第17話

飛鳥は思い切り警戒しながら、宗士を睨みつける。


「何だよ、とっておきのことって」


「知りたいか?」


にやけながら焦らす宗士に、飛鳥は苛立ちを覚えた。


「さっさと言えよ!」


「分かったよ。東堂さんに、お前たちのことを話したの、俺なんだよな」


宗士の言葉を聞いて、飛鳥は固まってしまう。


「え?どういう意味だ?」


「お前と和音、休みに客室に行っただろ?あの時、俺見てたんだよ」


もう罰を受けているから、今更知ったところで既に遅い。


それでも飛鳥は愕然とする。


「あの日、祭りに行ったんじゃないのか……」


「俺、祭りとかあまり興味ないんだわ。ちょうど水を飲みに行って炊事場から戻る途中で、お前らが出てきたんだ」


「何で僕たちのことを東堂さんに話したんだ?」


宗士が東堂に告げたのは、飛鳥に客を盗られた恨みがあったからだという。


とはいえ、飛鳥には宗士の客を盗った覚えなどない。


宗士が言うには、その客は「新しい子が入ったそうだな。可愛いみたいじゃないか」と言っていたのだそう。


その頃に入ったのは飛鳥だけのため、明らかに飛鳥を指していることが分かる。


宗士を指名しておきながら他の男娼の話をするその客も客だが、その客は本当に宗士を指名しなくなり飛鳥を指名し始めたのだ。


他の男娼に鞍替えすることを香煌楼では禁じていないものの、道義的にはどうかと思われる行為である。


「せっかくのお客さんだったのに、悪かったよ。でも、僕は知らなかったんだ」


「いいさ、俺には他にも上客がいるし、お前にくれてやるよ。で、お間は和音と本当に恋仲なのか?」


「え?それは……」


宗士の問いに飛鳥は答えられなくなる。


確かに飛鳥は和音に想いを寄せているが、別にその想いを告げてはいないのだから。


「そういうわけじゃないよ。あの人も、きっと気まぐれで僕を誘ったんだ」


「ふーん。あいつに本気にならない方がいいぞ?東堂さんが怖いならな」


「……」


飛鳥は返事に困ってしまう。


和音に従い客室に行った自分が悪いことは分かっている。


しかし、なぜ自分が東堂に告げ口したことを今になって飛鳥に教えたのだろう。


「何で今さら僕にそのことを?」


飛鳥がそう問うと、宗士はにやりと笑った。


「お前が、政忠とかいう客とよろしくやってるみたいだからな。放っておいたんだ」


長く告げ口をしなかったのは、政忠と親密にしているのが何となく腹が立ったとの理由から。


盛んだったようだから、一気にどん底に突き落そうと考えたのだという。


「まさかお前、あの客とできてるのか?」


嘲ったように言う宗士の顔を見て、飛鳥は無性に腹が立った。


「そんなんじゃない!」と言って歯を食いしばり、握った拳を振り上げたところ、誰かに腕を後ろから掴れる。

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