誰よりも美しい人

@yuuna090323

第1話

「お母さ〜ん。最新モデルのパーツ買ってー」


と浮かれた口調でユナは言う。

「もう。最近買ったところでしょ〜。そんなに、頻繁に買ってられないわよ」

と、ユナの母香織はスマホを片手に少し呆れた口調で言う。

「だって、皆んなやってるんだよ!」と熱を燃やすユナに「テストで良い点とったらねー」とさも、昔のような物言いをする。

(成績重視とかいつの時代だよ。)

と、心の中でボヤきながら自室に戻った。

(あーあー。ロールモデルのカンナちゃん可愛いなあ。私もパーツさえあれば近づけるのになあ。)と、AIじみた、ロボットのような、見た目のスレンダーな女の子の写真のポスターを見上げる。


現在は、20XX年。


技術の競争で、急速に発達したこの社会では、“完璧”とされるAIこそが美学だ。もとの、自然の人間とはかけ離れたその容姿になるべく、整形が流行している。


AIに近づけば近づくほど新人類、進化した新たな最先端な生物とされ、逆にありのままの人間は、非文明人として疎まれ、蔑まれてきた。ユナも、例外ではなく、その思想に染まっていた。この社会は、ルッキズムとハイテクノロジーが混在した、そんな社会なのだ。


この社会では外見こそが至上、その他の内面はあまりみられない傾向にある。これらの思想は若者世代から絶大的な支持を得ているが、高齢な世代からは批判的な意見も多い。

現に、ユナの父であった者もそうであった。


自室のベットの中、スマートフォンでカンナを羨ましげに観るユナは不貞腐れていた。パーツさえあれば、見た目さえAIに近づけたら、皆んなから愛されるのに。カンナちゃんのように。とボヤきながら眠りについた。


夜も半ば、空が白くなってきた頃、香織はリビングの広いテーブルで1人、頭を悩ませていた。

(最近、ユナがユナでなくなってきている。これは、親として教育するべきか。)

(だが、娘のやりたいことを応援してあげたい。)

(でも、。このままでは、不健康なのでは。)

(整形していない子は虐められてしまうだろう。非文明人と言われても良いのか。)と、2つの相反する思考が頭をめぐる。

「こんな時に、将道さんがいてくれれば。」と、幼いユナと3人で撮った家族写真を眺める。今とそう変わらない香織の、横で幸せそうに微笑む男性を恋しく思った。


夜は明け、美しい朝日がユナの目を覚ました。私の通う美容学校は、ほぼ毎日と言っても良いようなほど活動が盛んだ。そんな学校生活に嫌気がさしながらも、純粋に楽しんでいる自分がいた。学校に行くまでの通学路では、ユナと同様、いやそれ以上にAI化している人々がいた。大きな瞳、すらっとした鼻このトレンドの象徴的な異様なまでに長い足まで、見渡せばどこを人工物化したのかわかるほどだった。人々は好奇の目で見られることなどは決してなく、代わりに羨望の目線を向けられることはあった。ユナだけでない。

世間全体がルッキズムの思想に染まっていた。様々な人とすれ違える、出会える通学路は長いようで短い者だった。駅の大通りを曲がり少し歩いて学校に着いた。


ユナの学校では、美容の事だけに専念をし学ぶ。そんなので将来的に大丈夫なのか。とは、誰1人思わない。


技術が進歩し、AIが自動的に新たな技術を生み出し、生産、販売等できるようになったこの時代には美容系こそが、メジャーな職業であった。人々は働かずとも生活ができるようになった社会において、刺激的なものといえば美容だったのだ。そんな、最先端をいく学校に通えていることに誇りを持っていた。


美容に触れる機会が多く、自分と同じ思想を持つ仲間が沢山いる。そんな、ユナの故郷はユナにとってとても住みやすいもので、他の土地での生活など考えることができなかった。ルッキズムの思想は受け入れられているものの、過疎化している土地、高齢化な土地では、表面上だけで、まったくと言っていいほど受け入れられていなかった。

