学園
ゲームの舞台は学園。
貴族が多く通う王家が運営する学び舎で、王都の中に位置している。
ここで主人公がヒロイン達と出会い、物語はスタートしていく。
そんな場所へ足を運ばされたユリス達。
トールとのいざこざがあったため、現在は昼休憩が始まった頃合いであった。
「さて、ここからの話なのだが……」
馬車を降り、預け終わったあと、警備の人間が立つ校門前でセリアは口を開く。
「二手に別れようと思う。何せ、ゾロゾロと学園に入って王女様の傍にいるわけにはいかないからね」
もちろん、フィアの命が最優先だ。
しかし、それで生活を縛ってしまうなら本末転倒。それなら、いっそのこと部屋に閉じ込めて事が解決するまで待てばいい。
しかし、そうしなかったのは普段の生活を妨げたくなかったのだろう。
それは王女として学園に通うことの意味が、ユリスの思っている以上のものなのか、はたまた別のところに意味があるのか。
いずれにせよ、やれと言われたらやらなければならないのが労働者。
ユリスは全力で───
「じゃあ、俺はフィア様と別行動でお願いしますッッッ!!!」
「ご主人様、凄くストレートに言いましたね」
「本人の目の前でその勢いは流石に失礼だと思うわよ?」
───全力で別行動を所望した。
「あら、であれば私はユリス様をご所望します」
「何故!?」
「適任と私利です♪」
そして、ユリスは膝をついた。
美少女からの笑みを向けられた「一緒にいたい」発言を受けてさめざめと泣く男は、恐らくこの世でユリスだけだろう。
「まぁ、私利の部分は分からないけれど……実際問題、この中で適任なのはリーゼロッテちゃんか、ユリスくんだけだろうね」
「あれ、私は違うんです?」
「ここは貴族が通う学園だよ? 特別枠に平民が何人かいるとはいえ、平民の君がいるとどうしても違和感がある。所作とか言葉遣いとか、どうしても差が出るしね」
「……その理論で言ったら、俺も貴族らしくない自信がふつふつと大和な魂の中にあるので───」
「ユリスくんは正真正銘の貴族だろう?」
大和魂だけではどうにも回避できない案件らしい。
「ボクは君達よりも二つ上の歳だから、適任ではないかな? ほら、年齢詐欺をするには滲み出るお姉さんオーラが邪魔だと思うんだ♪」
そう言って、セリアは可愛らしく自信満々そうに胸を張る。
確かに、お姉さんのような立派なものをお持ちだと、ユリスは鼻の下を伸ばしながら思った。
「……ご主人様?」
「はいすみません、何も見てないです」
大人の魅力にあてられたユリスはすぐさま視線を逸らす。
横からの冷たすぎるメイドの視線がなんとも痛かった。
「っていうわけだ、今回はとりあえずユリスくんが王女様と一緒ということで」
「えっ!? 大将、クジの中身にまだリーゼロッテという選択肢が残っているように見えるのですが!?」
「王女様の私利を忘れてないかい?」
「私利なら忘れてもいいのでは!?」
私利よりも命が大事だということを、声を大にして叫びたい。
「他の三人は何かあっても対応できるよう学園の敷地内で待機。何か異論は?」
「「異議あり!!」」
「却下」
「「そんな!!??」」
王女と一緒に学園に足を踏み入れたくないユリス。
大好きなユリスと一緒にいたいアイリス。
そして、そんな二人の心の内を見透かしているセリア。
三人のやり取りを見て、大人しくしていたリーゼロッテは頬を引き攣らせた。
「ふふっ、ではよろしくお願いしますね……ユリス様」
上品な笑みを浮かべ、フィアはがっくりと肩を落とすユリスの袖を掴む。
「……すみません、わたくしめ学生服というのを持ち合わせていなくて」
「馬車の中にありますよ?」
「用意周到っぷりにどうしてか涙が出そうです」
「ちなみに、用意したのはあなたのメイドさんです」
「……アイリス?」
「だ、だってこうなるとは思わなかったというか、ご主人様の準備関連に何か言われたら何もせずにはいられないのがメイド魂というものでして……でしてっ!」
なに余計なことてんだ、なんて言葉を言いそうになったが、グッと堪える。
アイリスの焦りっぷりを見て、わざとではないと理解したからだろう。
ユリスは大きなため息をついて、馬車へと乗り込む。そして、少しの時間が経つと目新しい学生服姿で現れた。
「とてもよくお似合いですよ、ユリス様」
「どんな道を選んでも学生服に袖を通すのは確定なんですね……」
「私としては、学生であってくれた方が色々と動きやすくてよかったのですが」
「はい?」
「とはいえ、今の状況もこれはこれでやりやすいシチュエーションなので文句はなしにします」
はて、何を言っているの? ユリスは首を傾げる。
しかし、答えることなく先を歩くフィアを追いかけていく。
「ささっ、早速入りましょう。重役出勤とはいえ、少しぐらいは体裁を気にしなければ♪」
「これ、本気で命を狙われている状況なんだよな……?」
足を踏み入れることなんてないと思っていた
そこへ、涙を流すユリスはヒロインと共にしっかりと入っていくのであった。
そして、ユリス達の背中が見えなくなった頃———
「さて、ボク達もボク達でそろそろ仕事をするとしようじゃないか」
「ぐすん……ご主人様と離れ離れ。こうなったら八つ当たりしてやるです」
「……ということは、やっぱり?」
リーゼロッテの視線に、セリアは口元を吊り上げる。
「こんな状況に立ち会うと、人気者も考えものだと思わされるね。とりあえず、一人に対して二人ぐらいでさっきから隠れている来客のお出迎えをすれば充分かな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます