俺のことを昔から病的に愛してくれる美少女七姉妹幼馴染達が七つの大罪を背負いし悪魔で人生が破滅しそうなんですが!?

熊尾黒雛

第1話 蓮獄家の七姉妹①

 いきなり身の上話から始まる小説ほど退屈なものはない。

 どこにでもいる一般的かつ模範的で健康優良な男子高校生の僕がするなら尚更だ。


 だからまずは自慢話からさせてほしい。


 ──それも退屈? うざったい? 

 わかってる。そりゃあそうだよね。

 他人の身の上話よりも他人の自慢話を聞かされる方が正味たまったものではない。

 チラシの裏にでも書いておけ。

 そう吐き捨てられることだろう。

 でも、だからここでつらつら自慢話をさせてもらおうと思い立ったわけなのだ。


 この僕、加藤理玖かとうりくとして、個人的に特筆して語るべき点など皆無ではあるのだが、僕の実家の隣に住んでいる、美少女幼馴染のことは、鼻高々に自慢していきたいのだ。

 しかもその絶滅危惧種ともいえる“美少女”かつ“幼馴染”という存在が、僕にはなんともありがたいことに七人もいるのだから。


 このご時世に七人も子を成せば、それだけで珍しい部類に入るだろう。

 僕の数世代上の方々にとってはざらにある家族構成かもしれないが、その七人がそれぞれ類稀なる美貌であり、才覚に秀で、さらにはこんな僕とそれぞれが大層仲良くしてくれるという、他人事ならば羨ましいとしかいう他ないこのシチュエーション。

 かなりの希少性で構成された人間関係といえる。

 僕は家が隣同士ということで、ご近所付き合いの一環でその姉妹達と出会ったのだが、そんな縁でもなければ、僕は彼女達の誰一人とも、互いの人生が交わることはなかっただろう。

 ふと彼女達がいない僕の人生というものを考えてみると、自分の生活の端から端まで、根底に至るまで、ささやなかな幸せとか、風情や彩り、甘酸っぱい青春や夢と希望といった何もかもが消し飛ばされるような恐怖心や虚無感に襲われる。

 もう僕は彼女達幼馴染、蓮獄れんごく家の七姉妹に、とっくの昔に脳髄を焼かれちまっているらしい。


 前置きが長くなってしまいました。


 とりあえずその幼馴染七姉妹を、順に一人ずつ紹介していこう。


 まずは長女である蓮獄るりあさんだ。


 年齢は二十一歳。どうやら社会人として労働に勤しんでいるようなのだが、職業の詳細は不明である。何度か尋ねてみたのだがその度に軽くあしらわれている。

 ちなみに他の姉妹の皆も、彼女の職業をよく知らないようで、以前ちょっとした好奇心かられいあちゃんとるりあさんを尾行をしたことがあるのだが、簡単に露見してえらい目にあったことがある。

 肩まで伸びた黒髪の長髪は、どんな手入れをしているのか、絹のようにきめ細やかで一種の芸術作品のような印象をうける。

 切れ長の瞳で見つめられると、年上の幼馴染とはいえ、いまだに僕は少し萎縮してしまう。

 高嶺の花を擬人化したような高貴で凛々しいお姉様である。


 ──ちなみにこれは誇張表現ではなく、僕は本当にるりあさんのことを本人の前では“るりあ姉様”と呼んでいる──正確にはそう呼ばされている。


「ねぇ理玖、貴方はいつになったら私のことを、姉様と呼んでくれるのかしら?」


 中学二年生の夏に、るりあさんから面と向かって言われた時は正直「何言ってんだこいつ」という率直な疑問が胸中渦巻いてはいたのだが、数巡の思考の刹那、何故だか当時の僕は「あぁ、これはとんだ無礼を働いてしまった!」と本気で焦り、そこからは敬意と親しみを込めて、るりあ姉様と呼ばせていただいているのである。

「あぁ、いけないわ。活字だと分かり難いからちゃんと伝えておくわね。姉様あねさまではなく姉様ねえさまと呼んで欲しいのよ私はね」

 そんなことを真顔で補足してきたるりあさんだったが、僕が素直に姉様とお呼びしたのをうけて、

「──悪くない。やはり悪くないわねこの呼び方は。凄くしっくりくる──はしたないけど私、今かつてないほど興奮してるわ」と思わず見惚れてしまう麗しい微笑を浮かべながら悦に浸っていた。

