第53話 効能

「しっかし! グミちゃんさんの出した怪物は、どれもが強ぉござりまするな」


 ヤギュウと、グミちゃんの前にいた女性が、大きなコブラに変わる。

 そいつが、人間を喰っていた。


「まぁ、それなりのを出したつもりよ」


 苦笑いするグミちゃん。


「シャーーー」


 威嚇するように鎌首を上げて、大きく口を開けるコブラ。


「ひぃ。それにしても、どデカい口にございますな」


 刀を、構えるヤギュウ。


「まったく。さっさと滅するぞ!」


 出した時より急成長しているコブラに、辟易とするグミちゃん。


「お願いいたします」


 手に負えないので、グミちゃんにおまかせするヤギュウ。


「はぁぁぁあ」


 目の前に、縦に魔法陣を出すグミちゃん。

 氷の矢を出すが、


「シャーーッ」


 よけて、逃げていくコブラ。


「クッ。すばやいヤツめ」


 ヤギュウが、ため息まじりで言う。


「待てぇーッ」


 杖に乗って、追いかけるグミちゃんだが、


「ちょっと、待ってくれ」


 視界に、配下の者をとらえるヤギュウ。


「えっ!? なに?」


 ギュッと、止まって転げ落ちるグミちゃん。


「ハァハァ、ヤギュウさま」


 配下の者が、息も絶え絶えで声をかける。


「どうした?」


「新たに、妖怪を百とんで八匹を江戸に放ちましてございます」


 そう、報告する。


「おお、そんなにか!」


 ビックリするヤギュウ。


「はいッ」


「ご苦労であったな」


「はッ」


「あの、ヤギュウさん」


 たんこぶを、なでなからグミちゃんが言う。


「どうした、グミちゃんさん?」


「ワタシが出した怪物………全部、回収してイイかな」


 勢いにまかせて、色々出しすぎたのを反省するグミちゃん。


「うむ。それは、かまわんが」


 このままでは、どんどん人が減ってしまう。


「ありがとう。見つけ次第、片っ端から退治しちゃうわね」


 親指を立てるグミちゃん。


「おぉ、そうしてくれ」


 力なく笑うヤギュウ。


「うん」


その頃


「グォエップ………なにをした!?」


 キザミが、口から大きな血溜まりを吐き出す。


「このトゲには、ちょいとした効果・・があってね」


 養老怪姫が、ほほ笑みを見せる。


「ゥゥウウ………なんだ」


 せいいっぱい声をふりしぼるキザミ。


「ちょいとばかし、傷口のなおりが遅くなる毒が出るのよ」


 三味線の胴から出たトゲを指差してツンツンする養老怪姫。


「な゛ッ」


 顔色が、青ざめるキザミ。


「その毒が注入されたところは、しばらく傷口が開いたままになる。つまり、どういう意味か、わかるかぇ?」


 首を、くねらせる養老怪姫。


「ん゛グッ………なんだ、どういう意味だ!?」


 吐き出しそうなのを、飲み込むキザミ。


「つまり、その毒が入った部位は、通常攻撃にもモロいってことだよ」


 キザミのお腹を、指差す養老怪姫。


「なにッ、なんだと!?」


 やっと、自身の身に起きたことを理解するキザミ。


「さあ、わたくしが、トドメを刺してやろう」


 三味線を、構える養老怪姫。


「クッ!!」


 森の中を疾走して逃げるキザミ。


「あ~ぁ。逃げても無駄なのに」


 地面に落ちた血が、ずっと続いている。


「逃がしゃしないよーん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る