汝の隣人を愛せよ?

義龍 顎

第1話

今、俺は取調室にいた。

刑事の前で居心地悪く座りながら、周りを見回す。

緊張しながら声を出した。

「ええと、なぜ俺はここに呼ばれているんでしょうか?」

目の前の刑事さんが口火を切る

「貴方がネットで描いた話が、先日起こった事件と酷似しているからなんですよ。

酷似‥いやそのままと言ってもいい。

〇月×日はどこで何をしていましたか?」

「家にいましたよ、PCで漫画描いてて‥。一人暮らしなので証明できる人はいませんが‥。」

「質問を変えましょう、あなたは何故この話を描いたんですか?」

「そりゃ電子書籍漫画とはいえ、浮かんだものを描いているだけですよ。」

「先日こういう事件が起こった事はご存知ですか?」

「ニュースで見ましたね、うろ覚えですが‥

漫画描いただけですよ、何が悪いんですかー。」

漫画描いたのが事件と似てたってそんなもん俺に言われてもなぁ‥

ふと左前に立っているスーツの刑事の手を見ると、高そうな時計をしているのが見えた。

今時の刑事ってのは稼ぎがいいのかね、見るからに高そうな‥

はたと、見覚えのある時計だった事に気づく。

漫画で描いた時計と同じじゃんか、そんなこともあるんか‥

ふとそこで思い出す。

あんな凝った時計何で俺資料も無しに描けたんだ・・?

一気に描き上げた記憶が蘇える。

あの日は酒飲んで寝た後、珍しく浮かんできたのを忘れる前にと急いで描き上げたんだった。

ねぇ刑事さん、と左前のスーツの人に話しかけた。

その人は何も言わず立ち尽くしている。

目の前の刑事さんに視線を戻して、

「あなたも何か言って下さいよぉ。俺はただ漫画描いてただけですってば。」

と言うと、怪訝な顔をされた。

「誰に言ってるんです?」

左前の人を指さして、

「え、この人」

「そこには誰もいませんよ?」

「え、いるじゃないですか。紺のスーツ着て黒い縞のネクタイ締めた人。

 刑事さんの同僚かなんかでしょ?」

「…その人の顔はどんな感じですか?」

「ちょっと書くものくださいよ、変なこと言うなあ。」

刑事さんの後ろの人から紙とペンをもらい、左前の人をちょこちょこと描いてみる。

こういう時、漫画家っていうのは説明するのに楽だよね。

「こんな感じですね。」

受け取った刑事さんの顔色が変わった。

「そこにその人がいるんですか、本当に?」

「いますよ、何でですか?変な事言わないで下さいよもう!」

「ちょっとこの写真見てもらえますか‥。」

一枚の写真を出されたものを覗き込む。

「あれ、この写真の人この人??」

左前に立つ人を指さした。

「いるんですか…。」

躊躇いながらゆっくりと話し出す

「その人はこの事件の被害者です、生きていません。」

「は???いやいやいるじゃないですか、冗談はやめてくださいよ怖いこと言わないでくださいよ!」

「ではその人に聞いてみてください、誰に殺されたのかを。」

目を見開いて左前の男を見た。

相変わらず何も言わず立ち尽くしている

「え、なになになに!?冗談やめてくださいよマジで!!

貴方も冗談だって言って下さいよ!!」

左前の人の胸元に手を当てた

はずだった。

自分の手はその人をすり抜けて、ひんやりとした空気が触れた

瞬間、悲鳴を上げて思いっきり後ずさった。

「これは本当にいるのか‥」

自分が手を伸ばした人の所に、刑事さんが歩いてその人の所に立った。

重なるその姿を見て、血が音を立てて引いた

「何でここだけ冷えてるんだ‥。」

「刑事さんが思いっきり…その人に重なってます…。」


二人同時に 取調室に幽霊連れてこないでくださいよ!!


それが、始まり。






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