 妹が六人いるという立場ではあるが、母性が強いというようなタイプではなく、家長としての立ち振る舞いが目立つ彼女が時折見せる我儘や悪戯心、その子供っぽさのギャップがたまらないお姉様なのである。


 普段から表情があまり変わることなく口数が多いわけでもないので、少し触れがたい雰囲気を醸しだしているけれど、しかし彼女の妹達や僕は、頼りになる大人として彼女を心の底から敬愛している。

 僕が物心ついた時には既に蓮獄家のご両親は他界しており、金銭面では余裕があったようで困窮はしていなかったものの、七人姉妹の長女として家族を守り導いてきたのは彼女だ。

 今蓮獄家が円満で円滑に家族生活を行えているのは、彼女の存在が大きいだろう。

 個性豊かな姉妹達をまとめあげる手腕は見事なものだ。

 けっして甘やかすこともなく過干渉をする事はないけれど、求められた時にそっと黙って側に寄り添ってあげる彼女の優しさが、僕はとても素敵だと思う。

 

 ただるりあさんも冷徹な一面があり、以前あすはが拙いながらも腕によりをかけ頑張って作った料理を一口食べて「とてつもなく不快な味わいね」と平然と酷評し号泣させ、すずねと対戦格闘ゲームで遊んだ時には、すずねが必死に体得した攻撃コンボをあっさりと模倣し「こちらの方が効率がいい」とハメ技を駆使して一方的に嬲り殺した結果、すずねは次の日の夜まで部屋から出てこなかった。

 本人に悪気がないのでタチが悪いけれど、まぁ、それも茶目っ気なのだ。

 泣かした二人から「嫌い!」と捨て台詞を吐かれた時はしっかりショックを受けていたので、家族への情愛は深いのである。

 そういう一種の不器用さも、るりあさんの愛らしい要素だ。


 ちなみに好きな食べ物は冷奴と意外に渋い。


 続いて次女の蓮獄まもさん。


 年齢は二十歳。三女のさゆ姉は双子の妹。

 詳しい事はわからないが株取引などで生計を立てている投資家であり、蓮獄家で屈指の財力の持ち主である。

 職業柄日頃から家の中にいることから、優秀な自宅警備員業務を兼任しているかなりのやり手だ。


 まずこの人は、ずば抜けて頭が良い。

 他の姉妹と比べるまでもなく、僕が今まで知り合った人類の中でもっとも知能指数が高い人だと断言できる。

 まもさんにとっては役不足極まりないが、僕も何度も勉強を教えてもらったものだ。

 ちなみに中学生の頃、素因数分解を教えてもらっていたはずが、いつの間にかバーチ・スウィンナートン=ダイアー予想という、ミレニアム懸賞問題の解法についての独自理論へと話が飛躍していたことがある。中学生レベルの数学からどうして数学界の最難関級の問題に着地したのか、そもそも彼女が終始何を言ってるのか、当時も今も全くもって理解不能であるが、かなり明晰な頭脳の持ち主であることは疑いようがない。

 直感派で感情の起伏が激しい双子の妹であるさゆ姉と比べると、まるで対照的な印象を受けるクールビューティーなまもさんだが、そこは流石双子というべきだろうか。

 お互いがお互いの良き理解者であり、かなり仲の良い姉妹である。

 髪を下ろすと腰まで届くほど長い髪のまもさんの髪型をセットするのはさや姉の日課らしく、まもさんは毎日髪型が違う。

 ちなみに僕が一番好きなまもさんの髪型は、編み込んだ髪を冠のように頭に巻きつけたクラウンブレイド。

 どんな髪型も似合うまもさんもさることながら、多種多様な髪型のセットアップを行えるさゆ姉の技量も大したものだ。


 そんなまもさんだが、実はお酒に酔うと別人かのように豹変するという弱点がある。


 昨年の彼女とさゆ姉の二十歳の誕生会にお呼ばれされたのだが(というか煉獄家での誕生日会には毎回お誘いがかかる)その席でまもさんとさゆ姉が初めてお酒を口にすることになった。当然未成年である僕やれいあちゃん以下未成年組の妹達四人はアルコールを摂取する事はできないので、成人済みのるりあさんが一緒に付き合うことになった。


