第29話


月日の流れというのは早く感じられるもの。


それでも普遍的なものはある。


それは、飛鳥と和音の仲だ。


二人は周囲の目を警戒しながらも、秘密の愛を育んでいた。


頻繁に好きな時に会えなくても、いつか一緒になれたら良いという思いが、二人を支えていたのだ。




そんなある日、部屋で宗士が喚いていた。


「何したんだよ。うるさいな」


飛鳥が聞くと、宗士は「金が無くなったんだよ!」と言う。


もしそれが本当なら、大問題だ。


香煌楼では、男娼たちに毎月稼いだ金の中から小遣い程度の金を渡している。


金は自己管理となっているが、他人の金に手を付けてはいけないという掟がある。


それは当然のこと。


しかし、そんな掟を守らない輩もいるということか。


飛鳥が「お前の管理が悪いからじゃないのか?」と言うと、宗士は「黙れ!」と怒鳴った。


さらに宗士は、「あいつだ!蘭が盗ったんだきっと!」とまで言うではないか。


「蘭が!?」


飛鳥としては、まさか蘭が金をくすねるなど、信じられない。


純粋無垢そうで、人のものに手をつけるなんて思えないからだ。


きっと、何かの間違いだろう。


「そうだ。あいつ、いつも金がないって騒いでただろ」


確かに、飛鳥も蘭に「金ないんですよ」と愚痴られていた。


しかし……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る