母の転勤だ。一般的にはこのような社会状況的に転勤はおろか、出張すら無いに等しい。が、母には特別な事情があった。父との離婚だ。母と父は同じ会社で働いていた。


2人の会社は、アットホームで働きやすい環境ではあるが、その代わり従業員の数が少なく、噂が立ってしまうと忽ち、雰囲気が悪くなってしまう。そういうデメリットもある会社であった。2人の離婚はそう穏やかなものではなかった。娘の整形という問題について、対極であった2人の価値観は言い争いを加速させた。


もともと、社内一のおしどり夫婦でもあった2人であったが、今となってはいがみ合っている。そうした状況が社内の空気を濁すこととなった。罪悪感を抱いた香織は転職する旨を人事部に伝え、そのようになった。


後悔はしていない。

愛する娘を他者の邪悪な視線から守るためだ。社会的に守るためだ。

夫と離婚してからというものの、そう自分に言い聞かせてきた。


このようにして、ユナと香織は会社の転勤を理由に引っ越すこととなった。引越しの旨を聞いてから、ユナはしばらく不満でいっぱいであったが、引越しの原因は自分にあるとわかり、

不満どころか、母への罪悪感でいっぱいであった。その、感情を理解のない父への怒りへと変換することでなんとか、自分を保っていた。

ユナのルッキズムの問題はさらに一層深刻なものとなった。


目が回るほど忙しい準備を経て、あっという間に2人の引越し日、当日となった。


ユナは、友人たちと別れるのを不安に思っていたが、案外あっさりとしたものだった。

実際になってみると、そう惜しいものではないのだと少し落胆した。友人たちが、思いの外他人事のように見送ったからだ。友情もそんなものか。と引越し先へ向かう電車に乗った。


見慣れた、馴染みのある電車を乗り換えると、見たことのない古い旧型の電車が、2人を迎えた。その電車に揺られていくうちに、今の人生で実際に見たことのないような自然豊かな街が頭を表した。母と向かい合わせに座る電車では、罪悪感のあまり、母の顔は見れなかった。その代わり、車窓から見える景色に視線を落とした。


体の毒素をデトックスするような、澄んだ空気。緑にドレスアップした、山々。夕陽に照らされたその姿は息を呑むほど神々しいものだった。


都会の暮らしに若干の未練はあるものの、自然豊かなこの土地に魅了され、不安が期待に変わった瞬間だった。

4回の乗り換えを通じて、遂にこれから自分たちが生活する土地へと到着した。

期待を胸に電車から降りた。しかし、私が目にしたものは期待とは外れていた。壮大な自然、美しい山々豊かな植物。自然については期待通り、いや。想像を遥かに超える美しさであった。完璧な環境であった。私の最も嫌いな非文明人が沢山いることを除いては。


私は生まれてこのかた、大人の非文明人を見たことがなかった。

一方、非文明人こと村の人々も、ユナのことを好奇の目で見ていた。目を丸くして珍しいものを見たと感心するお婆ちゃん、サイボーグ人間がと、やっかむおじさん、と様々だった。

そんな、無言でユナたちをマジマジと観察するように見つめる村人を遮るように、村長は声を発した。

「ようこそ。東村へ。村をご案内します。」と声高らかな村長の様子を見て、ユナはハッとした。(そうだ。ここがこれからの私の故郷になるんだ。慣れなくちゃ、。)


村長に連れられ様々な場所を巡った。駅から離れると徐々に景色が壮大さを増し、いつもは冷静沈着の母もいる空いた口が閉まらなかった。

2人は旅行した気分でこれから住む家へと向かった。家の中は、前の家より幾分か広く、質素な作りだった。レトロさも感じられるお風呂に入りながらユナはこれまでのこととこれからのこと、自分の行動について考えに考えた。


ユナ自身、両親の離婚理由が自分にあることは理解している。

両親への罪悪感と、これからの環境への不安が一気に押し寄せた。が、自分を守るため、好きでいるためにはそうするしかなかったのだと言い聞かせ、不安を抱えたまま眠りについた。


登校当日。


引っ越してからあまり月日も経っていないころ、ユナは新たな学校に通うこととなった。新しい学校生活に期待と共に不安を抱えていた。新しいクラスのドアの前にたち、呼吸をしっかりと整えて、緊張と共にゆっくりとあけた。


ガヤガヤガヤガヤ。ドアを開け、自己紹介のために前に立つユナを新たなクラスメイトたちは不思議そうな目線で見つめていた。それはユナも同様だった。(あれ?同じ年齢の人達も非文明人なの、?)