「わたしは知らなくてはならないんだ。自身のアルコールの“許容量キャパ”というものをね」


 そんな風に語っていたまもさんだったが、美味い美味いとどんどんと飲み干していくさゆ姉とは対照的に、三百五十ミリリットル缶のビールを半分も飲み切らないうちに、すっかりデキ上がってしまった。

 顔が紅潮し目の焦点が定まらずトロンとした顔貌。まさかこんなに下戸だったとは。こうなってみると自身の体質を事前に確認しておこうというまもさんの考えは、実に得策だったといえる。


 しかもさらに意外だったのは、まもさんが所謂“カラミ酒”気質だったことだ。

 るりあさんに抱きつきおんぶを強要。

 さゆ姉と肩を組み大声で熱唱。

 れいあちゃんの服を剥ぎ取ろうと試みる。

 あすはの胸を揉みしだく。

 こるるの隠していたおやつを勝手に食べる。

 すずねにヨシヨシと頭を撫でてもらう。

 そんな普段のまもさんからは考えられない所業の数々は僕の膝枕の上で彼女が眠りに落ちたことで収束した。

 そのまま姿勢を崩す事はできず、膝枕をしたまま一晩を過ごしたことは、今となっては良い思い出であるが、翌日にまもさんにはさゆ姉を除いた姉妹一同から禁酒命令が下された。

 本人は泥酔時の事はまるで覚えてなかったようで、僕の膝の上で目を醒ましてからもしばらくは意識が希薄だった。本人の名誉のために皆何が起きたかの具体的な詳細は伝えていないが、まもさんもなんとなく察したようで、それ以降お酒とは距離を置いているようだ。

 ちなみにザルだったさゆ姉だったが、初めてということでかなり余裕のあった許容量をオーバーしたらしく、彼女も飲酒後の記憶を喪失していた。

 まもさんの痴態を自分だけ覚えていないというのが不服らしく、さゆ姉はいつかまもさんにお酒を飲ませようと画策しているらしい。恐ろしいことだ。

 だが、僕としては酔っ払い幼児退行していたまもさんが、普段とのギャップでなんだか無性に可愛らしく、たまにあの姿が恋しくなるのはここだけの秘密だ。


 さてお次はそんなまもさんの双子の妹である三女、蓮獄さゆさん。


 年齢は二十歳。次女のまもさんは双子の姉。

 アルバイトをしている俗に言うフリーターで、職を転々としているようだ。

 小器用な人なので、大抵の事はこなせるが結構な飽き性でもあるので、それが故このようなワークライフなのかもしれない。

 僕が把握している時点では、近所のショッピングモール内のインテリア用品小売店に勤務していたはずだが、今も同じ職場だろうか定かではない。


 彼女は束縛されることを何より嫌う自由人で、姉妹でもっとも感情豊かな女性である。嬉しい時には歓喜に打ち震え、怒った時は怒声を響き渡らせ、哀しい時には哀傷に沈み、楽しい時には楽境に至る。

 そんな姿を見ていると、周囲の人間も思わず彼女の感情に引っ張られてしまう。

 その場の雰囲気を飲み込んでしまえる程、存在感のある人なのだ。

 るりあさんやまもさんと比べると子供っぽく、妹達とよく喧嘩をしていることもあるけれど、家族のムードメーカーである彼女を見ていると僕もかなり元気を貰える。

 妹達も、まるで友人の距離感で彼女に接しており、相談などもよく持ちかけるらしい。上二人と比べると気軽に話し易いからだろう。

 僕も“さゆ姉”なんて砕けた呼び方をしているくらいだ。

 喧嘩するほど仲が良いを体現していると言えるほど姉妹と積極的な交流を図っている彼女だが、姉であるまもさんには特にデレデレで、仲睦まじい様子が多々見られる。実は結構な頻度で今でも二人で入浴するらしい。この二人には互いに、他の姉妹へ向けているものよりも、さらに一段深い親愛の感があるようだ。


