本文

第一夜

! 蝶番が軋む音2回


! ロックを掛ける音


! 忍んだ足音と床が僅かに軋む音


! 開き戸を開ける音


! 電灯のスイッチを押す音および蛍光灯の発火音


「おかえりなさい、ずいぶんと遅いお帰りで」


! 鞄を取り落とす音


「起きていたのかって、妙なことをお聞きになること。私が眠っていたと思っていたようじゃありませんの」


「灯りも付けずに待っていたのかと?一人ではすることもありませんからね。待つだけならば灯りも要らぬというものです」


「暖房もつけずに座ったままで、ね。心頭滅却すれば火も涼し。ならば氷も温しと思うような心持ちとはどのようなものでしょう」


「あらあら、そんな引きつった半笑いで黙ってしまって。回りくどく言わずに、問えばよろしいじゃありませんの。『何故』と。理由はよくご存知でしょうけれどね」


「どうしたの、遠慮なさって。言いなさいよ。言え」


^ 勢いよく立ち上がるヒロイン


bったわね、何故と恥知らずにも!言わせたんだろうって、あなたの顔に書いてあったわよ!」


f絡もなく日付は変わって、こちらから電話をかけても留守電が返すばかり。ええ、よっぽどほうぼうに連絡をつけようかと思いましたとも。ひと月も前ならね」


fのひと月で何度目かしら、 3度、それとも4度?心配の情も枯れると思わないかしら、え?」


fなたの言う忙しいとの弁明を信じない私でもなし、遅れるなら遅れるとどうして言ってくれないのよ」


^ ヒロインの深呼吸


「何もすぐに知らせろと、解らないことを言ってはいないじゃない。ただ私に知らせようと、少しだけ心を配って頂戴と、それすらできないのかしら」


「ああそうね、なんとも忘れやすい頭をお持ちのようで」


「この問答も何度目か、ですって?そんなことばかりは覚えているのね」


bるなと言われて、これが怒らずにおらいでか!そこへ直れ!」


「あなたときたら、言葉を軽んじて。言はまた事でもある。事は私達が見ずしても全てそこにあり、己が心(シン)を持ってそれを真(シン)と見定めてその欠片を見るにとどまるもの。そうして真と見たものは人の真実を作り、それ以外の何も真実を変えうるには値しない。だからこそ事を見定めることは重要な意味を持ち、その欠片たる端(ハ)をせめて伝えんとするのが言葉なのよ」


(((fw


「そして端(ハ)とは文字に直せば転じて樹木の葉(ハ)でもある。葉とは樹木に付いて多くあり、そして同じ形をしていようとも別個のもの。互いの有無に左右はされねども、全てが幹を太らせ枝を張らせるために付くもの。すなわち、使われた言葉は徐々にその言葉が表す事物を豊かにし、豊かになった事物は私達を肥ゆらせる。富貴を悪徳とするのは貧じて恨みの言葉しか吐けぬものが妬みの心から吐く呪いに過ぎない、本当の悪徳は富貴を分かち合おうとせず物惜しみする心であり、その心を戒めることが寛容なの」


fwれさえ忘れなければ、たとえその心から成されたことが結実せず不本意な結果に終わっても、その発心こそが重要であり、あなたの心を正しく整えるのよ。けれどあなたはそれをせず、私の心をいたずらに乱し、傷つけ、それが巡って今のようにあなたに災禍として降りかかる。私の心をおもんばかって、人格を軽んじずにいれば避けられたはずの災いよ?さらにはそれをあなたに与えている私は激怒し、恨みの言葉を吐いて、そのたびに私の言葉そのものを貶める。言葉に羽(ハ)と付いて羽のごとく飛び交うのも、まずは発せられなければ届かず、届かなければ伝わらず、伝わらなければ知りようもない。知らぬは恐れに繋がり、恐れは敵意に繋がり、敵意は悪意に繋がる。悪心を抱かせるのはその人を辱めることと」


)))


「って、ウトウトしてるんじゃないわよ」


「説法は勘弁してくれですってぇ? bれは説教というの!」


「話が長いのは、あなたが何度言っても聞かないからでしょうに。私だって仏説をこんな形で引きたくなかったわよ!」


! 腹がなる音


「腹の、虫 2t… ?」


^ ヒロインのためいき


「もう、良いわよ。気が抜けるったら」


^ ヒロインが奥の台所へと行く


「夜も遅いんだから、軽いものね」


! 冷蔵庫を開ける音


「たくわんは有って、あとは、そう。こんなもの」


「手伝おうかって、良いからササッとシャワーでも浴びてきたら?しょうがないし、ぶぶ漬けでも作っておいてあげるわよ」


! 冷蔵庫を閉める音


% 時間経過


! 引き戸を開けて閉める音


「あら、出たの。ほら、早く食べちゃって。って、何見てるのよ。二人前あったらおかしい?別に良いでしょ、作ってたら私もお腹すいちゃったのよ」


「卵焼きまで作ってなんて、そんな事言うぐらいなら嫌なら食べなくて良いんだからね。え?夕飯?そりゃとっくに食べたわよ?」


uる、dて。さてはあなた私の話を何も聞いてなかったわね!」


「あー、あー!そうやって食事に逃げて!もう!」


^ こっそりと笑うヒロイン


「本当にしょうがないんだから」


! 茶漬けをすする音2つ


^ ヒロインの吐息


「ごちそうさまでした。ん、はい。お粗末様」


「ほらほら、明日は休みとはいえ、遅いんだから。さっさと口を清めて寝ちゃいなさい。片付け?私のやったことなんだし、最後まで私がやるわよ」


「ありがとうって、そう思うなら今度から連絡を忘れず入れてよね。その、 wwも寂しいんだし」


% ヒロインの音源が遠ざかりつつ


「あ、いやこれは、って fuうな行くな肩を竦めるな! sってきなさい!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る