駅に着いた時点からクラスメイトの容姿にについて多少予想していた。駅であったおばちゃん達と同じなのではないかと。だが、流行に敏感な高校生だ。そうは言っても、少しは弄っているだろう。文明人だろう。そう期待していた。

だが、実際は違った。

簡単な自己紹介を終え席についた。

ユナは内心クラスメイトのことを小馬鹿にしていた。


「ユナちゃんは何でこんなに可愛いの⁉︎」


見たことない容姿に距離をとるクラスメイトをよそに、マナは純粋に疑問そうにそう言った。

話しかけてもらえたことは単純に嬉しかった。でも、素直に喜んで返事をすることはできなかった。環境に溶け込もうと黙っていたが、ユナは整形していない人。非文明人を毛嫌いしていた。

(努力もしていないのになんでそう生活できるの、?)と心の中でずっと思っていたからだ。そんなマナに何でなの、と聞かれて嬉しいはずがなかった。何でもなにも。と心の中で毒づいてしまった。


自分でも子供だなとは思っている。新しい環境に困惑しているからだとしても、。

もっと優しく接しないと。理解はしている。

でも、私はクラスメイト、特にマナをそう簡単に好きになれなかった。


マナは、ユナの整形前の顔に酷似していた。瓜二つと言ってもよかった。

(どうせ、その顔じゃ友達なんか愚か仲良い人もいないだろう。)

そう鼻で笑った。

しかし、想像とは違いマナはクラスによく溶け込んでいた。クラスの中心にいると言っても過言でなかった。彼女の純粋さに魅了されたクラスメイトは絶対的な彼女の味方だった。


反対に、非文明人は文明人である私に憧れを抱くだろうと鷹を括り周りを下げずんでいたユナの周りに人は集まらなかった。


「ユナちゃんが元々住んでいた場所はどんなところだったの?」とクラスメイトが聞いてくれても、プライドと気恥ずかしさが障壁となひ、捻くれた返事しかできなかった。


そんな仲の良い平和なクラスメイト同時見ていると、だんだんとネガティブな感情が湧いてきた。


(あれ、見た目が悪いと、虐められるんじゃなかったの?なんで、皆んなこんなに仲良くしているの?なんで。こんなに環境が違ったの?私が受けたいじめは。耐えてきたの、痛い思いまで整形したのは無意味だったの、。)


グルグルと頭の中をぐちゃぐちゃな感情が回った。


私は、小学生の頃いじめにあっていた。


小学生だからか、整形していない人が多かったけれど、私はAIになるかならないか。以前に理想とかけ離れた容姿で産まれた。腫れぼったい目、顔の大半を占める大きな鼻、出っ歯などあげればキリがないほど、醜い容姿だった。見た目が重視される社会は小学生というコミュニティでも例外ではなかった。


むしろ、無整形だからこそ生まれつきの差があった。整形してしてしまえば、皆んな理想になれる。言ってしまえば皆んな平等だ。しかし。

成長途中の子供には整形ができない。いわば、小学校は容姿における格差社会だったのだ。

私は幼い頃、容姿に関するいじめを受けた。

毎日が逃げ場のない地獄のようだった。


周りの視線は鋭い針より痛く、手や顔から冷や汗が出た。グループになり問題を解く授業中、休み時間、給食の時間、。孤独に1日を過ごすのは、寂しがりやなユナにとって酷なものだった。


中学生に上がる頃、父の強い反対を押し切り整形を決意した。強い痛みを耐えてまで整形をする強い意志と覚悟があった。


ユナが、二重整形をした日のことだった。

ユナへの誹謗中傷は以前よりマシに思えた。

鼻フルをした日のことだった。

ユナへの誹謗中傷はなくなりつつあった。

歯をセラミック矯正にした日だった。

「どこのクリニック?」と数名の話したことのない女の子が話しかけて来てくれた。

糸リフト、エラの骨削りをした日だった。

蔑視は羨望の目へと変わった。

足の骨を伸ばした日だった。

ユナは一躍人気者へと急上昇した。

足の筋肉を減らした日、

腕の骨を付け足した日、

内臓脂肪を全て除去した日、

ユナの自己肯定感と、周囲からの憧憬の念は回数を増すごとに、AIに近づくごとにつれ変わっていった。そんな自分が誇らしかった。  


辛酸な思い出と共に、対極にある今の環境への不満が爆発した。痛みを耐えたのに、また人から好かれない。何故なの。アイツよりも沢山努力してきたのに。何もないアイツは何故そう好かれるの。と棘のある言葉が無限に頭に浮かんでくるようだった。