 前述した通り、まもさんの髪型を毎朝セットするのがさゆ姉の日課だ。

 飽き性の彼女だが、この日課はもう十年年以上も続いている。

 まもさんが仕事でパソコンの画面と睨めっこしている時もお構いないで、まもさんもさも当然のことのように身を委ね髪を手入れされている。

 たまに他の姉妹の髪型もセットしてあげている彼女だが、自分の髪型は「これが一番楽ちんだから」とここ数年は鎖骨に少し触れるくらいの軽いウェーブをかけた赤色混じりのミディアムヘアで一貫している。気分次第で細かなアレンジを加えられるから丁度いいらしい。


 感情豊かとさゆ姉のことを評したが、彼女の傾倒している“ギャンブル”においては、激情家の中で渦巻いている溢れんばかりの“怒り”が顕現する。


 悪癖とも言えるほど、さゆ姉はギャンブルが絡むと狂気的な熱量を孕み、そして行き着く先が烈火のような怒りなのである。

 競馬競艇競輪オートレースの公営ギャンブルは勿論、パチンコにスロット、麻雀や花札にポーカー、古今東西ありとあらゆる賭け事に精通しており、それらに臨む時のさゆ姉は完全に“勝負師”だ。目の奥に光はなく、その瞳の中の漆黒は勝利を渇望し、それ以外の瑣事には微塵も興味を示す事はない。

 普段の溢れんばかりの感情が欠落というよりも、元々この人にはそんなもの備わっていないのではないかと思えるほどの人の変わりようだ。


 ただここで誤解がないように付け加えておくと、さゆ姉はギャンブルで敗北したことに対して憤るのではない。その怒りの矛先は敗北した自身へと向けられる。

 人が強い怒りを抱いた時、他者や物に当たり散らしてしまうのは、その怒り──謂わばストレスを抱えることに耐えかねて、その原因を発散するために、つまり自衛のための防衛手段であるはずだ。


 しかし彼女はそれをせず、自身の身を焦がしていく。

 しかも勝った時、彼女が喜びを露わにすることはない。

 結果は過ぎたことだと、次の勝負を見据えているからだ。


 なんと不器用な人なのだろう──と僕はいつも思う。


 感情が豊かということは、感受性も人より鋭いのかもしれない。

 だから僕が想像するよりも、ギャンブル勝負によって彼女に生じる心的負荷は軽くないのだろう。

 それなのに勝利の美酒に酔うことが出来ず、敗北の苦汁が舌から乾くことはない。

 ギャンブルを辞めればいいだけの話ではあるのだが、さゆ姉の勝負師の血がそれを許さないのかもしれない。


 ちなみにひとたび勝負となれば、彼女は姉妹だろうと容赦はしない。

 当然、僕に対してもだ。


 過去にさゆ姉、れいあちゃん、あすは、僕の四人で卓を囲み麻雀をしたことがある。勿論金を賭けることはない、健全なテーブルゲームとして“だった”。


 何半荘か終えたところで、あすはが(おそらく)冗談で脱衣麻雀を提案したところで、さゆ姉の目の色が変わった。


「一応確認するけどさ。三人とも大丈夫ってことだよね? 


 そのさゆ姉が発言した瞬間、さっきまでお遊びだった場の雰囲気が一変し、緊張感と恐怖、うっすらとした寒気と何処からか立ち昇る熱気が入り混じった“勝負の舞台”になった。

