三日目 リモート怪談中 其の壱

「なんか段々、怪談らしく成って来たわね」


「AIだから学習してんだろうな」


「あっ! みーちゃんが来た」


「ごめん。遅く成った」


 未彩がリモートに加わり、俺のモニターには八人の顔が映し出されている。

 現在午前零時二十分。

 本日、陽斗は田舎で行われているお通夜の為、欠席だ。


「陽斗は今頃寝てるかな?」


「あいつの事だから寝たふりして携帯ゲームでもやってるやろ」


「メールしてみる?」


「やめときなさい。不謹慎よ」


「陽斗の田舎の家、物凄く大きいらしいわよ。かなり古い家で、一階しか無いんだけど、十畳間の座敷が八つも有るんだって」


「ちょっとした旅館やな」


 怪談中も陽斗の話題で持ちきりだった。

 お調子者だが皆に慕われているのがよく分かる。


「あれ? 裕香、どうしたの? 今日も具合悪い?」


「えっ? ううん。大丈夫よ」


 裕香が又何か考え事をしてる素振りを見せた。

 やっぱりこの三日間、どこか変だ。

 何か深い悩み事が有るのだろう。

 性格的に自分からは言い出せないんだろうと思い、俺は分かりやすく彼女に助け舟を出してみた。


「裕香。気になる事が有るなら遠慮なく聞きなよ。プライベートな事ならイチハにコッソリ。イチハが頼んないなら未彩姉さんも居るから」


「だれが姉さんよ!」


「ごめんね。何か心配させちゃったかな?」


「全然。俺達友達なんだし、こんだけ居れば、どんな事でも必ず力に成れると思うぜ」


「ありがとう。じゃあ、星野くんに質問いいかな?」


「僕? 僕は超自然現象とかオカルト面しか詳しくないよ」


「うん。その事でちょっと……AIって予言とかできるのかな?」


 裕香の質問は思いも寄らない、まさかな質問だった。

 しかも何故、緋黒に聞く?


「そうだね。予言っていうか、予測はできると思うよ。魚留さんは占いとかは信じる?」


「え、ええ。信じる方かな」


「手相占いや算命学は、莫大なデータを元にした統計学だ。統計から未来を予測するのが、それらの占いなんだ。莫大なデータと計算方法が有れば、これはAIにも出来る事だよね。つまりAIが未来を予測する事は可能だ。占いと同じで、それが百パーセント当たるとは限らないけどね」


「ああ、そっか。なるほどねぇ……じゃあ、一日目の星野くんの怪談の内容は、AIが未来を予測した物だという可能性は有る?」


「どういう事?」


「ごめん。私、自分でもおかしな事を言ってるって分かってる。けど……皆は二日前に都内で起こった通り魔事件のニュースを見た?」


 裕香の話によると一昨日の深夜、東京の某場所で女性が刺されて殺されるという事件が有ったらしい。

 検索してみると、確かに夜中二時位にその事件は起こり、犯人はその場で直ぐに取り押さえられたみたいだ。

 犯人の男は酷く酔っ払っていたみたいで犯行を覚えておらず、供述が曖昧らしい。

 怨恨による計画殺人か、それとも飲酒による衝動殺人か、現在まだ捜査中だと報じらている。


「皆、覚えてる? 一日目の星野くんの怪談。この事件と酷似してない?」


 緋黒の初日の怪談……。

 うろ覚えだが、確かうめき声が聞こえるお店が有って、殺人をしないと声が聞こえないからとマスターに言われ、店の客が殺人を行うって内容の話だったはずだ。

 酔っ払って殺人をしているところは確かに似ているが……。


「只の偶然じゃないかな?」


「私も最初は只の偶然だと思った。けど、それだけじゃないの」


「えっ?」


「一日目の未彩ちゃんの怪談も、もしかしたら陽斗君のお祖母ちゃんの話じゃないかな?」


「入院中の老婆が死ぬ話?」


「そう。どちらも私達の怪談後に起こってるの」


「ああ、それで予言か。いや、それはただの偶然、思い過ごしだよ。通り魔殺人はともかく、入院中のお年寄りが亡くなるって事は、毎日沢山起こっている事だ」


「けど……」


 皆が「考えすぎ、考えすぎ」と言うなか、一人ニヤニヤしながら緋黒が反論した。


「僕は魚留さんの意見を尊重するね。僕達の怪談で何かしらの力が働いた可能性があるよ」


「おい、緋黒。イチハもビビり出したじゃないか。油を注ぐなよ」


「肝試しだよ。怖がらしても問題ないよね?」


「そうだけど、陽斗のお祖母ちゃんが亡くなった事まで持ち出すのは良くないだろ」


「ご、ごめんなさい。やっぱり私が馬鹿だったわ」


 裕香は手を振り、慌てて自分の意見を否定しだした。


「裕香。そんな何でも結びつけちゃ駄目よ。AIは過去に有った出来事を参考に物語を作ってるから、現実世界に似たような事が起こる可能性も、そりゃ少なからず有るわよ。でも私達の怪談話の中には妖怪が出てくる物も有ったでしょ? もし現実世界にもそんな妖怪達が現れたのなら、話は変わって来るけどさあ」


「あっ、そうね。確かにそうだわ」


 裕香も未彩のこの言葉に納得し、一同は笑みを浮かべた。

 さすが未彩。

 俺も「そりゃそうだ」と、感心した。

 そして百物語は、そのまま再開されるのたが……。






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