第55話 気付き

「あっ、もしかして!」


 あたっちは、ダンジュウロウさんに会いに行ったことを思い出した。


「あの、ダンジュウロウさんはいますか?」


 ダンジュウロウさんの話を聞きに、芝居小屋まで行った時、長谷山という男が軒先を掃除していたので、聞くクニヤス。


「あぁ、いるにゃいるが。なんの用で?」


 いぶかしげに見る長谷山。


「面白い話が聞けそ───」


 と、クニヤスが口をすべらせるので、すかさずあたっちが、


「いえ、ちょっと世間話をちょっと」


 などと、誤魔化そうとしたが、


「こちとら、落語家じゃあねぇもんで。えんな」


 まだ、触れてはいけない状態らしい。


「そこを、なんとか」


 くい下がる二人に、


「シッシッ!」


 ホウキで、砂をかける長谷山。


「イヤァァ」


 のら犬じゃないんだから!


「どうしたんだ?」


 奥から、男が騒ぎを聞いて出てくる。


「旦那さま。寝てなくて大丈夫ですか?」


 と、長谷山が言うと、


「ああ。お客さまかい?」


 男が、あたっちの顔を見る。


「あぁ、今、帰るとこ───」


 長谷山が、そう言いかけるので、


「ダンジュウロウさんに、会いたいんです」


 クニヤスが、そう言うと、


「おい!」


 止める長谷山。


「私が、ダンジュウロウですが」


 ダンジュウロウさんが、名乗る。


「えっ!? 舞台とは、全然違いますね」


 クニヤスは、ダンジュウロウさんの舞台を見たことがあるので、ビックリする。


「ハッハッハ、幼いのに、よく見に来てくれたね」


 クニヤスの頭を、ポンポンするダンジュウロウさん。


「いつも、応援しています!」


 ちょっと、うれしそうなクニヤス。


「あーそう? 興味あるなら、うちに入るか?」


 誘うダンジュウロウさん。


「あっ、ちょっと考えさせてください」


 てれ笑いするクニヤス。


「おっ、そーか」


「ねぇ、クニヤス。あの話」


 なかなか進まないので、つっこむあたっち。


「あっ、そうだ。ダンジュウロウさん」


「なんだね?」


「空を、飛んだらしいですね?」


 クニヤスが、そう言うと顔色を変えるダンジュウロウさん。


「えっ、誰からその話を?」


「ちょいとウワサで。詳しく聞かせてください」


 クニヤスが、必死に聞くと、


「聞きたいなら、奥に入んな」


 と、招き入れるダンジュウロウさん。


「イイですか、やった」


「茶でも飲むかい。おーい」


「あっ、いただきます」


 お茶を飲み、一息つくと、


「あれは、も開けきらぬ刻に、尿意をもよおしてかわやに行った後、舞台で物音がするゆえ、盗人かと思い様子を見に行ったのよ」


 話し始めるダンジュウロウさん。


「はい、それで?」


「そうしたら、桃色の見慣れぬ服を着たおなごがいて、見ていたら、次には空へと浮かんでおったのだ」


 腕組みするダンジュウロウさん。


「スゴいですね」


「ああ、まことにスゴい。そのまま、海辺まで連れて行かれたが、人違いで帰されたのよ」


 簡単に、説明するダンジュウロウさん。


「へぇ~」


「おまえさん、またその話ですか?」


 奥さんが、様子を見に来る。


「あぁ、すまぬ」


 うなだれるダンジュウロウさん。


「もう幕が開きますゆえ、お客さまには」


「そうだな。悪いがここまでじゃわ。また、遊びに来い」


 そう、ダンジュウロウさんが言うので、


「はい、ありがとうござります」


 腰を上げて、部屋を出る。


「あっ、そうそう」


 呼び止めるダンジュウロウさん。


「えっ?」


「そのおなご。グミちゃんにもし会ったら伝えて欲しい」


 一瞬、真剣な顔つきになるダンジュウロウさん。


「なにをです?」


 クニヤスが聞くと、


「私が、会いたがっていたから、また来いと」

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