そんな不満と苛立ちを抱えたまま、日々は過ぎていった。季節は霧が立ち込める冬へ変わったが、クラスメイトもユナも何一つ変わらなかった。


来週は年に数回の校外学習の日。とは言っても村の外には出ず、山を登るといったもので、人生初の登山にユナは期待していた。


(登山って何が必要なんだろう。斜面は急なのかなあ。頂上から見る景色はどんなのなのだろう。)と1人で考えを膨らませているうちに、

クラスメイトが話す声が聞こえてきた。

「え〜また登山かよ。」

「仕方がないでしょ。山しかないんだから。」

「登山家にでもなるつもりかよ。」

と、聞き耳を立てているうちに段々と理解できた。毎年行われている行事なためマンネリ化しているらしい。


うかうかしているうちに、当日はやってきた。

1週間前から入念に準備をしていたリュックを背負い、登山用に買ったシューズを履き、ルンルンで家を出た。


早朝に歩く村並みは、より一層美しく見えた。

小鳥たちの囀り、澄んだ空気。

集合場所の栄山麓に行くまでの道のりでも満足することができた。登山への期待がさらに高まった。


「A班のメンバーは〇〇〜、〇〇〜、〇〇〜」当日知らされる班分けに皆んなは浮足立っていた。いつもは五月蝿い男子達も大人しく真剣に聞いていた。


「うぇえ!お前と一緒なの!?よっしゃ」と喜ぶ男子、「えー。〇〇くんと一緒が良かったあ」と嘆く女子と各々それぞれ気分が違った。

「ーー、D班〜D班〜。〇〇〜、マナ、〇〇~ユナ〜」最悪だ。想定していた中で最も嫌な事が起こった。よりによってあの芋女とかよ、。

そんなことを考えてしまった。

楽しみだった登山が絶望へと変わった。


「じゃあ、14:00に2号目集合な!」と無責任な言葉だけを残してそそくさと担任は山へ登っていった。聞くと、ロッククライミングが趣味らしい。


と、まあ、このような流れで校外学習が進んでいった。班のメンバーは流石登山に慣れたとは言ったものでゴツゴツとした急斜面を走るように登っていった。ユナは必死にメンバーについていったが体力の限界もあり、少し立ち止まったすえに、取り残されてしまった。


(あれ、。何処だここ?)


班のメンバーを探すうちに森の中へ迷い込んでしまった。

どこも、同じような風景で自分が来た道ですらわからない。方角も見当がつかない。

こんな事もあろうかと非常時の用に準備していた現在地が分かるナビを操作した。だが、一向に動かない。そうか、ここの地面は磁鉄鉱の溶岩でできていたんだった。以前、科学の授業で勉強したところなのに。うっかり、美容にうかつを抜かしていて忘れていた。


木の下に腰を落とし、物思いに耽った。

(どうせ、私を助けに来てくれる人はいないだろう。あれまで酷い態度をとったから。)

ユナも、自分がクラスメイトに取る態度が良くないものだと自覚していた。が、いろんな感情が入り混じり、治す事ができなかった。


雲が黒くなり、雨がポツポツと降り出してきた。強気でいたユナも流石に応えたようでネガティブな思考に陥った。

(そもそも、私の足は登山に向いていないのに。整形しなければ良かったのかな。?いや、あのままの地獄はゴリゴリだ。そとそも、この村がおかしいんだ。外見に囚われないなんて。時代遅れな。)と、自分を認め安心しようとした。でも、そんな自分が惨めに思えてきた。

