐吉が目の前にいる。


どうして、彼がここにいるのだろう。


状況が把握できずに混乱していると、自分の着衣が淫らにはだけていることに気付く。


おまけに、下半身には違和感を覚えた。


『まさか……』


恐怖に戦慄しながら佐吉の方を見ると、彼は床に膝をついて飛鳥に顔を近づける。


「ここは、私の屋敷だよ。家の者は実家に帰っていておらんよ」


「な、何で僕がここで寝てるんですか!?」


「君が酔って寝てしまったからだよ。ここの方が近いから寝かせたんだ」


そんな説明を受けたが、飛鳥はどうにも疑問が拭えない。


「僕に何かしたんですか!?」


男娼だったのだから、知らない相手に触れられることは一応慣れている。


しかしそれは仕事であって、こんな目に遭うことはなかった。


「察しているようだから、否定はしないよ。君が寝ている間に、少し味わわせてもらっただけだよ」


どうやら、佐吉は寝ている飛鳥に触れたらしい。


なんて卑怯なやり方なのだろうか。


「な、何で僕にこんなことを?」


飛鳥が怯えながら問うと、佐吉はニヤリと笑った。


「こっちの方がご無沙汰でね。君と出会ってから、ずっとものにしたいと思っていたんだよ」


佐吉の指が、飛鳥の頬を撫でる。


恐怖のあまり、飛鳥の目に涙が滲む。


久々に、香煌楼での日々が蘇る。


そもそも飛鳥は男色家というわけではなかった。


和音という人間を愛したのだ。


香煌楼でだいぶ慣れはしたが、男に触れられることを受け入れているわけではないのである。


飛鳥が触れて欲しい人は、ただ一人……。


「僕には、愛する人がいます。こんなことは止めてください」


「知っているよ。一緒に商いをしていた男だろ?しかし、いなくなったというじゃないか」


佐吉はそのことを知っていた。


和音のことを話したことなどなかったのに。


「どうしてそれを?」


「私はこの界隈でも名が知れているんだ。情報くらい幾らでも入ってくる」


名が知れているというなら、こんなことをしたら己のためにならないと思うのだが。


さらに佐吉は獰猛な目で飛鳥を見つめてくる。


「君の体は極上だったよ。さぁ、もっと楽しませてくれんか」


佐吉の手が飛鳥の胸元をすべる。


佐吉を押しのけようと、飛鳥は抵抗した。


「や、止めてください!あなたのことを、そこら辺に言い触らしますよ?」


そう言っても、佐吉は動じる気配がない。


飛鳥が言い触らせないとでも思っているのだろう。


「無駄だよ。どうせ男たちに可愛がられてきた体だろう?私が食ったところで減りはしないさ」


そう言うと、佐吉は飛鳥に跨り彼の両手首を掴み固定する。


まさか、飛鳥が男娼だったことまで知られているのだろうか。


もう、絶体絶命だ。


このまま飛鳥は、佐吉の餌食になるしかないのか……。


『助けて……』


叶わぬと分かっていても、たった一人を求めずにいられなかった。


「観念しなさい」


そう言って佐吉の顔が近づいてきた時……。


すると勢いよく襖が開き。何者かが部屋に入ってきた。

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