天を歩む

@sayo07

プロローグ・紺碧


 じゅっ。


 目からそんな音がしたような気がして、たまらず少年は瞼を戻した。




 さて、今回はどこに飛ばされたのだろうか。


 網膜に焼き付いた緑の残像を眺めつつ、少年は思考する。

 眩しさを警戒しつつ、またそおっと目を開けた。


 それから一秒もしないうちに、少年の口から歓喜で飽和したため息が漏れる。


 が、当の本人はそんなことを気にもとめず、ただただ目の前の光景に釘付けになっていた。



 無理もない。


 ここはまさしく、少年のための特等席であった。





 視界の端に映ったタイルに、少年は目を留めた。もちろん、その景色をたっぷり堪能してから、ではあったけれど。



 少年は腰を上げる。


 さっきまで寝転がっていた妙にざらざらするタイル、やけに大きい室外機、そして古びたドア。


 これらを順々にその目に映した少年は、ぱちぱちと瞬いた。




 ガッ、チャン。


 ドアの鍵を開け、中をのぞき込む。

 ノブにかけられていた侵入禁止の札が、カランと乾いた音を響かせた。

 完全に一人きりなことを確認した少年はそっとドアを閉め、彼を待つその景色へと舞い戻る。


 

 道具をそろえ、


 手を伸ばす。



 自分以外の誰かのために。




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