なんで。こんな思い‥。


(そもそも。これもあれも自業自得だ。両親の離婚も、みんなから嫌われたのもどれも傲慢な私自身のせいだ。)と涙を流しながら浅い眠りについた。準備で張り切り過ぎてあまり寝てなかった上に初の登山に、トラブル。流石に疲れたのだろう。寝てはいけない。下山しなくてはと頭では強く思っていたが体がそれを許してくれなかった。


「あれ、ユナちゃんは?」

休憩所に着いた頃だった。流石の鈍感なマナでもユナがいないことに気づいた。

「どうせ、帰ったんだろ。アイツお高く止まってるしな。」と同じ班の男子メンバーが調子よく言い、他のメンバーもクスクスと笑っていた。

「流石に、それは酷いんじゃない?」いつもは感情的にならない。いや、なったところを見た事ないマナが大声を発してそう言った。


「いや、お前だってアイツに小馬鹿にされていただろ?俺はお前のことも考えて、」

「ユナちゃんも、大切なクラスメイトなんだよ!私1人でも探してくる!!」

「ぁあ!わかったよ!!そんな探しに行きたいなら探しにいけばいい!!また馬鹿にされても知らないがな!」と言い合いのようなことをしてマナは来た道を戻った。登り慣れた山でも、単独行動は怖かった。(でも、ユナちゃんはもっと怖いはず、。)そう思い、探すのをやめなかった


「‥ナちゃん、ユナちゃん!!起きて」

うっすらとボヤけた視界に天使が映ったのかと思った。来るはずのない人影に強い安堵感を覚えた。しかし、視界がクリアになるにつれ、目を覚ました。あれ。?私の視界に映ったのは私がさっきまで一番嫌いだったマナだ。

「何しに来たの。私のこと嫌いなんじゃなの?」と、来てくれて嬉しかったのに、本心とは真逆の言葉しか出なかった。


「嫌いなわけないでしょ!どれだけ心配したと思っているの⁉︎」と、目を赤くするマナを見てハッとした。私は心配をかけてしまったんだ。私を心配してくれるんだと。今までのマナへ取った行動への罪悪感と、安堵感。

マナに釣られてうっかり涙を落としそうになった。


「さあ、行くよ。」と手を差し伸べてくれたマナの後ろに希望の光が見えた気がした。


「いたた!?」


強く痛む足に目をやるといつもの5倍ほどに膨れていた。あぁ。そうか、私足も整形してたんだった。きっと、激しい山登りのせいで金属と筋肉、骨の間に強い炎症を起こしたのだろう。

彼女が手を差し伸べてくれてもどうせ変われない。


過去が、足枷となって前へ進めない。


そう思うとまた目頭が熱くなってきた。

下を向く私を見て、マナは、

「ねえ!背負っていってあげる!」と自信満々に答えた。私は彼女に縋る他なかった。 

彼女は前を向いて歩くのをやめなかった。

人工物の私は重たいだろうに。

あんな酷いことをしていた私を背負うのは抵抗があるだろうに。罪悪感でいっぱいだった。

いろいろ彼女に謝ろうと思った。ずっと話したかったこと。本当は初めに話しかけてくれた時から嬉しかったこと。整理してから話そうと思った。

「ー、あの」声にもなってないような震えた声と同時に彼女が元気に声を上げた。


「私は、ずっと、ユナちゃんに謝りたかったんだ。」

「へ?何で⁉︎」虚をつかれた。

「ユナちゃんを初めて見た時からずっと可愛いなって素直に思っていたの。それでどうしたらそう可愛くなれるんだろう。純粋に疑問だったの。でも、私が無神経だった。ネットの特集で整形について知ったんだ。ユナちゃんは尋常でない痛みに耐えて、他にもいろいろしんどいことを乗り越えていって、可愛くなったのに。さも、簡単みたいに言っちゃった。努力を知らず憶測で判断してごめんね、。」さらに驚いた。


