戦場生まれの最強糸使いが学園にやって来た

@flanked1911

第1話

 

「止まりな、クソガキ!

 何の用だ、俺達"赤の鷹"のアジトによぉ!?」


「子供だからだと思って許されると思うな、ぶっ殺してやる!」


「……こんにちは」


「は?」


「こんにちは、挨拶ぐらい返せよ、一匹狼共テロリスト


 ◇


「く、くそ、何が一体どうなってやがる……!?」


「アルフレッド、アルフレッド……!

 駄目だ、応答がないぜ!」


「役立たずが!」


 月が綺麗な真夜中、閑静な森林。

 蛇やら虫やらが這いずり回る林の中に、物々しい重武装の男たちが居た。

 彼らは革命戦線を名乗る武装集団……所謂テロリストだ。

 そんな彼らのアジトに襲撃があったのは、憎むべき大国への、テロ攻撃を行う前日だった。

 彼らも不用心だったわけではなく、きちんと見張りをはらせていたし、守りも堅かった。


 だが、予想外だった。

 侵入者がたった一人で来たこと。

 そして、それがべらぼうに強かったこと。

 尚且つ、それがまだ幼さの残る、何処か人懐っこそうな茶髪の少年だったことも。

 全てが予想外だった。


「あの化け物め! あいつは一体何なんだ!?

 クソ、どうせ、ああなってしまってはアジトも滅茶苦茶だ!

 早く、早くしろ! ナル、火を放て!」


「あ、ああ! 炎よ――!」


 一人の男が意を決して、火属性魔法で周囲を燃やそうとした時、それが彼の最後の瞬間だった。

 何かによって、首から上を切断されたのだ。


「あ、ああ……誰なんだ、お前は誰なんだ!?」


「ん?……ああ、俺に言ってるのか?

 此処には俺とあんたしかいないからな」


「クソ、俺達は家族だったんだぞ!

 クソ野郎が――死ねっ!」


 男の手によって投げられたナイフは、急に挙動を変えた。

 これが彼のスキルだ、この投擲技術によって数多の敵を倒してきた。

 ――だが、それは少年の手から出た"何か"によって叩き落される。


「糸……!?」


「正解、これは糸だ、少し硬めのな。

 熱意や勢いはよかったが……、戦場では、力が伴わなければな。

 じゃあ、さようならだ」


「まさか、お前ピアノ線の死神!?

 まだだ、帝国に死を――!」


 抗う男はあらゆる攻撃魔法、それに魔法を必要としないライフルを、持ちうる全ての力を乱射する。

 だが、それは無慈悲にも少年の指から延びた糸によって寸断された。


「あ、ああ……か、金ならいくらでも――!」


 そして、彼の身体も切断された。


「さようなら、だ。

 36キルか。

 ふっ……こいつは上出来だ」


 

 少年の名前はハインド。

 フランカー帝国、神聖帝国軍、第0小隊、特殊作戦群。

 通称、虐殺魔テロリスト虐殺部隊キラー

 15歳から18歳程度の外見、実年齢は彼自身すら知らない。

 戦場で育ち、戦争で生きて来た……所謂少年兵である。


 すなわち、彼は戦場以外のことを知らない。


 ◇


「ハインド・ハボック少尉、ただいま任務を完遂いたしました」


「ふむ、楽にしろ。

 どうだった、テロリスト共を血祭りにあげるのは?」


 岩々の中に隠された、彼らの前線基地。

 今、ハインドの目の前にいる女、リンネ――長い金髪を束ね、豊満な身体つき、大人の魅力を持つ女性といった容姿だ。彼の直属の上司であり、戦時孤児の彼を拾ってきた女。

 そんな母親代わりとも言える彼女を目の前にして、少年は満足げな笑みを浮かべながら、自らの手から伸びる線を弄ぶ。

 ピアノ線の死神……そう幾多の敵兵から恐れられた彼のスキル、それは彼の武器でもあり、誇りでもあった。


「簡単だったよ。

 弱い者いじめが好きな連中は、引き際とか逃げ方を知らないからな」


「ふふ、傲慢だな。それでいいんだ。

 力を持っているのなら、その人間は傲慢になる権利がある。

 一兵士として、これからも任務を遂行せよ」


「帝国の為に。

 ……これは?」


 いつものように祖国に忠誠を誓おうとした時、彼の手元に一枚の書類がおかれた。


「とはいえ、お前は戦場に居すぎた。

 あまり長くいられても、敵がお前に恨みを持つかもしれない。

 少し、身を隠す必要がある、誰も予想できないところにな。

 ……何よりお前の価値観は一般人とかけ離れている。

 という訳で……」


「という訳で?」


「明日から教師になってもらおうと思う」


「……は?」

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