本文
第一夜
! 蝶番が軋む音2回
! ロックを掛ける音
! 忍んだ足音と床が僅かに軋む音
! 開き戸を開ける音
! 電灯のスイッチを押す音および蛍光灯の発火音
「おかえりなさい、ずいぶんと遅いお帰りで」
! 鞄を取り落とす音
「起きていたのかって、妙なことをお聞きになること。私が眠っていたと思っていたようじゃありませんの」
「灯りも付けずに待っていたのかと?一人ではすることもありませんからね。待つだけならば灯りも要らぬというものです」
「暖房もつけずに座ったままで、ね。心頭滅却すれば火も涼し。ならば氷も温しと思うような心持ちとはどのようなものでしょう」
「あらあら、そんな引きつった半笑いで黙ってしまって。回りくどく言わずに、問えばよろしいじゃありませんの。『何故』と。理由はよくご存知でしょうけれどね」
「どうしたの、遠慮なさって。言いなさいよ。言え」
^ 勢いよく立ち上がるヒロイン
「
「
「
「
^ ヒロインの深呼吸
「何もすぐに知らせろと、解らないことを言ってはいないじゃない。ただ私に知らせようと、少しだけ心を配って頂戴と、それすらできないのかしら」
「ああそうね、なんとも忘れやすい頭をお持ちのようで」
「この問答も何度目か、ですって?そんなことばかりは覚えているのね」
「
「あなたときたら、言葉を軽んじて。言はまた事でもある。事は私達が見ずしても全てそこにあり、己が心(シン)を持ってそれを真(シン)と見定めてその欠片を見るにとどまるもの。そうして真と見たものは人の真実を作り、それ以外の何も真実を変えうるには値しない。だからこそ事を見定めることは重要な意味を持ち、その欠片たる端(ハ)をせめて伝えんとするのが言葉なのよ」
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「そして端(ハ)とは文字に直せば転じて樹木の葉(ハ)でもある。葉とは樹木に付いて多くあり、そして同じ形をしていようとも別個のもの。互いの有無に左右はされねども、全てが幹を太らせ枝を張らせるために付くもの。すなわち、使われた言葉は徐々にその言葉が表す事物を豊かにし、豊かになった事物は私達を肥ゆらせる。富貴を悪徳とするのは貧じて恨みの言葉しか吐けぬものが妬みの心から吐く呪いに過ぎない、本当の悪徳は富貴を分かち合おうとせず物惜しみする心であり、その心を戒めることが寛容なの」
「
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「って、ウトウトしてるんじゃないわよ」
「説法は勘弁してくれですってぇ?
「話が長いのは、あなたが何度言っても聞かないからでしょうに。私だって仏説をこんな形で引きたくなかったわよ!」
! 腹がなる音
「腹の、虫
^ ヒロインのためいき
「もう、良いわよ。気が抜けるったら」
^ ヒロインが奥の台所へと行く
「夜も遅いんだから、軽いものね」
! 冷蔵庫を開ける音
「たくわんは有って、あとは、そう。こんなもの」
「手伝おうかって、良いからササッとシャワーでも浴びてきたら?しょうがないし、ぶぶ漬けでも作っておいてあげるわよ」
! 冷蔵庫を閉める音
% 時間経過
! 引き戸を開けて閉める音
「あら、出たの。ほら、早く食べちゃって。って、何見てるのよ。二人前あったらおかしい?別に良いでしょ、作ってたら私もお腹すいちゃったのよ」
「卵焼きまで作ってなんて、そんな事言うぐらいなら嫌なら食べなくて良いんだからね。え?夕飯?そりゃとっくに食べたわよ?」
「
「あー、あー!そうやって食事に逃げて!もう!」
^ こっそりと笑うヒロイン
「本当にしょうがないんだから」
! 茶漬けをすする音2つ
^ ヒロインの吐息
「ごちそうさまでした。ん、はい。お粗末様」
「ほらほら、明日は休みとはいえ、遅いんだから。さっさと口を清めて寝ちゃいなさい。片付け?私のやったことなんだし、最後まで私がやるわよ」
「ありがとうって、そう思うなら今度から連絡を忘れず入れてよね。その、
% ヒロインの音源が遠ざかりつつ
「あ、いやこれは、って
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