この村では整形に関する情報は薄いだろうに、よほど調べて、考えてくれたんだろうな。とひしひしと伝わった。


同時に目から汗をかいてしまった。

今まで、私のしてきた整形を努力として認めてくれた人はいなかったからだ。

この人になら、全て打ち明けられる。

今、謝って素直にならなくては絶対に後悔する。

「マナちゃん、こちらこそ。いや、こっちがごめんね、私は、、ー」


全てを打ち明けられた後はかつて無いほどの晴れやかな気分だった。今まで拘束してきた何かから解放されたような気分だった。


それからと言うものの、私の生活は一変した。今までと全く違う考え方、視点で生活すること

でさらに幸福感が増した。


マナが背中を押してくれ、クラスメイトにも謝罪ができた。

過去は消えないが、クラスメイトは私を受け入れてくれつつあった。

母にも離婚のことについて謝罪することができた。これも、あれも、彼女のおかげだ。

前までは、謝罪することが、負けたような気がして嫌いだったが、謝罪することによって人との関係を修復できることを知った。

私の生活は徐々にいろあざやかなものとなっていった。


首都圏のある地区、居酒屋


将道は幼い頃から鏡に映る自分の姿が嫌いだった。腫れぼったい目、顔の大半を占める大きな鼻、出っ歯。周囲からは不細工だと嘲笑われ、自分でさえも自分が好きにはなれなかった。

そんな自分を変えたい。自分を好きになってあげたい。そんな一心で整形に興味を持った。

しかし、雅史は硬派な両親のもと幼い頃から厳しく育てられてきた。「整形をするのは一番の親不孝者だ。」耳にタコができるほど聞いてきた。この言葉に縛られたまま将道は整形を断念せざるえなかった。


子供が産まれたら、自分の好きに整形をさせてあげよう。どんな容姿であっても愛そう。そう心に刻んでいたが、当時の彼がそれを許さなかった。


昔の思い出に浸りながら将道は焼酎を片手に1人酒をしていた。後悔とかつての家族写真を手に抱えながら。


ユナが充実した生活を送っていたある日、

突然香織から話があると告げられた。

「ユナちゃん驚かずに聞いてね。私、再婚するのー。」


結局、父と母は再婚することとなった。


定期的に2人は会っていたのだ。

もともと、おしどり夫婦だった2人だ。二人の仲が元通りに戻るのに時間はそう必要でなかった。


善は急げと引越し準備を、着々と進めていく父を横目に、しどろもどろ、ずっと言いたかった。言えなかったことを話そうと思った。

「あのね、。お父さん。。謝りたい事があるんだー。」 


引っ越し当日、出身地の前の故郷に移動するために、電車に乗るところだった。

マナたちクラスメイトが揃いも揃って見送ってくれた。もう、接点も無いのに、明るく時には涙を流し見送ってくれた友達につられて、電車が出発したころユナも涙を落としてしまった。

そんなユナを微笑ましそうに

「良かったわね。また近いうちに来ましょ」

と香織が背中をさすってくれた。



日差しが痛いほど暑い夏の日、2人は仲良く庭で草むしりをしていた。

「お茶淹れたから、休憩にしましょー!」

と遠くの部屋から大きな声で叫ぶ母の声に回想を中断させられた。

ビルに囲まれた土地に佇む自然豊かな家。

3人の新しい家だ。お茶を飲みながらしみじみ昔の出来事を思い出すユナを愛おしそうに微笑みながら父が口を開く。

「何か考え事でも、しているのか。」

「私も、明日から大学生じゃん。今までいろんな事があったなあって。」

「そうだな。だが、本当に良かったのか元通りに戻してしまって。」

と心配気に見慣れた娘の顔を覗く。

「うん、。私は外見に執着してた。いや、他の人の目線が怖かった。でもね、。一番大切なことは、自分自身で愛せることだと思うの。だから、私は何にも囚われずに自分を貫くよ。」

と飄々と応えるユナを誇らし気に、

「逞しくなったわね。娘がそう育ってくれて嬉しいわ。」と香織。それから3人は昔話に花を咲かせた。楽しいことも、辛いことも、共に乗り越えてきた3人にとってはどれをとっても大切な経験だ。


私は、整形前の顔に戻した。

元の顔に戻すのは、AI化するよりも遥かに大変なものだった。

服を繊維に戻すように。途方もないものだった。しかし、私は諦めなかった。過去の自分に別れを告げるために。新しい自分を手に入れるために。


私は努力をしたい。

理想の彼女に近づくために。いや、いつか、彼女の横に立っても、恥ずかしくない。堂々としていられる。そんな、美しい心に。

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