 勝負の詳細はここでは割愛させてもらうけれど、今なお鮮明にあの日のことは脳裏に刻まれている。

 心理的外傷トラウマという形で。


 そのことはさておいて、四女の蓮獄れいあちゃんの紹介に移ろう。


 年齢は十九歳。現在某私立大学に通っている。


 れいあちゃんは空手の達人である。

 そんな大袈裟な説明が全く誇張表現にならないほどの、圧倒的な武力を彼女は有している。

 少なくとも平均的な男子高校生の運動能力、体格である僕が死力を尽くしたとて、彼女を腕力で制圧することは非常に困難。無謀というものだ。

 この世のどこかにいるといわれている僕のドッペルゲンガー三人を、否、五人を総動員して勝負を挑んだとしても、その実力差を覆すことは不可能だろう。


 蓮獄家で最強の戦闘力を誇る彼女はその実力によって、名門私大のスポーツ推薦枠を勝ち獲り、現在進行形でその肉体と技巧を研ぎ澄まし続けている。

 僕と初めて会った時れいあちゃんは八歳だったが、その頃には空手を習っていた。

 現在のポニーテールとは異なり当時は短髪だったので、その容姿と活発で男勝りな言動から、まるで少年のようだった。

 実際僕は彼女のことを初対面では男の子だと勘違いしてしまい、幼かったとはいえ非礼を働き、彼女にこっぴどく叱られたことがある。

 あれから十年以上経ったが、未だにそのことを掘り返されることがあるくらいだ。

 そんなれいあちゃんも今ではすっかり女性らしくなり、オシャレもしっかりこなすイマドキ女子になっている。

 百七十センチを超える長身とスラリとした長い手足は、まるでモデルのように抜群のスタイルで、実際ファッション雑誌からモデルのスカウトもあった。

 『美人すぎる空手少女』として一時期メディアにも取り上げられていたりもした。


 しかし推薦で進学している以上、アスリートとしての行持も忘れておらず、毎朝のジョギングや日々の筋力トレーニングも欠かすことはない。

 流石に中学高校の頃と比べると熱量は落ち着いたように見えるけれど、元々根が真面目でストイックなので、もはや息をするかのような当たり前の様子で、わりかしハードなメニューをさらっとこなしている。

 食事にも気を配っているようで、蓮獄家の食事を統括しているこるるに頼んで、糖質を極力減らし、野菜とタンパク質を意識した専用メニューを用意してもらうこともあった。一時期はエスカレートし茹でたブロッコリーと人蔘に鶏胸肉、それと胡桃だけを摂取し続けていたこともあったが「いい加減餌じゃなくて、食事を摂れ」とこるるから苦言を呈され、その剣幕に気押されたのか今は他の姉妹と同じ献立を食しているようだ。食事を何よりも至福に感じているこるるからすると、れいあちゃんの所業は食への冒涜と同義だったのだろう。


 大した成績は残せていないが僕は中学まで野球をしていたので、よくれいあちゃんのトレーニングに同伴したりしたが、その時から彼女の肉体、運動能力には驚かされてばかりだ。

 つい最近も一緒にスポーツジムで汗を流したのだが、その時に見た彼女のギリシア彫刻のように美しい腹筋があまりに見事だったので、男友達に強請るような感覚で触らせて欲しいと頼んだら、鳩尾に手痛い正拳突きの一撃を貰ってしまった。

 手加減はしたのだろうが、一瞬彼女の拳が僕の腹を貫通したのではないかと錯覚するほどの衝撃で、彼女の衰えぬ武力を思い知らされた。

 「女の子の身体に気安く触ろうとするな!」と顔を赤くして僕を責め立てていたれいあちゃん。別に疚しい気持ちなど一切なかったのだが、どうやら彼女を誤解させてしまったらしい。

 彼女は小さい頃、外で遊ぶ時は僕や妹達のリーダー格で、いろんな遊びを通じて仲を深めたためかこの年齢になっても距離感があの頃となかなか変わらないので、こういったやりとりはこれまで日常茶飯事だ。


 恥じるべきところなどないように鍛え抜かれた肉体であるれいあちゃんだが、他の姉妹と比べて胸が小ぶりということを、彼女は本気で気にしているらしい。


 僕と同い年であり、れいあちゃんの三歳下であるあすはが小学五年生の頃にれいあちゃんのバストサイズを超えた時。どうやられいあちゃんの中で何かが壊れたらしい。世の胸部が豊満な女性を敵視し、あすはよりもさらに年下であるこるる、すずねの発育が順当に進んだ今となっては、彼女の前でこの世全ての“乳”という概念について気安く触れることは、僕や蓮獄家周りではタブーとなった。


「そもそも子供を育てることができればおっぱいなんて要らないわけ。巨乳とか、全然羨ましくないし。脂肪とか悍ましくてたまんないし。女の価値がおっぱいの大きさで決まるなんてそんなの間違ってる! 感度ならわたし誰にも負けないからぁ!」


 かつて僕とあすはの前でそう叫んだれいあちゃんの目には、一粒の涙が浮かんでいたのを、僕は見なかったことにした。 


 少し長くなってしまったので、蓮獄家の残りの三人については、またの機会に語らせてもらうとしよう。


 

 

 

 

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